#5 防具屋【飛ばない猫の為の店】!(2)
お店は雰囲気も大事ですよね。
【飛ばない猫の為の店】はその辺どうなのか?
※
ナナ・クゥも扱ってるらしい防具屋、その名も【飛ばない猫の為の店】へとやって来たあーしとドナキロ。
実を言うと最初『武器と防具』なんつー言葉には、基本大半がむさ苦しいんだろーなって感じがしてたんだけど……。
ところがどっこい、実際の店内はあーしのイメージとはちょっと違ってた。
木製人形に着せる形でディスプレイされてる商品達が有るのはトーゼンとして、その合間には見る客の目を潤わせる観葉植物が置かれてたりとかしてたんだ。
なんていうか、結構シャレた雰囲気醸し出してるのな。
「へーえ」
品揃えも凄え。こう『ヨロイッ!』って感じの鎧も有れば、着れば思わず『ヒッヒッヒッ!』って笑い出したくなるよーな魔法使いの衣まで揃ってるぞ。
あーしが食い入る様子だったのに気付いたドナキロが声を掛けてくる。
「ここの店主は人間だが中々凄いおっさんなんじゃい。なんでも元凄腕の冒険者だったとかで、引退してからは自分の後輩に当たる若手の冒険者がなるべく死なんようにと、ここで多種多様な防具を売ってるというワケなんじゃい」
「おー、なんかカッケーな。あーし的にはその後輩の中に、キラキラした女がちゃんと含まれてる風なのがイイって思うぜ。……仮にそのコーナーがちんまりしててもな」
そう答えて、あーしはそっちの方へと目を向けた。
ドナキロにも『見な』とアゴで指し示しながら、な。
そこでは同じく木製の人形が防具を付けて立ち並ぶが、その防具の特徴が他とは大きく違ってた。
どれもこれも一見ニホンのレディース服っぽい構造で、それでいて上着のどれもこれもが怖いもの知らずかって位に彩度が高くて。
その派手な高彩度の生地が見る側にめちゃくちゃ主張してきながら、けど一方では逆にカモフラージュの役目を担うかのように、ファンタジーみ溢れる肩当てやら脛当てやらを服の上に違和感無く装着させてて。
そしてその肩当ても脛当ても、一揃えによっては服の上に更に纏っている厚手の外套も、全部が一貫して形状が内向き――丸みを帯びてたんだ。
防具としての能力と、全く守りに入らず何処までも可愛らしさや優雅さを表現させた外観とが融合してる。
……間違いねえ。これが、ゼルトユニアの防具業界に彗星のごとく現れ『最先端を冒険する女のオシャレ』を提唱した――サイジョウ・ナナカのブランド【ナナ・クゥ】の防具だ。
ただ……。
物凄く華やかなオーラを放っている筈のそれらはさ、ぶっちゃけ他の客からは人気が無さそーだったんだよなー。
今目の前で、同じくナナ・クゥの鎧を見てる女の客二人組の話が聞こえてくる。
「ねーこの鎧だったら戦士のアンタには着られるんじゃない?」
魔法使いっぽい女が連れの戦士風の女にそー薦めてるけど、当の本人はシブ顔だった。
「無理よ、むーり。確かに胸当て部分とか曲線系で、そういう女の体型まで計算して作られてるのは良い感じだけどさ。でもこのテカテカしたピンクの色味がもうぶっ飛び過ぎてるわ」
「うーん。でもピンクだけど大分ホワイト寄りだしさ、そこまで浮く感じでも無いと思うけど」
二人が言ってる色味を補足すると、明確にはパールピンクって言い表すのが正しい感じだ。
元々の色調的にはどっちかってーと淡い部類に入ってる。『テカテカ』してるのは最初にあーしが言ったよーに、色の彩度が強気だから。
でも濃いピンクとは違うから、しっかりと見れば目立つだけじゃなく上品さだって醸し出してる色使いなんだぜ。美人なら或る程度トシいってたってバシッと決まる色合いだ。
簡潔に言うなら『オトナ可愛い』ってやつだ。可愛いっていう概念は、何も子供だけのもんじゃない。
それでも――
「うーん。それでもこの左の肩当てに施されたバラの意匠とか、私には派手よぉー……。なんでわざわざこんな所に付けるの? ここに付いてたって防御力は変わらないし、それになんで片側だけなの? 両側じゃない意味は何?」
――戦士の女は絞り出すよーにそんなことを言って、結局は魔法使い女の薦めを断っちまう。
……コーナーから去ってく二人を見ながら、あーしは悶々とした気分になった。
なんだよあの戦士女、ホントは着てみたかったクセによー。『オトナ可愛い』を体感してみたかったクセによー。
なんだかんだ体裁気にして理由付けてたって、あーしには分かるんだかんな。背中から未練オーラ出てるの丸分かりなんだかんな。
魔法使い女もきっと分かってたから、あれだけ推したんだろ。良い仲間じゃねーかよ。
「なードナキロ!」
「な、なんじゃい?」
「あの戦士女、ルックスとか可愛かったよな」
「可愛い、か。確かに美人だったが、ワシには可愛いと言って良い年齢には見えんかったんじゃい……」
本当に悪気無く、ドナキロはそう答えて頭を掻いた。分かるよ、コイツの感性からしたら『美人』って言った方があの女への素直な褒め言葉になると思ってるワケだ。
それはそれで正しいぜ。
「まーな。多分二十台後半だ。でもなドナキロ、あーしは可愛いって概念は女にとって一生ものだと思ってる。『綺麗め可愛い』『カッコイイ可愛い』『陰キャ可愛い』、どんなタイプの雰囲気にもくっ付いて決して離れねー。表の雰囲気の奥側から、女の内面から滲み出るのが『可愛さ』っていうもんなんだってな」
「う、うむ?」
「あーしはまだ防具についてそこまで分かってるワケじゃねーけど。でもこの鎧が見た目で表現してるものについては分かるぜ」
あーしはさっき戦士女が言ってた、肩当てのバラの意匠にそっと手を当てた。
「このバラはな、この鎧を着る女の――前線で戦うオンナの溢れる高い生命力ってヤツを表してんのさ。だから左側なんだ、生命力の源である心臓に近い位置にする為の左側一点決め。『戦うオトナのオンナ可愛い』の象徴としてのバラの意匠。その防具はそこまで考慮して構造が決められてるんだよ」
「ぐ、ぐむぅ。すまんがワシには難し過ぎるんじゃいぃ……」
ちっ、ドナキロじゃあーしの話に付いてこれねーか。可愛いの道は確かにすっげえ奥が深いからな。仕方ねー、か……。
けどそこに――
「俺には分かるぞー。ニホンからの可愛い新人さん」
――声質は汚ねーダミ声だけど、言葉には相手への気遣いが籠ってるって感じの、なんかイカしたヒゲのおっさんが来た。
――(3)につづく!――
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