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第79話 シスコン

 あの後、騎士団がニシコリー峠にやって来て、現場の処理を行った。


 ヴィーに足や腕を斬られた者たちは最低限の治療を受けた後、全員捕まった。


 また、今回の主犯として、ロバートは死亡と報告されたのだった。



 ……そして日が明ける頃、ヴィーはドナドーニを連れて我が家に帰って来た。

 ちなみにソフィアは、孤児院の皆を安心させる為に一旦孤児院に送ってあげた。



「えー!? ガイルとシャリア!? まさか、君達もアンノウンの所にいたの?」


「やっぱりドナドーニだったか……。 今度はどんな実験にヴィーを付き合わせたんだよ?」


「はぁ……実験のためならヴィー様の妹すら誘拐するとはね……命知らずというか、研究馬鹿らしいというか……」


 七騎将の中でも戦争中立派の三人が、帝都で再会したのだった。



「とりあえずドナドーニはガイルの家に住ませてもらえ」


 本来なら女性であるドナドーニはシャリアの家に住んでもらうハズなのだろうが、ドナドーニは一瞬で部屋を汚くする達人なので、ここはガイルの方が適任だと判断したのだ。


「え!? こんなマッド・サイエンティストと一緒に生活するなんざ嫌だ!」


「よろしくね〜ガイル。 あと、一部屋はボクの研究室として使わせてもらうからね?」


 ガイルの新築の家は、ヴィーの家と同じで最低限の部屋数しかない。

 リビング、ダイニング、バスルーム、トイレ、寝室。 早速家に入ったドナドーニは、寝室を自分の研究室にすると決めたみたいだが……。


「ふざけんじゃねえ! ここは俺の寝室だ! 研究なんざ庭でやれ!」


「嫌だよ〜。 ボク、肌がデリケートだからさぁ、日焼けは大敵だし、虫とか怖いし」


「マッド・サイエンティストが虫が怖いってなんだよ!?」


 言い合いをする二人を見て、シャリアは笑顔で提案する。


「なら、ドナドーニは私の家に住めばいいわ。 私はヴィー様の家に……」


「却下。 ……今度シュウトに、もう一軒家を建ててもらえる様にお願いしておく」


 シャリアなど泊めたら、自らの貞操が危ういと考えたヴィーは、咄嗟にドナドーニ用の家をもう一軒建てると言ってしまったのだが、これもまたシュウトへの貸しになるのかな……と、頭が痛くなる。



 するとそこへ、タイミング良くシュウトがやって来た。


「魔王軍七騎将が三人も揃ってるとは……なんか戦争を思い出すな……」


 ガイル、シャリア、ドナドーニ。 いずれも魔王軍最強の七騎将と恐れられた魔族だ。

 勇者にとっては天敵ともいえた存在が、この帝都に三人揃っているのだから、シュウトも頭を抱えた。


 あらためて、今回の件の詳細をシュウトに説明する。


「……俺だったらどんな理由があっても、コイツを生かしておかないけど……ヴィー、おまえちょっと優し過ぎだぞ?」


 話を聞いたシュウトは、ドナドーニの異常さと、それを許してしまったヴィーに呆れてしまった。


「仕方ねえーよ、この研究馬鹿は昔っから善悪とか関係なく研究しか頭に無えから。 たまにそれでスゲー発明したりするもんだから、実験体にされる俺たちの感覚もマヒしちまったのかもしれねえ」


 ガイルの言う通り、ドナドーニは主に兵器開発の分野で様々な功績を残しているが、他にも汚染水の浄化装置や、より安価な転移石の開発、肉体改造による怪我や病の治療など、生活の水準を上げる歴史的な発明も成功させている。

 特に転移石は、これまで魔界中心で出回っていたのだが、それが人間界でもコンスタントに生産されれば、世界の移動手段の事情を一変させる可能性を秘めている。


 マッド・サイエンティストの面に目を瞑れば、どこの国でも喉から手が出るほど欲しい人材と云えた。



「……まあ、とりあえずディエゴさんには報告しておいたから、帝王が戻り次第面会なのは変わらずだ。 で、家も三日もすれば建てられるだろうから、それまではこのマッド・サイエンティストを泊めてやってくれ」


 シュウトの提案に、ヴィーが無言でガイルを見つめる。


「……あーもう、三日だけだぞ? あと、寝室は絶対に譲らねえ!」


「仕方ないな~。 じゃあ、三日間は瞑想の時間に充てよう。 新たな発明が舞い降りてくるかもしれないし」


 こうして、とりあえずドナドーニの件はひと段落したのだった。



「ところで、ヴィー。 随分スッキリした顔してるみたいだが……ルミーナとはどうなったんだ?」


「……シュウトの目論見通りだよ。 ルミーナは俺の正体を知っても受け入れてくれた。 妹のソフィアも。 悔しいけど、過去に囚われていたのはやっぱり俺自身に意気地がなかっただけだったよ」


 ヴィーとルミーナの関係が改善される事だけを目的に、今回ヴィーとシェスターを聖女の遠征に同行させたシュウトとしては、狙い通りの成果だったのだが……。


「……でも、少なからず今回おまえとシェスターが同行した事で、聖騎士団のロバートを追い詰めちまったのかもしれないな。 せめて生きて捕まえれたら良かったんだが……」


 シュウトがドナドーニを睨むが、本人は既に瞑想に入っており、こちらになど我関せずいった雰囲気だった。



「……絶対コイツを黒幕として捕まえた方が良いと思うんだが、そうなるとコイツの実験も公にしなきゃならなくなるし、難しい所だな」


 人を強制的にヒューマン・スライムにする技術があると知られれば、世界中で争奪戦が始まるだろうし、多くの命が失われるだろう。

 ミゲールの考える、平和な世界を構築するうえで、その技術が漏洩するのはあまりにも危険だと考えられた。


「帝国にとっても、ドナドーニの存在は諸刃の剣かもしれないな。 もうヴィーが全部面倒見てやったらいいんじゃないか?」


「勘弁してくれ……」



 その後、少し雑談をした後に、シュウトは今回の件の後処理があるからと、表情を暗くして帰って行った。



 ……そしてヴィーは、どうしてもと聞かなかったシャリアを伴って、改めてソフィアが暮らす孤児院へと顔を出していた。


「あ、にぃ~……お兄ちゃん、いらっしゃい」


「ソフィア、俺は別に、にぃ~にって呼んでくれても良いんだぞ?」


「嫌だよ! 恥ずかしいもん……だから、二人きりの時だけね」


 あまりにも可愛らしい妹の姿に、ヴィーの表情は緩みまくっていた。


「……ヴィー様にこんな顔をさせるなんて……流石はソフィアちゃんね」


 一緒に着いて来たシャリアがソフィアに抱き着く。


「あはは、シャリアさんもお久しぶりです」


「昨夜は大変だったわね。 あのバカはあとで私が懲らしめてやるから」


「あ、シャリアさんもあの魔族の人とお知り合いなんですね」


「まあ、知り合いってだけね。 私はあんな変態じゃないから安心してね」



 そこへ、孤児院の院長さんがやって来た。


「あら、貴方がソフィアのお兄さん?」


 院長さんは物腰の柔らかい、とても優しそうなおばあさんだった。


「はい、ソフィアがお世話になってます」


「話はちょっとだけどソフィアに聞きましたよ。 ……記憶を失ってたんでしょう? 大変だったわよね」


「……いえ、自分には素晴らしい育ての親や兄や姉がいましたから。 それより、幼い頃からソフィアを見てくれたこの孤児院の皆さんには、本当に頭が上がりません」


 ソフィアはルミーナが聖女に認定されたタイミングで、一緒に帝都にやって来た。 それから一〇年間、この孤児院で育ったのだ。



 孤児院の庭では、身寄りのない子ども達が楽しそうに遊んでいた。 それが、この孤児院が子どもの事を想い、健全に育ててくれている証明に感じていた。


 院長室に通されたヴィーは、ソフィアと並んでソファーに座り、お茶を頂いていた。


 窓の外では、元気な子ども達がシャリアと一緒に鬼ごっこをして遊んでいる。

 実は子ども好きというシャリアの意外な一面を見て、ヴィーの中でシャリアの評価が少しだけ上がっていた。


「さて……本題に入りましょうか。 ソフィア、この孤児院を出て行くのですね」


「……ハイ、院長先生」


 自分の知らぬ所で話が始まり、ヴィーは戸惑っている。


「貴女はこの孤児院の長女として、みんなの面倒を見てくれて助かってたんだけど、自分で決めたのなら止めたりはしないわ」


「ありがとうございます。 でも、これからもボランティアとしてこの教会に来ても良いですか?」


「勿論よ! よかったらお兄様と一緒に。 ああ、今子供たちと遊んでくれてる美人さんも大歓迎よ」


「はい。 院長先生、今まで、本当にありがとうございました」


 この流れを見る限り、どうやらソフィアは孤児院を出て行くのはヴィーにも分かったが、一体どこに引っ越すのか考えてみた。


(アカデミーには女子寮があるし、そこかな……)



 ソフィアは涙を拭い、ヴィーを見つめた。


「これから、よろしくね、お兄ちゃん」


「なんだ改まって……ん? もしかして……ウチに来るのか!?」


「え? てっきり、家族だから一緒に住みたいって思ってたんだけど……もしかして、迷惑だった?」


 不安そうにヴィーを見つめるソフィア。


 妹を一瞬でも不安にさせてしまった自分に腹が立つと共に、これからずっと一緒にいられる喜びで、ヴィーはソフィアを抱き上げてしまった。


「迷惑だなんてとんでもない! 今までの分を取り返すくらい、一緒にいてくれ!」


「おに、ちょ……降ろして、恥ずかしいよ」


「アハハッ。 そうだ!」


 ヴィーが通信板を取り出し、嬉々としてシュウトに連絡する。


「シュウト! ソフィアがウチに引っ越してくれるんだ! ドナドーニの家なんて後回しでいいから、立派な屋敷を建ててくれ!」


「ちょ、お兄ちゃん! わざわざ家なんか建ててくれなくてもいいよ!」


「何言ってんだ、ソフィアに苦労はさせられん……そうだ、お手伝いさんも雇おう! 心配すんな、お兄ちゃんこれでもお金は結構持ってるから!」


 窓の外からその様子を見ていたシャリアは、呆れながらもその光景が面白くて笑っていた。


「ヴィー様がこんなにも嬉しそうに声を弾ませるなんてね……ホント、昔だったら想像も出来なかったけど、幸せそうで何よりね」



 結局、暴走しそうなヴィーだったが、ソフィアが普通の一軒家の方が狭くて常に傍にいられるからと説得したので、アッサリ承諾。

 今の家にソフィアの部屋を増築する事で話が纏まったのだった。

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