エピローグ
農業が盛んなだけで、観光する場所も特にないルージュ村から一人の少女が旅立とうとしていた。
ルージュ村の門前には二人の少女と二人の少年がいる。
「本当にいくのねぇ……」
茶髪の少女が別れを惜しむように、真っ直ぐに伸びた癖が全くない黒髪をした少女の手を握る。
「うん……。やっぱり『私』は行くことにするよ」
「気を付けてください」
「分かってる。ナルミくんも元気でね」
ナルミと呼ばれた少年は今にも滴が零れ落ちそうな瞳を固く閉じる。
「これやるよ。俺たちからの気持ちだ」
大きな剣を背中に背負った少年が革でできた袋を差し出す。
「ずいぶんと多くない? 本当にいいの?」
革の袋からジャラっと小さな金属音が聞こえる。中身は確認しなくてもこの世界の通貨のリンであることが想像できる。
「わたしたちならすぐに稼げるから平気だよぉ」
「ですね。冒険さえしなければ、生活費くらいは楽に稼げますから」
「分かってると思うが、これはデスゲームだからな。本当に無茶だけはしないで、すぐに帰ってこいよ」
「そうだよぉ……。ここがひなちゃんの帰る場所だからねぇ」
「先にもとの世界に戻る何て嫌ですからね」
3人は旅立つものを送り出す気持ちよりも、引き留めたい気持ちが強いようだ。
「それじゃ、いってきます」
彼女が変わったのはあの日からだと朱莉は思い出す。
ゲーム開始から1年目にGMを名乗る東出から2つの情報がもたらされた。
1つ目は外の世界のニュースサイトを確認できること、2つ目がシナリオの進展についてだ。
ニュースサイトはゲーム開始の1月1日の正午から翌日、2日の正午までの分しか閲覧はできなかったが、絶望を知るには十分すぎた。
『いやぁぁぁぁぁー……。絶対嘘やけん! こんなんうち信じんけん!! ゆきは生きとうけん』
あの時の彼女の悲鳴は今でも耳に残っているようで、朱莉は固く目を瞑る。
ニュースサイトからもたらされた情報でデスゲームが本当に開催されていると知った多くのプレイヤーは停滞を余儀なくされた。
彼女たちも活動場所をフラリスからルージュ村へと移し停滞した。
しかし、その停滞をGMが許すはずもなかった。
それがストーリーの進展だ。
今までの1年はプロローグに過ぎず、まだ魔王は復活していなかった。所謂チュートリアルの世界だ。
それがあるプレイヤーがストーリーを進めたことにより、シナリオが1つ進んだ。
その進んだシナリオこそが魔王復活編だ。
今はまだ復活していない魔王だが、この先魔王は確実に復活をして世界を滅ぼすと明言された。
このままでは世界が滅び全プレイヤーはゲームオーバーになる。
それを防ぐにはストーリーを進めなくてはいけないそうだ。
朱莉達プレイヤーは2つの選択肢を迫られた。
1つが止まる。もう1つが進むだ。
朱莉は止まることを選択した。しかし、少女は先に進むことを選んだ。
段々と小さくなる背中を見て朱莉は叫ぶ。
「ひなちゃん!」
少女はもう振り返ることもなく、新たな仲間のいる元へと足早に向かう。
ルージュ村から少し離れた木の下に三十代前半とおぼしき、髪の色が青、黄、赤の三色の男性と、15、16歳くらいの金髪に青色と赤色のオッドアイの瞳をした少女がいた。
「いいのか? もう少し別れを惜しんでもいいんだぜ」
男性はルージュ村の方を向き呟く。
「いいの。これ以上あの村にいると、この気持ちが消えてしまうから」
少女は男性と目を合わせずに、岬側にあるマリーゴールドの小さな花畑の前に花束をゆっくりと置く。
オッドアイの少女が、今置かれた花束を指差す。
「ん? この花束はクローバーだよ」
「ずいぶんと綺麗な花が咲くもんだな」
男性が花束を覗きこむ。
「おーい!」
少し離れたところから二十代前半くらいの二人の青年が手を振って少女達を呼んでいる。
ゆっくりと少女達は花畑を後にする。
ツンツンと男性の袖を引っ張り、オッドアイの少女は1枚のメモ用紙を渡す。
そのメモ用紙を一目見て男性は「ふん」と紙を丸めてオッドアイの少女に渡す。
そして、受け取った紙を少女は魔法で燃やす。
男性は先を歩く少女の後ろ姿を眺めながら「あいつも色んな意味で仲間なんだな」と小さく呟く。
男性からは見えないが前を歩く少女の瞳は真っ赤に燃えていた。
眼鏡の奥の少女の瞳は、この世の憎悪を込めたような、燃え上がる深紅の色をしている。
燃やされた紙にはクローバーの花言葉が書かれていた。
それは幸運と約束……
そして、復讐だ。
あとがきを明日のお昼に活動報告に掲載します。
約1ヶ月近くの投稿にお付き合い頂き、感謝いたします。




