第八章 【激闘!焼肉バイキング編】〜絶対防衛戦線タロキン:90分の死闘〜
決戦の地「タロキン」! 待ちわびた漢と強欲な乙女たち
戦争とは、つまるところ兵站である。
いかに屈強な兵士であろうと、十分なカロリーと休息が与えられなければ、その力は十全に発揮されない。それは異世界アナスタシアにおいても、地球においても変わらない絶対の真理だ。
ルナミス帝国資本の飲食店チェーンが、ついにこの緩衝地帯であるポポロ村にも新たな牙城を築いた。
その名も、焼肉バイキング『タロキン』。
建国者・佐藤太郎の遺産たる100円ショップ概念と、異世界の魔導冷凍技術が融合した、革命的な飲食施設。制限時間90分、銀貨3枚で肉も野菜もデザートも食べ放題という、庶民にとっては夢のようなシステムだ。
そして今日、俺たちポポロ村のシェアハウス陣営(一部、神々を含む)は、この新たな戦場へと足を踏み入れようとしていた。
「よし、全員揃ったな」
俺――中村優太は、店舗の入り口前で振り返り、集まった面々を確認した。
ポポロ村の村長であり、俺の横にぴったりと張り付いているヤンデレ月兎族のキャルル。
世界樹の加護を一身に受ける天然エルフのルナ。
スマホ型カメラドローンを起動させているゴッドチューバーの天使・キュララ。
そして、どういうわけか「たまたま通りかかった」と言い張って合流してきた、世界神ルチアナと月の女神カグヤの二柱。
……さらに言えば、全身から異様なまでの飢餓感を漂わせている、芋ジャージ姿の極貧人魚姫・リーザの姿もあった。
「ふふっ、優太さん。今日は私、優太さんが焼いてくださったお肉しか口にしませんからね♡」
キャルルが、俺の腕に腕を絡ませながら、瞳の奥に重い光を宿して微笑む。特注の安全靴は履いていないが、その殺傷能力の高さは変わらない。
「あら、私は世界神よ? 当然、一番良いお肉は私に貢ぎなさいよね、優太!」
「わたくしもですわ! 質屋通いで落ちた体力を、タロキンの最高級肉で取り戻しますの!」
ハイブランドの服を着崩したルチアナとカグヤが、相変わらずの図々しさでふんぞり返る。自分たちで銀貨3枚を払う気など毛頭ないらしい。
「まぁまぁ、お肉ばかりじゃなくて、お野菜もたっぷりいただきましょうね♡ キャベツさんやピーマンさんも、きっと私たちに食べられるのを喜んでくれますわ!」
ルナが純真無垢な笑顔で恐ろしいことを言う。彼女の善意に触れると、野菜たちが文字通り命乞いを始めるかもしれない。
「はーい、全宇宙のリスナーさん! 今日はポポロ村に新しくできた焼肉バイキング『タロキン』から、食レポ生配信をお届けしまーす! 同接すでに10万人突破ですよー!」
キュララがドローンに向かってカメラ目線を決めている。
そんな騒がしい乙女たちの中で、ただ一人、異様なまでの沈黙を保っている者がいた。
「…………」
リーザである。
彼女は芋ジャージのポケットに両手を突っ込み、半ば虚ろな目で『タロキン』の看板を見つめていた。その瞳孔はガンギマリに開いており、口の端からは微かにヨダレが垂れている。
「……リーザ。お前、大丈夫か?」
「……優太お兄様。私、この日のために……三日間、パンの耳と水道水だけで胃を洗浄してきましたの……。今の私の胃袋は、ブラックホールすら飲み込む虚無ですわ……。網の上の肉は、細胞のひとかけらも残さず、全て私が奪い尽くしますの……【Love&Money】……!」
極貧生活で鍛え上げられた彼女の生存本能が、今まさに暴走しようとしていた。
やれやれ、と俺が溜息をつき、店の中へ入ろうとしたその時だった。
「――遅いぞ、貴様ら」
店舗の入り口の脇。壁に背を預け、腕を組んで目を閉じている一人の男がいた。
竜人族のイグニス・ドラグーンである。
彼はゆっくりと目を開き、俺たちを鋭い眼光で睨みつけた。
「イグニス? お前、非番だったのか。ていうか、いつからそこにいたんだ?」
「フン……俺様としたことが、少し早く着きすぎたようだな」
イグニスは腕を組んだまま、チッ、と舌打ちをした。
「……キャロットはまだか〜。俺様は、3時間も待てないぞ?」
どこかの誇り高き戦闘民族の王子のようなポーズで、壁を蹴り上げるイグニス。
キャロット。つまり人参サラダのことだ。
「いや、3時間って……お前、開店3時間前から一人で並んでたのか?」
「なっ!? ち、ちげぇよ! たまたま散歩してたら着いただけだ! 勘違いするな、俺様は田舎者だからって都会のバイキングに気合いを入れて開店前から並ぶようなダサい真似はしねぇ!」
見栄っ張りのイグニスが顔を真っ赤にして弁解するが、手にはしっかりと『整理券番号001番』が握られていた。故郷に虚勢を張るコラ画像を作るため、一番乗りで入店したかったのだろう。
「分かった分かった。なら、一緒に入るか」
俺は全員の顔を見回し、左腕のG-SHOCKのタイマーを起動させた。
『ピピッ』という無機質な電子音が鳴る。
その瞬間、俺の顔から「保護者」の緩みが消え、戦場における「医官」の冷徹な顔へと切り替わった。
「全員、よく聞け。これより作戦のブリーフィングを行う」
俺の凄みに、騒がしかった乙女たちとイグニスが息を呑んで直立不動になった。
「作戦行動時間は90分。これを一秒でも過ぎれば、追加料金という名のペナルティが発生する。いいか、戦場のルールは絶対だ」
俺は店舗の中央――すでに赤々と火を噴いている魔導火炎グリルを指差した。
「網の上は最前線だ。肉を投下しすぎれば温度が下がり、戦線は崩壊する。逆に火力が強すぎれば、火傷(焦げ)という致命傷を負って貴重な資源が炭と化す。網の上の制空権を完全に確保し、完璧な温度管理を行いながら、効率よくカロリーを摂取しろ。分かったな?」
「サー、イエッサー!」
何故か全員が一糸乱れぬ敬礼を返す。
ルチアナとカグヤも、俺の気迫に押されて「は、はいっ!」と直立していた。
「よし。各員、トングを装備せよ」
店員に案内され、一番大きなボックス席へと着陣する俺たち。
中央で轟々と燃え盛る魔導グリルの炎が、飢えた猛獣たちの顔を赤く照らし出す。
「さぁ、戦場へ向かうぞ」
俺の合図と共に、一斉に立ち上がる一行。
リーザの目が血走り、キャルルのトンファーを握る手がトングへと代わり、イグニスが「まずはキャロットだ!」と息巻いている。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
あの煌びやかな食材のショーケースの向こう側で、俺たちの圧倒的な食欲に立ち向かうべく、決死の覚悟を固めている『誇り高きお肉防衛軍』が待ち構えていることを。
90分間の壮絶な死闘が、今、静かに幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
新章『激闘!焼肉バイキング編』がスタートしました。
ここから先、あの「誇り高きお肉たち(※特に飲茶)」が、リーザたちのブラックホールのような胃袋を相手に、どんな壮絶な散り様を見せるのか……ぜひご期待ください!
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次回、「立ち上がれ、トンデモナイト! ハラミ姫を守るための絶望の陣形」
明日も更新しますので、お楽しみに!




