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最終話 青春

 ソフィアがヴィーの家に引っ越してきて三日が経った。


 この日は、ヴィーのアカデミーでの友人達が勢揃いし、庭で雑談を楽しんでいた。



「くそ〜! 僕のいない間に、そんな、楽しいことばかり起こってたなんてー!」


 夏休みも終わりに近づき、家の領地から帰って来たマルクが、自分がいない間に受注した依頼でトラフトがスライム化した話を聞いて悔しがっているのだ。


「どうだ、マルク。 ほら、びょ〜んって伸びるんだぜ?」


 得意気に自分の腕を伸ばすトラフトを、羨ましそうに見るマルクと、呆れて何も言えないダイスとカイン。



 そんなダラダラした感じで、庭にテーブルを置いて五人で雑談をしていると、ソフィアがお茶を淹れて持って来た。


「皆さん、お茶が入りましたよ〜」


「ありがとー! それにしても、まさかソフィアちゃんがヴィー君の妹さんだったとはねぇ」


「俺らもビックリしたで。 なんで隠しとったんや?」


 ヴィーはマルク達には、自分は五歳の頃に記憶を無くし、遠方で何も知らずに暮らしていたのだが、約一年前に記憶を取り戻し、ツテを使ってアカデミーにやって来たのだが、いきなり兄と名乗るのに抵抗があったので、偽名を使って他人としてソフィアを見守っていた……と、説明していた。



「ところで、ヴィーは本当の名前はヴィクトーなんだろ? じゃあ、このままヴィーって呼んでも大丈夫だよな?」


 カインが探るように聞いて来た。


「ああ。 正直、卒業までそんなに期間も無いし、いちいち名前を変えるのも面倒だなと思ってたんだけど……」


 ヴィーはアリシアにも、自分の正体をソフィアとルミーナに明かした事を告げた。

 アリシアはとても喜んでくれたし、それなら名前もヴィクトー・ハイドローズに戻すべきだと進言してくれた。


 かといって、敢えて周囲に発表する程の事でもないので、理事長権限でしれっと変えておくとの事だった。


「一応、今後は本名のヴィクトー・ハイドローズを名乗る予定だが、皆は今まで通りヴィーと呼んでくれて構わないぞ」


「まあ、ヴィクトーとヴィーも似たような名前だしな」


 ダイスが言うと、全員が納得して笑っていた。



 穏やかな日常に、気の置けない仲間達。 そして可愛い妹。


 ヴィーは、これが平和で平穏な、幸せな生活なんだな……と、実感していた。



「あら? いらっしゃ〜い、皆来てたの〜」


 そこへ、今起きましたと一目で分かるシャリアが、ネグリジェ姿でやって来た。


「……あ、姐さん……し、刺激が強過ぎやで」


「俺は……死んでもいい」


 トラフトとダイスはシャリアに釘付け。

 カインは頬を赤らめ目を逸らし、マルクは呆然として鼻血を垂らしていた。


「もう、シャリアさん! はしたないですよ!」


「え? 別にこれ位なら……」


 慌ててソフィアがシャリアを家まで連れ帰った。



「朝から騒がしいなぁ〜、ボクの瞑想を邪魔しな……おや? 君、なんでスライムなの?」


 今度は、瞑想を邪魔されたドナドーニが不機嫌そうにやって来たのだが、トラフトを見付けて目を見開いた。


「な、なんやこのオネーサン? な、なんやねん、ペタペタひとの身体触っ……いやん!」


「スライム化してるのに、こんなに自我がハッキリしてる被験体は初めてだ〜……つーか、ボクの注射使ってないよね? じゃあ、もしかして天然物!?」


 ドナドーニは、ヒューマン型スライムの脳の芽を潰すのが至難の業だと知っているし、過去に何度か試したが全て失敗していた。

 ロバートの様に、注射でスライムの成分を注入すると時間と共に自我が崩壊するので、トラフトが脳の芽だけを潰して完成された天然物だと見抜いたのだ。


 ヴィーが、トラフトがスライム化した事情を説明すると……。


「……これは世紀の大発見だよ〜。 君、是非ボクの研究に力を貸してくれないか? ボクが君を、究極生物にしてあげるよ〜」


 既にドナドーニの目は研究馬鹿の目に変わっている。


「ホンマ? いや〜、俺は強くなれるんやったら構わへんけど……あんまエッチな事したらアカンで?」


 一応女性のドナドーニ煽てられて、満更でも無い様子のトラフトだったが……。


「やめとけ。 コイツの研究になんか付き合ったら、命が幾つあっても足りないぞ?」


「……今の無し」


 真顔で忠告するヴィーの言葉に、トラフトはすぐ様考えを変えてしまった。



「おや? 随分賑やかだねえ」


 そこへ、先日聖女の護衛から帰って来たシェスターがやって来た。 長期遠征に行って来たので、三日間の休暇を貰っていたのだ。


「「シェスター先輩、こんちわっす!」」


 トラフト達にとって、直属の先輩であるシェスターは、前回の依頼でもその強さをまざまざと見せられていたのも相まって、やはり一目置く存在らしい。


「あ~、そんなにかしこまなくてもいいよ。 最低限の礼儀さえ弁えてくれればね」


 ヴィーと付き合うようになって大分性格が丸くなったが、シェスターは学生の頃からトップのプライドがあった為、後輩たちにはそれなりに厳しい印象があったのだろう。


「あ、シェスターさん、こんにちわ」


 遠征から帰って来て直ぐに挨拶を済ませていたソフィアも、シェスターには好印象らしい。 兄のヴィーを相棒として面倒を見てくれている感謝があったから。


「やあ、ソフィアちゃん。 もう二人の生活には慣れたかい?」


「はい! でも、お兄ちゃんがちょっと私に気を使いすぎな所があって……もう少し気楽に接してくれるとありがたいんですが」


 微笑みながら、ソフィアは目でヴィーに訴えかける。


(そりゃあ気も使うだろう……。 約一○年ぶりに会った年頃の妹と暮らすんだから……)


「それは許してあげなよ。 ヴィーは案外世間知らずだし、こんな可愛い妹さんと暮らすとなったら、気負うのも仕方ないさ」


(流石シェスター! 俺の気持ちを代弁してくれる!)


「そうなんですかね……でも、お兄ちゃんと一緒にいれて嬉しいし、楽しいです」


「……ソフィア……」


 嬉しくて涙ぐむヴィーを見て、周りはあまりにもイメージとかけ離れた姿に唖然としていたが、ただ一人マルクだけが、共感して涙ぐんでいた。


「分かる、分かるよ~ヴィー君。 妹ってのはさ、干渉し過ぎるとキレるし、おまえは根暗だとかウザがられるけど、たまに優しい時もあって、それだけで全部許しちゃうっていうか……」


 かなりマルクの主観が入ってるが、それでも同じ妹を持つ兄同士、通ずるものがあるようだ。



「なんだ、今日は大勢いるな」


 そこへ、危険度レベル4の魔獣・ビーフィングポークを担いだガイルが帰って来た。 どうやら朝一で運動がてら魔獣狩りに行ってたらしい。


「わあ! 今日も凄いですねガイルさん」


「いや~、ソフィアたんの為なら、この程度の魔獣など朝飯前ですよ」


 初対面で恋に落ちてから、相変わらずガイルはソフィアにゾッコンで、毎朝食料を調達してくるのだが……あまりにも量が多すぎてヴィーに叱られていた。 ついでに、ソフィアに色目を使うたびにマジギレされている。



 そして、毎度の事だが魔獣一頭は流石に五人でも食い切れない量なので、ヴィーも困っていた。


「残った部位を売りさばくのが面倒なんだよな……あ、そうだ。 今日は人も多いし、ここでBBQでもするか」


「お! ええな~! ほな俺らが焼き担当したるわ! な、ダイス」


「俺も料理には自信があるし、任せとけ」


「そうかー。 じゃあ俺はササっと肉を捌くから、あとは頼んだぞ野郎ども」


「「へい、アニキ!」」


 ガイルはこう見えて後輩の面倒見が良く、更には圧倒的に強いのも相まって、トラフト達はすっかり子分化していた。


 

「……平和だなあ……」


「だな。 最近色々と忙しかったけど、そう思える日常が何よりだな」


 ヴィーとシェスターは椅子に座り、BBQの準備をしている面々を眺めて平和を噛み締めていた。


 ここには、長年一人にさせてしまったが漸く兄妹に戻れたソフィア、アカデミーで友達になったマルク・トラフト・ダイス・カイン、魔族であり仲間でもあった七騎将のシャリア・ガイル・ドナドーニ、そして今ではすっかり相棒となったシェスターがいる。

 年齢も身分も立ち位置も種族も関係なく、皆が笑っている……これが、ミゲールの求める世界なのだろうと、ヴィーは実感していた。


「アカデミーは明後日からだっけ? もうソフィアちゃんに正体を隠す必要も無いし、より一層楽しくなりそうだな」


「ああ。 アカデミーに通うと決まった時は、こんなに楽しくなるなんて思ってもみなかった」


「学生には学生にしか得る事の出来ない時間がある。 あと半年だけど、目一杯楽しむといいさ。 卒業後の事はそれから考えたって遅くはない」


 遠征から帰って来て、シェスターは騎士団長のシュウトから直々のお願いを受けていた。


 それは、いずれ騎士団長となるヴィーを、副団長としてサポートしてくれ……と。

 その為にも、卒業後は必ずヴィーが騎士団に入るように説得してくれ……との事だった。


 シェスターとしては、騎士団長は自分がいずれはと目指したポジションではあったが、ヴィーのサポートならばと、悪い気はしていなかった。


 だが、何よりも大切なのはヴィー自身の選択だ。


 シェスターは以前と変わらず、ヴィーには、これからは自分の未来は自分で決めてほしいと考えてたし、どんな選択をしようとも自分は変わらず相棒でいようと決めていたから。


「学生にしか得る事の出来ない時間……青春ってやつを通じて、自分が何をして生きたいのかを、じっくり決めたらいいさ」


「青春か……。 まさか、俺に青春なんてあるとは思ってなかったけどな。 でも、折角だから楽しむよ。 これからは、本来の自分……ヴィクトー・ハイドローズとして」


 そう言いながら、ふと視線を広場の入口に向けると、そこには手を振りながら歩いて来るルミーナがいた……。



 こうして、ヴィー改めヴィクトーの学生生活が、再び始まろうとしていたのだ…………が、二学期が始まって間もなく、疫病神(仮)のシュウトからの連絡で、ヴィクトー達はまたも厄介事に巻き込まれるのだが……その話はまたの機会に……。




 死神のリグレット〜魔王軍最強の男、学生になる〜


 第三章 リグレット


 終


 第一部


 完

これにて死神のリグレットは一旦完結となります。 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!


続編は……要望があれば考えます。 宜しければ感想・レビューなど頂ければ嬉しいです。

でわ、また会う日までさようなら!



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