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悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜  作者: 水月華
第4章

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107/111

107.殿下は意外なわたくしが好きだそうです


 レティシアはキチンと自分の気持ちを、ジルベールに伝えることが出来た。


 10歳から婚約して10年もの時間をかけて、ようやく通じ合うことが出来たのだ。


 とても長い時間。その大部分はすれ違いの日々だった。途中でお互い諦めが入ってしまうほどに、一度は関係が冷え切ってしまった。


 けれど、お互い諦めながらも、心のどこかで和解を望んでいた。


 だからギリギリ、崖っぷちで踏みとどまった。お互いに歩み寄ることを選んだのだ。


 名残惜しいけれど、抱きしめていた腕を解く。


「……せっかくだから、今マフィンを頂いてもいいだろうか?」

「もちろんですわ。お茶も用意します」


 最初にジルベールにお茶を淹れてから、もうずいぶん経った。その時よりずっと上手になっている。


 本格的な淹れ方もルネに教わって出来るようになったけれど、もう夜更けなので時短にティーパックで淹れる。


 2人分のお茶を淹れて、テーブルに置いた。以前から重宝している、リラックス効果のあるお茶だ。

 

「ありがとう」


 ジルベールは一口マフィンを齧る。その様子を緊張を覚えつつ、見守る。


「とても美味しいよ」

「はあ。良かったです」


 ジルベールの顔が綻んでいて、喜んでもらえた。頑張った甲斐があった。

 

「本当に初めて作ったのかい? そう思うくらいに美味しいよ」

「それはコレット様の手腕だと思いますわ、教え方がとても丁寧でしたもの。初めてでも分かりやすかったです」

「……ふ」

「?」


 ジルベールが急に笑うので、レティシアは首を傾げる。


「いや、そういうところが好きなんだ」

「はい⁉︎」


 急に言われたことに、素っ頓狂な声をあげつつ顔に熱が集まる。


「そんな風に、自然と他者を褒められるところが、レティシアの素敵なところだと思う」

「なななななっ⁉︎ どうしたのですか⁉︎ マフィンに何か入ってました⁉︎」

「なにも入っていないのは、レティシアが一番よく分かっているだろう?」


 どこか吹っ切れた様子のジルベールに、レティシアはタジタジになる。


「私達は言葉が足りなかっただろう? だからちゃんとこれからも伝えることを大事にしないとね」

「それはそうですが、少し手加減してください……」


 心臓が忙しない。顔も熱い。これが何度もあると思うと、気が遠くなりそうだ。


「それで、レティシアは私のどこが好きかな?」

「ひょあ⁉︎」

「せっかく両想いになれたんだから、聞いてみたいな」

「どうされたのですか⁉︎」


 ジルベールの変容ぶりに付いていけない。


 少し待ってほしい。レティシアの心臓のために。


「ああ。まずは、言い出しっぺの私から言わないといけないよね」

「そうではありませんわ!」


 それもレティシアにとって大ダメージだ。いやむしろ、言われたほうがダメージが大きいかもしれない。


「い、いきなりは、ちょっと。心の準備というものがあります!」

「……すまない。嬉しくてつい」


 ジルベールはそこで、ようやくやりすぎたと気づいてくれたらしい。


 声のトーンが先ほどより落ち着いた。それにレティシアは安心して、息を吐きだす。


「失礼した。レティシアから好きと言われて舞い上がってしまった。……あとあわよくば、あのレティシアも見れないかなと思ってね」

「あの?」


 あのとは何だろうとレティシアは考える。まるでレティシアが何人もいるような言い草だ。


「ほら、中庭で叫んでいたレティシアだよ」

「……え? どういうことですか?」


 そのジルベールの言葉が信じられず、レティシアは思わず聞いてしまう。


 叫んでいたというのはコレットからも話を聞く限り、あらん限りの罵詈雑言を吐き散らしていたときだろう。

 

 それを見たいと?


「うん。あの時のレティシアは、今までで見たことがなかった。とても新鮮だった。あれが本来のレティシアなのかなと思うと、また見てみたいと思って」

「……えっと」


 これは他意が感じられない。ジルベールの心からの思いだ。


 だって目がキラキラしているのだ。ジルベールとしては、隠し事をしないでほしいという思いで言っているらしい。


「殿下。残念ですが、わたくしはあれが素ではありませんの」

「違うのかい? 荒々しいレティシアが素敵だと思ったんだけれど」

「あれが⁉︎」

「ああ」


 思わず大きな声をあげてしまったが、ジルベールは一片の曇りもなく同意する。


 確かにジルベールがレティシアへの態度を変えた理由は、それを見たからだとは聞いた。


 けれどあれが素敵な姿に見えていたと? 失礼ながらレティシアはジルベールの性癖を疑ってしまった。


「あれだけ荒々しい内情を秘めていたら、きっとどんな困難があっても乗り越えられるだろうと思っていた。実際、今回も皆のおかげとは言うけれど、そもそもレティシアの強さが根底にないと今の状況にはならない。人前で出さないのも、自分を律する能力が高いと思ったんだよ」


 ジルベールの話を聞いて、数秒前の自分を殴りたくなるレティシア。


 至極まっとうに、ジルベールはレティシアを評価していた。


 とてもポジティブに捉えられていて、嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちだ。


「こほん。殿下、そこまで評価していただいて嬉しいのですが、あれは人がいると分かって出せるものではありません」


 あれだけ叫んでいたのも、誰もいないと思っていたからだ。


「ふむ。確かに貴族では、感情を表に出さないことが美徳だからね」

「ええ。そうですわ」

「ならレティシアが素の自分を出せるくらいに、私が努力すればいいのだね?」

「違いませんけれど、違います。殿下、少しお疲れでは?」


 なんだろう、ジルベールの様子がおかしい。さすがにここまで暴走するのも、ありえない。


 公務に追われていたと言うし、疲れて変なことを言っているのでは? とレティシアは考える。


 そしてその考えは間違っていなかった。


「ああ。確かに、ここ数日あまり睡眠をとっていなかったな」

「わたくしが言えたことではありませんが、休息は大事ですよ」

「何もしないと、レティシアのところに行きそうになるから……」

「……それは、早めに答えを出せてよかったですわ。もう休みましょう?」


 そう言っている間にも、ジルベールの言葉はだんだん舌っ足らずになっていく。


 レティシアに言われて、眠気を自覚したのかもしれない。先ほどまではアドレナリン全開だったということか。


 貴重な瞬間を見れたかもしれない。そう思うと嬉しく感じてしまうので、レティシアも大概だ。


「いやだ……せっかくレティシアと通じあえたのに……もっとはなしたい」


 眠気に負け始めているジルベールはまるで幼い子供のように感じて可愛い。


 自然とレティシアの声も優しくなる。

 

「わたくしは、いなくなりませんわ。また明日も話せます。これからずっと一緒ですから」

「れてぃしあ……」


 ついに船をこぎ始めたので、つい頭を自分の肩に寄せてしまう。


 そのまま寝息を立て始めるジルベール。


 その安らかな表情に、レティシアは今まで以上に心が温かくなるのを感じた。


「おやすみなさい。良い夢を」

いつも読んでくださりありがとうございます


作者は豆腐メンタルなので、過度な批判や中傷は御遠慮いただけると幸いです。

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