#3 転移して10分でバトる!(2)
イケシブ(渋)ダンディーなデゼル司祭。
でもちょっぴりお茶目さんでもありますね!
※
通路を歩きながら、あーしはデゼルから話を聞いた。
どーやら礼拝の間って所で今魔物が暴れてて、その所為でうるさくなってるらしい。
だけどデゼルはあーしを出迎える為に、さっきの部屋から動けなかったんだとさ。
なんでもイマドキの魔物は、めっちゃ人間との距離が近いらしくって。
大体のヤツは人の言葉をフツーに喋るし、元が人間に近い風貌の亜人種に至っては友好的なヤツも居て、街に来て飲み食いしたり大衆向けの店でなんか買ってく位はしてるそーだ。
「よく分かんねーけど、まあ同じ人間でも仲良いヤツも居りゃ悪いヤツも居るしそれと似たもんだと思っとけばいっか」
「ふふっ。その軽いノリ、あのファリーリー様が気に入られるワケですな」
「デゼルもあいつと直接話したことあんの?」
「はい。並の者では例え信心厚くとも、神の威光を直に浴びては精神が崩壊してしまうものです。故に神託の形で間接的にその意思を感じるのが通常。――しかし私は並ではありませんから、神も特別にお姿を見せるという訳です」
「ふーん。ハッキリ言うじゃん、逆にスカッとするわ」
最初は天然入ったただのおっさんかと思ったけど、どーやらこの人ガチに神経図太いタイプっぽい。
なんつっても背中からめっちゃ頼りになりそーオーラが滲み出てる。
――でもって、あーし達は礼拝の間に到着した。
だいぶ広い空間で、祭壇だとか礼拝者用の複数の椅子だとかが有る。
「うわああああ!」
「ぶぺええええ!」
なんかいきなり寺院の修道士が二人吹っ飛ばされてるんだけど。
そのまま壁にどぱーんと激突する。なるほど、この音が響いてたんだな。
「魔物一体抑えられんとは、もっと練度を高めねばならんな」
デゼルがなんか言ってるけど、あーしは今は魔物の方にキョーミが有るわ。
「おいっ、そこで暴れてるお前!」
あーしがソッコーで魔物に声を掛けると、ソイツはゆっくりと振り返ってきた。
フツーの人間の大人より二回りはデッカイ、上半身裸で緑色した肌でおハゲな、亜人種ってやつの一種――。
ヤツだけじゃなくてまだ無事な修道士達も、あーしを見てなんかめっちゃ驚いた顔を見せてきてる。
「おお。あれが、ニホンからの聖女様か!?」
そーだよ。まあアンタ達への挨拶は後でゆっくりとさせて貰うからさ、それまで待っててくれ。
「ここは皆が神に祈りを捧げにやって来る場所だぞ。それをぶち壊すよーな真似してんじゃねーよ、この魔物が! ……ところでデゼル、コイツなんて種族なんだっけ?」
「オークです、リノン様」
「それだっ。他人様に迷惑掛けてねーでさっさと手前の家に帰れ、このオーク野郎!」
オーク、ガチムチで強面で如何にも『脳ミソ筋肉』って感じなコイツに、指突きつけて言ってやる。
「……オークが神に祈ってはいけないって、一体誰が決めたんじゃい」
「え?」
オーク野郎はなんかやたら真っ直ぐな目しながら、静かにそう言い返してきやがった。
なんか思ってた反応とちょっと違うぞ……。ただのバカな脳筋ってワケじゃないのか?
「元々ワシはな、ちぃとばかしここで礼拝させて貰えたらそれで良かったんじゃい。それをここの連中が碌に話も聞かず追い出そうとしてきおったから抵抗したまでなんじゃい」
「……そ、そうなんじゃい?」
やっべ、あまりの落ち着いた迫力に思わず語尾が移っちまった……。
周りの修道士達は床で寝そべってるかブルッちまってて、まともに話聞けそーな状態じゃねえし。
デゼルの方に振り向いてみると。
「ふむ。確かにその通りです……じゃい」
いやオメーも語尾合わせていくんかーい――って、今はそこにツッコんでる場合じゃねえ!
「ちょっと待てよっ、だったら別にコイツは悪くないんじゃねーのか!?」
だけどデゼルは首を横に振る。
そんでなんかめっちゃ含みのある感じの目で、あーしにこう言ってきやがった。
「暴力に圧されたから引き下がる、などという態度は取れません。今までこの寺院が、亜人種の礼拝を赦せる程の度量を有してこなかった事にも問題は有りますが。――そう。今までは、です」
……マジにめっちゃあーしのことを見てきてる。まるでなんか他にも言いたいことが有るみてーに。
「……」
あーしは改めて今の状況を見渡してみた。
修道士達はビビったままだけど、それだけだ。敢えて黙ってみせてるデゼルと違ってなんの主体性も感じねー。
でもだからって、このままあーしが『オーク野郎をゆるしてやれよ』っつっても、きっと腹の中で恨み辛みを溜め込んじまうだけだろう。
こーゆーヤツらを納得させんのが一番ムズカシーんだよな。学校のクラスでもそんな感じだったからそこは分かるんだ。
オーク野郎はオーク野郎で、なんかもう引っ込みが付かなくなってるって感じで。
もしあーしが『だったら祈りでも何でもしていきなよ』って言葉で調子を合わせてやったとしても、多分この場の空気じゃ『もうそんな気分になれない』って感じで余計意固地になっちまうだろう。
いや、『なれんのじゃい』かな?
だったら――。
「ちっ、しゃーねーな」
あーしは前へと出てく。
こーなったらコイツのテンションを一旦サゲさせる意味でも、修道士達にあーしがこっちに転移した意味を早めに教えとくって意味でも、一度バトってみせるっきゃねーか!
「なんじゃい小娘。まさかワシの邪魔をしようという気じゃなかろうな?」
あーしに対して、野郎はこっちの肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
ゴツゴツして爪も尖ってて、あーしの細い腕じゃきっと為す術も無く力負けして襲われ放題になる……ってそー思うじゃん?
――違うんだな、これが!
「な、なんじゃいいいっ!?」
あーしの全身から勢い良く出てきたオーラの波動に、ヤローは思わず手を引っ込める。
「これがあーしの魔力ってヤツだよ。――どーだ、キラキラしてっだろ?」
眩く黄金色に煌めいてるぜ。自分でもちょっと驚いてるってのは内緒な?
ファリーリーからの貰い物の力とはいえ……へへっ。なんかめっちゃあーし好みの色してんじゃん。
更にっ。
「うおお!? そ、その手に急に出てきたそのデッカイ杖はなんじゃいーーー!!」
オークヤローがめっちゃ驚いた顔で見てる、あーしの右手に現れた特徴的な形の大杖。
「煌綺妙杖ベルサレェト――っていうらしーぜ」
「らしいぜ!?」
しゃーねーだろ。魔力も杖の存在と名前も、復活した時頭にすぅっと浮かんだものなんだからさ。
とにかくっ!
「オーク野郎、あーしがお前にごめんなさいって言わせてやんよ。話はそっからだ!」
やるからにはぜってー負けねえかんなっ!
――#3 おわり!――
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