↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の戦場医官、現代医療とタクティカル兵器で無双する〜ポイント稼いで地球の物資をポチったら、村の英雄になりました〜  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/80

EP 5

飲茶(ヤムチャ)の散り様。網に残された無惨なクレーター

「ヘヘ……これなら楽勝だな。俺が全部、ぶっ倒してやるぜ」

 タロキンの食材ショーケース。その隅に置かれた保温器の上で、アルミホイルの小さなカップに身を包んだ『漢』が、不敵な笑みを浮かべていた。

 飲茶(ヤムチャ)。

 シュウマイや小籠包といった点心の総称である彼は、焼肉バイキングにおいて「肉の合間の箸休め」というポジションに甘んじている。

 だが、彼は知っていた。己の内に秘められた、炭水化物(皮)と脂質(豚ひき肉)の凶悪な密度の高さを。

 たった数個口にするだけで、胃袋にズシリと重くのしかかり、客の「もっと肉を食べたい」という欲望を打ち砕く、隠れた実力者であることを。

「飲茶! 無茶するな!」

 トンデモナイトが、分厚い豚バラ肉を震わせて叫んだ。

「お前がいくら腹に溜まるとはいえ、あの芋ジャージの小娘の胃袋は次元が違う! 単機で突入するなど、自殺行為だ!」

「トンさんよぉ……心配しすぎだぜ」

 飲茶は親指で自身の胸(ホイルカップ)をポンと叩いた。

「カレーライス部隊がエルフの女を足止めしてる今が好機(チャンス)だ。あの芋ジャージの小娘……リーザとか言ったか? あいつの腹の虫が鳴き止まねぇのは、まだ俺様の『本気』を味わってねぇからだ」

 飲茶の目に、強者の余裕ともとれる鋭い光が宿る。

 その自信の根拠は不明だが、彼は自分がこのタロキンのお肉防衛軍の中で、最強の戦士であると本気で信じ込んでいるようだった。

「ここらでお遊びは、いい加減にしろって所をみせてやりたいんでね」

 言うが早いか、飲茶はアルミホイルのカップごと、ショーケースの壁を蹴って跳躍した。

 空を舞う彼の視線の先には、灼熱の業火が渦巻く魔導グリル――優太たちが待ち受ける『最前線(フロントライン)』があった。

「やめろぉぉぉっ! 飲茶ぁぁぁっ!」

 トンデモナイトの悲痛な叫びが、ショーケースの中に虚しく響き渡る。

 ***

 シュゥゥゥゥッ……!

 網の上に、一つの影が舞い降りた。

 着地と同時に、アルミホイルの底が網の熱線に触れ、かすかな音を立てる。

 魔導グリルの中心、最も火力の強い『ホットゾーン』である。

「ん? 敵の空挺部隊か……いや」

 トングを構え、緻密な温度管理(トリアージ)を行っていた俺――中村優太は、網の上に突如として現れた異物に目を細めた。

「……点心、飲茶(ヤムチャ)か。バイキングの伏兵だな」

 俺はCQCの教官から教わったサバイバル理論を脳内で反芻した。

 焼肉において、飲茶やフランクフルトといった加工肉は、火が通っているためすぐに食べられる反面、胃袋の容量を無駄に圧迫する『地雷』である。

「チッ、網の上に直接陣取るとは……だが、アルミホイルごと乗っているせいで、網の熱伝導率が狂う。速やかに排除(クリアリング)しなければ」

 俺がトングを伸ばそうとした、その時だった。

『きゅるるるるるるるるるるっ……!!』

 隣の席から、地盤沈下でも起きたかのような恐ろしい轟音が響いた。

 芋ジャージ姿の人魚姫、リーザの腹の虫である。

 彼女は両手に割り箸を固く握りしめ、瞳孔をガンギマリに開いて、網の上の『飲茶』を凝視していた。

「……お肉の、匂いがしますの。炭水化物と、お肉の、高カロリーな匂いが……!」

 パンの耳と水道水で三日間耐え抜いた彼女の生存本能が、限界を突破しようとしている。

 一方、網の上の飲茶は、リーザのその異様な殺気に気づいていなかった。

 むしろ、彼は自分のテリトリー(網の上)に引きずり込んだと錯覚し、勝ち誇ったように身をよじって熱気を放ち始めた。

(ヘヘッ……来たな、芋ジャージの小娘! 俺様の特製肉汁(ドリップ)と、分厚い皮の弾力で、てめぇの胃袋を破裂させてやるぜ!)

 飲茶は、自身の内に秘めた熱々の肉汁を、リーザの口内へ噴射するカウンター攻撃の構えをとった。

(俺のスピードについてこれるか!? さぁ、来やがれ!)

 飲茶がそう意気込んだ、次のコンマ一秒。

 ――ヒュンッ!!

 大気を切り裂くような、鋭い風切り音が鳴った。

 銀色の閃光が、網の上を一瞬だけ走る。

 それは、リーザの『割り箸』だった。

 極度の飢餓状態が生み出した、人間の限界を超える反射神経。マッハの速度で繰り出された箸の先端は、飲茶がカウンターの肉汁を噴射する隙すら与えず、そのふっくらとしたボディを両側から完璧にホールドした。

(なっ……!? は、速ぇ……!?)

 飲茶の思考が、現実に追いつかない。

 気づいた時には、彼の身体はアルミホイルのカップから引っこ抜かれ、空を飛んでいた。

 向かう先は、ヨダレを垂らして大きく開かれた、リーザのブラックホールのような口腔。

「いただきますのぉぉぉぉ!!」

 ガプゥッ!!

 咀嚼音すら、まともになかった。

 リーザの強靭な顎と牙は、飲茶のボディをたったの一噛みで粉砕し、熱々の肉汁ごと、虚無の胃袋へと飲み込んでしまった。

「……ふぅ。美味しいですの。でも、全然足りませんわ」

 リーザは何事もなかったかのように口元を拭い、再びギラギラとした目で次の獲物を探し始めた。

 時間にして、わずか一秒の出来事である。

 網の上に、静寂が落ちた。

「…………」

 俺は、無言でトングを宙に浮かせたまま、網の上を見つめていた。

 そこには、つい先程まで威勢よくふんぞり返っていた『漢』の姿はない。

 ただ一つ残されていたのは、飲茶が入っていた『丸いアルミホイルのカップ』だけだった。

 中身を乱暴に奪われたせいで、アルミホイルの縁は無惨にひしゃげ、底はベコンと凹んでいる。

 その丸く凹んだ銀色のカップは、まるで……爆発跡に残された『隕石のクレーター』のように、網の上で虚しく熱風に吹かれていた。

 俺は静かにトングを動かし、その無惨なクレーター(アルミホイル)を摘み上げた。

「……アルミホイルは網の温度を下げる。戦場に不要なゴミ(デブリ)は、速やかに撤去(クリアリング)する」

 冷徹な医官の判断の元、飲茶の生きた証であるクレーターは、俺の手によって卓上のゴミ箱(骨入れ)へとポイと捨てられた。

 ***

「……あ、あ……あぁ……っ」

 その一部始終を、ショーケースの防弾ガラス越しに見つめていた『お肉防衛軍』たちは、恐怖と絶望に凍りついていた。

 強者のオーラを放ち、自信満々に飛び出していった飲茶。

 彼が、何の抵抗もできず、必殺の肉汁攻撃を放つ暇すらなく、秒殺された。

 後に残されたのは、無惨なクレーター(アルミホイル)だけ。

「ウソだろ……あの飲茶が、手も足も出ずに喰われたっていうのか……!?」

「あんなの、魔物(モンスター)だ……勝てるわけがない……!」

 タン塩もカルビも、あまりの圧倒的な力の差に、カタカタと震えを止められない。

 そして、誰よりも飲茶を止めようとしていた男――トンデモナイトは、ガラスに分厚い豚バラ肉を擦り付け、絶望の涙(ドリップ)を流していた。

「飲茶あああああああああああっ!!」

 トンデモナイトの悲痛な絶叫が、ショーケースの冷たい空気を切り裂く。

 なぜ、俺はあいつを力ずくでも止めなかったのか。

 お前のその無駄な自信は、いったいどこから来ていたというのか。

「無茶しやがって……! 無茶(ヤムチャ)しやがってぇぇぇぇぇ……っ!!」

 誇り高き戦士、飲茶の死。

 それは、お肉防衛軍にとって、魔王(リーザたち)の本当の恐ろしさを骨の髄まで叩き込まれた瞬間であった。

 だが、悲しみに暮れている暇はない。

 魔王たちの腹の虫は、まだ鳴り止んではいないのだから。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。