41.【幕間】生徒会招集
時間は遡り、始業式の日。
コレットはジルベールに召集され、生徒会室に向かっていた。
不要な噂の発生を防ぐため、ジルベール達と少し時間を空けてから向かう。念には念を。これはジルベール達と決めた事だ。これからレティシアの計画に乗っかる為にも、自分達は余計な噂を立てられるわけには行かない。
誰もいないことを確認しながら、コレットは生徒会室の扉をノックして入室する。
中にはいつもの3人と他にも数名、生徒がいた。確かレティシアやドミニクほどではないが、歴史の長い貴族だったと思う。
「フォール嬢、よく来てくれたね」
「お待たせいたしました」
「ここに呼んだと言うことは、もう分かっているかもしれないけれど、フォール嬢を生徒会役員に任命したいんだ」
予想はついていたが、実際言われると緊張で口の中が乾く。
「本当に、私も……?」
「ああ。この生徒会室に集めた者は皆、きちんと教育を受けているから問題ない。周りが貴族だけで気後れしてしまうかもしれないが、どうしても信用の問題でこうなってしまったんだ」
「すぐには難しいと思うけれど、コレット嬢が害されることはないよ。それだけは安心してほしい」
ジルベールとドミニクがコレットの不安を察したように言う。
けれどコレットはそこは一切心配していなかった。
「いえ、殿下達がお選びになった方々、心配することはありません。ただ、私に務まるか不安で」
生徒会は学園の花形といっても過言ではない。貴族・平民関わらずなる事ができ、注目度も高くなる。その働きによっては、将来に繋がることもある。
ただその特性からどうしても平民より貴族が選ばれる事が殆どだ。王族のいる代は、必ず3年次に会長になることが決まっている。
このことから、今回の生徒会役員任命はとても敷居の高いものになっているのだ。コレットが不安になるのも無理はない。
コレットの不安を本当の意味で察したのだろう。ジルベールは優しく言う。
「もちろん、能力にもフォール嬢は問題ないと思って私は任命するんだ。こういうのは、ただ縁だけで選ぶのは良くないからね」
その言葉に同意するように、周りの生徒も頷く。
そう言われて、引き下がるのも失礼だと思ったコレットは、大きく深呼吸してから頷いた。
「未熟者ですが、殿下の期待に応えられるよう、努力いたします」
「ああ。期待しているよ」
ジルベールは満足そうに笑い、そして全員に向かって言った。
「今年の生徒会メンバーはこれで行こうと思う。皆、1年間よろしく頼むよ」
その言葉にコレットは、疑問を持つ。そう、レティシアがいないのだ。
ジルベールの婚約者でもあり、優秀な彼女を任命しないのはおかしいと思う。その疑問をマルセルが尋ねた。
「レティシア様は任命されないのですか?」
「ああ。彼女がいると一緒に行動する時間が長くなるだろう? そうすると、私達の計画もバレてしまうからね。レティシアは聡い」
「確かにそうですが……その事で要らぬ噂を呼んでしまうのではないでしょうか?」
レティシアが生徒会メンバーでなければ、周囲は誤解するだろう。
元々、ジルベールとレティシアの不仲は知れ渡ってしまっている。余計に拗れてしまうのではないかと、マルセルやコレットは心配しているのだ。
「そうだね。……だからこそ、なんだよ。レティシアは全て捨てて、亡命しようとしている。今回、生徒会メンバーに選ばれないと知れば、こう思うだろう。“完全に見限ってくれた”……とね」
「要するにレティシア嬢にも、俺たちが気がついていることを悟らせない為にはちょうどいいってことだ」
ドミニクは先にある程度聞いていたらしく、補足するように言う。
「それなら、噂の対策はいかがいたしましょう?」
「それを逆手に取るんだ。まあ、情報操作なんてよくある事だし、そこはね」
「情報操作……」
「あんまり大きくすると、レティシアも気がついてしまうだろうから、悪い噂は早いうちに揉み消そうってことだよ」
「ということは、俺達は噂があったらすぐに気付けるようにしないといけないんですね」
「そう言うことだね」
コレットは噂に関しては、今まで聞く側が殆どだった。あまり噂を当てにすることもなかったので、どうしたらいいのかあまりわからない。
「あの、私、噂に関してどうすれば良いのか、あまり分からないです……」
正直にそう言えば、ドミニクは微笑んで言った。
「少しずつ教えるよ。でもコレット嬢はあまり動かない方が良いこともあるかもな」
「え?」
「レティシア嬢の事を考えると、コレット嬢が動くと悪化する可能性もあるんだ。ほら、卒業式の時のようにね」
「あ……」
レティシアとコレットは振り返ると、接触は殆どない。それなのに、レティシアはコレットの事を理解していた。理解した上であんな態度を取っている。
きっとレティシアの為にコレットが動けば、それを帳消しにするくらい逆の動きをしてしまうだろう。今までのことや、断片的なレティシアの計画から容易に想像出来る。
「コレット嬢は周りに何か変わった事がないか、注意してほしい。少しでも変化があれば、俺達に教えて欲しいんだ」
「はい……でも、もっと私に出来ることは……」
「フォール嬢には卒業したらやってもらうことが沢山あるんだ。その時頑張ってくれればいいよ。あとは学生らしく、勉学に励んでくれれば」
「卒業後ですか?」
ジルベールの言葉に、コレットは首を傾げる。
「ああ。いや、既に進路が決まっているなら、無理強いはしないけれどね」
「進路は準備していますが、まだ確定な事はないです。……え? 私の思い過ごしなら良いんですが、王城の仕事の紹介とか言わないですよね?」
「そのまさかだ」
「無理です! 恐れ多いです‼︎ 私、正真正銘の平民ですよ⁉︎ 孤児ですよ⁉︎」
「我が国は実力があれば、貴族と同等の地位に就けるけれど?」
「それは建前ですよね⁉︎」
「まあ、まだ意識改革は完全ではないね」
コレットを虐めた貴族がいるように、その壁はまだある。それを身を持って知っているし、平民の間でも恐れているものは多い。
アヴリル魔法学園に入れば、就職先の幅は広がるとはいえ、実際貴族達と仕事することを選ぶ平民は多くない。
「私はその意識ももっと変えたいと思っている。陛下が尽力してくれているが、どうしても時間もかかるしね。そこでフォール嬢にお手本になって欲しくて」
「お手本……」
「本当の目的はレティシアのそばにいてほしいんだ。お友達になりたいと言っていたし。こっちはついでだね」
「今更ながら、とんでもない事を言っていた自覚をしました」
レティシアの友人ということは、貴族とも関わっていくことは避けられない。
あの時は純粋に友人になりたいと言っていたが、恐れ多いことだったと今になって自覚する。
レティシアがあんなにも親近感が湧く人でなければもう少しコレットも、冷静になっていたと思うが過去に戻れないので取り消し不可だ。
第一、コレットはレティシアが嫌いなわけでもない。
「まあ私達が、君という逸材は逃さないけどね? 待遇も福利厚生も、どこより良いものを用意しよう。もちろん、周りにいる人も厳選するし」
「え? これ、断る選択肢無くなってません? 外堀埋められてるんですか?」
「殿下はコレット嬢が、レティシア嬢を繋ぎ止める要だと思ってるんだ。……ほら、レティシア嬢は殿下と離れようとしているから」
「よし、ドミニク。君には特別に仕事を倍にしてあげよう」
「事実を言われたからって、そんなに目くじら立てないでください!」
ジルベールが微笑みながら、地雷を踏んだドミニクに八つ当たりを始める。
最近のジルベールは、以前より感情が表に出ている。理由は言わずもがな、レティシアである。
確かに良好な関係は築けていなかったが、それでも政略結婚であるからこそ逃げられないと思っていた。そこに無意識に甘えていた部分もあるのだろう。
それに箱入りの令嬢だから、亡命したところで末路は見えている。そのリスクをわかっていても、ジルベールを捨てる決断をしたレティシアに言いようのない感情を抱いていた。
それはレティシアだけでなく、6年、婚約をしていたのに気が付かなかった自分にも向いているのだ。思い返せば、ヒントは散りばめられていたのに、気が付かなった愚かな自分にも、負の感情が渦巻いている。
その原因になった、リュシリュー公爵家はジルベールにとって仇のような存在になった。本当は温情など与えずに徹底的に堕としてやりたかったが、陛下が非情になれなかった。陛下の顔を立てて、ジルベールは温情を与えることにしたのだ。
そこまで信頼されていた王家すら裏切ったのだ。どちらにせよ、自分が王となった暁には、全ての役職に就かせないと決めている。
閑話休題。
「わ、私に出来るでしょうか……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと、俺たちもフォローしますから」
「マルセル様……」
「というより、ああなった殿下は止められないので腹を括った方が早いと思います」
「そこ、できれば教えないでほしかったです」
余計な一言だと、コレットは頬を膨らませる。
自分に出来るか不安があるコレットだが、ここまでこの高貴な人たちが言っているのだ。
これ以上自分を卑下するのは、この人達にも失礼だと分かっている。
後はコレットが覚悟を決めるだけ。
コレットはレティシアの顔を思い浮かべる。凛とした美しい姿、コレットを見る哀しげな瞳、コレットに謝罪するその姿勢。
(私はリュシリュー公爵令嬢のこと、もっと知りたい。あんなに良い人が、いなくなるのは私も寂しいわ)
「私……がんばります!」
コレットを救ってくれたように、コレットだってレティシアを救いたいのだ。
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