#5 防具屋【飛ばない猫の為の店】!(3)
余談。
冒険者は気ままな猫のようである、しかしホントの猫程機敏じゃないから防具は必要だろ? ってのが、この店名の由来です。
「……おっさん誰よ?」
「ぶわっはっは。その初対面の目上相手にもタメ口きいてくるの、如何にもニホン人転移者って感じだな。だが俺は嫌いじゃないぜ。弱気な所為で自分や仲間をすぐ死なせちまうようなタマよりゃ、ここの客としては遥かにマシだからな。ぶわっはっは」
うわ、このおっさんなんかめっちゃゴーカイに笑ってるんだけど。
でもノリは良さそーかな。あーしもそーゆーおっさんは嫌いじゃねえよ?
ドナキロが「この人がここの店主なんじゃい」って耳打ちしてくる。お前その図体で耳打ちする為にしゃがんだら相手からはモロバレだぞ。
「ふっ、俺のことでも聞いたか? そう、俺がこの【飛ばない猫の為の店】の主――ベルナードだ」
ほらみろ。でも愉しげにニカッと笑ってるし、細かいことは気にしねータイプのおっさんっぽいな。
「その鎧にはあのナナカの防具デザインに対する理念が詰まってるのさ。露出度が無駄に高くなく、身を護る力と、そしてそこに更に――女ならではの精神力の脈動を戦う活力へと、例えほんの僅かでも転換させようっていう思いが乗っかってる。それがナナカのブランドの特色なんだ」
「ナナカのって……。おっさ――いやベルナードはサイジョウ・ナナカに直接会ったことでもあんのか?」
わりいと思いつつナメられない為にタメ口はぜってー崩さねーけど、名前教えて貰ったからにはちゃんとそっちで呼ぶよーにするぜ。
「おうよ。ナナカはデザインの実力は有るが今は取引先が付いてない、言わば在野職人。だから今でも時折ここに自分の新作を売り込みに来る」
「売り込みぃ!?」
んだよそれ、なんか、想像してたよりも華やかさに欠けてるっつーか……。
「こんな良い防具作ってるなら、もっと売れっ子ってヤツじゃねーのかよ」
だけどベルナードは首を横に振った。
「さっきの女戦士も気に掛けはしても結局買わなかっただろ? 良い品物作ったからって、それだけで売れるってもんじゃあない。もう一歩、『良いね』っていう感想から『買う』って気持ちにさせる為の、波に乗らなきゃあいけねえのさ」
その言葉は、あーしの心にめっちゃ含蓄の有るもんとして響いた。
「俺もナナカにはもっと日の目を見て欲しいと思ってる。だから今は売れなくともアイツの防具を置いてる。――そこにお前さんがやって来た」
「リノンだよ。そう呼んで」
あーしは熱くなりそーな心をグッと抑えて、自分で優しいと思える声色でベルナードにそー言った。
「そうか。リノンちゃん、アイツの品を良いと思ってくれるんなら、せめて一点買ってってくれねえか? アイツもきっと喜ぶからよ」
ベルナードの言葉は、本当にナナカを思ってのものだってあーしには分かった。
けどさ、それ……。
……思いとしては、弱えーよ。
「ああ、ここではナナ・クゥの小物を一点だけ買う」
「そうか。それで十分だぜ」
「十分じゃねえっ!」
あーしの怒鳴り声に、ドナキロもベルナードも驚いたけど――。
でもごめん。あーし、ちょっと火ぃ付いちまったんだ。
「ベルナード、ナナカはこの街に普通に居るんだよな?」
「ああ。アイツはこの街の、とある工房に住んでるからな。――リノンちゃん、アンタ一体何を考えてる?」
「あーしは、ナナカに直接あーしの聖女服を特別注文する!」
「じゃ、じゃい!?」
「聖女服!? い、いやそれよりも、いきなりでそれは思い切った行動過ぎるってもんだぞ!」
んなこた最初から分かってんよ。けどここでナナ・クゥ防具一揃えを買ったとしても、それだけで『波が来る』とはあーしには到底思えねえっ!
「その出来た特製の服を着て、そんであーしはファリシア教の聖女として正式デビューすんだ! ナナカの名前もそん時同時に広めてやるっ!!」
少なくとも話題の切っ掛けにはなる筈だ。いや、ぜってー波に乗せる位の気持ちでいく。
自分がまだ防具業界のことをよく分かってねーとか、聖女としてまだなんも実績積んでねーとか、ナナカ本人からしたら逆に『誰だよこのリノンってヤツ』ってなっちまいそーとか、そんなの、一切関係ねーっ!!
このあーしが気に入ったんだ。だから――!
「サイジョウ・ナナカ。あーしがアンタを救ってやるぜえーーー!!」
飛ばない猫の為の店中に、あーしの叫びが木霊してたぜ。
――#5 おわり!――
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