王太子殿下のバッドエンド、最後の赤字で打ち切りにして差し上げますわ
「――これにて一件落着、ですわね」
天空を覆っていた神の絶対領域が消滅し、青空が戻った王国の一角。
かつては絶大な権力を誇り、メロリアスを「役立たずの校閲官」と見下して断罪劇を繰り広げた『元王太子』――今や見る影もなく落ちぶれ、泥の中に這いつくばっていた。
「がっ……、嘘だ……!
私の言う通りに動くはずの運命が、なぜ急に……っ!」
創世神という「神の胸三寸(ご都合主義)」のバッテンが消え去った瞬間、ルカウストを支えていた理不尽なシナリオの補正も効かなくなっていた。
これまで積み上げてきた数々の不正、気に入らない人間を切り捨ててきた横暴、そして私腹を肥やしてきた悪事の数々が、神の加護という魔法のフィルターが外れた途端、すべて生々しい「現実の罪状」として王国法廷に叩きつけられたのだ。
財産は没収され、地位も名誉も剥奪され、ルカウストにへり下っていた側近たちにも見捨てられ……。
神の加護すら消えた彼は、「ただの無能で滑稽な犯罪者モブ」へと成り下がった。
「メロリアスのせいだ……!
私の思い通りに動かないから、すべてが狂ったんだ……っ!」
地面を叩き、喚き散らす王太子。
惨めな姿を見下ろすように、カチャリ、と上品な陶器の音が響いた。
「――やれやれ。
最後まで見苦しい台詞を吐く男ですこと」
特製ティーテーブルの椅子に腰掛けたメロリアスが、ふうと息をつく。
レオンが手際よく魔法水筒からダージリンのお代わりをカップに注ぎ、呆れたようなため息をついた。
「まったくでございます。
プロットの構成力もなければ、自分の犯した罪の回収すらできない。
これでは三流の悪役どころか、読者から愛想を尽かされるだけの駄作モブですね」
「ええ、本当にそうですわね。
……王太子殿下?」
メロリアスは香り高き紅茶を一口含み、それからゆっくりと立ち上がった。
手に握られているのは、数々の理不尽な運命を叩き直してきた、お馴染みの万年筆。
「なっ……お前は……!
私を誰だと思っている……!
この国の王太子……っ!」
「いいえ、今のあなたにそんな肩書はありませんわ。
王国法廷の判決文でも、あなたの人生はすでに『終身刑(モブ落ちエンド)』と綺麗に確定していますのよ」
「ひっ……!」
「ですが、あなたの人生という名の原稿には、余計なト書きが多すぎますわね。
――さあ、ざまぁの回収も兼ねて、あなたの人生のフィナーレに盛大な『打ち切り』の赤ペンを入れて差し上げますわ!」
メロリアスが鮮烈な赤インクの奔流をひと振りすると、王太子の周囲を取り囲むように「強制終了」の文字が浮かび上がった。
「い、嫌だ……!
助けてくれ、私は神に愛された――」
「神様なら、私が『強制ボツ』にいたしましたけれど?」
メロリアスが冷徹に微笑みながら、ルカウストの足元に特大の「赤のバッテン」を叩き込む。
すると、ルカウストの身柄は王国憲兵によってそのままガッチリと拘束され、二度と日の目を見ない暗い地下牢へと引きずり込まれた。
絶叫が響き渡るが、世界を揺るがすような不快なノイズは一切ない。
――静寂が戻った王国で、メロリアスは万年筆を美しく指先で一回転させた。
「……これでようやく、世界の誤字脱字もすっきりと綺麗になりましたわね」
「お見事でございます、メロリアス様。
……では、冷めないうちに極上の紅茶をどうぞ」
「ええ、ありがとうレオン。
……さあ、すべてのクソプロットを片付けたところですし、私たちも『まだ見ぬ世界の校閲』へ出発しますわよ!」
理不尽な神を、そして身勝手なルカウストを、赤ペンで完膚なきまでに叩き直した校閲聖女。
最高のティータイムと揺るぎない「校閲の芯」を胸に、物語は、さらなる自由な世界へと――永遠のハッピーエンドへ向けて歩み出す!
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
理不尽な神様も身勝手な元・王太子も、すべてメロリアス様の赤ペンで綺麗に添削し、無事に大団円を迎えることができました。
ここまでお付き合いくださった読者の皆様の温かい応援、ブックマーク、評価、感想が、執筆の何よりの原動力でした。
本当にありがとうございます!




