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第34話 優秀な先輩

 嵐の朝食を終え、生徒達は本日の予定が変更された事を教師から知らされた。


 これには、生徒から落胆の声もあれば、何気に安心している声もある。


 ただ、全ての理由は知らされず、レベル3エリアにて魔獣の動きが若干活性化してる事により、万全を期して本日の予定を変更したと告げられるに留められた。



「……そりゃ、今のヘンリー森林区に学生は送り込めないだろうな」


 事情を知るヴィーが呟くと、隣にいたシェスターも同調する。


「ですね。 師匠は例外として、もし学生達がレベル5、6の魔獣と遭遇したら一大事ですし」


 相変わらずシェスターがヴィーに付き従う異様な光景を、クラリス達も黙って見ているしかなかった。


(これじゃあ悪目立ちだな……。 でも、この先輩、穏便に言っても聞かなそうだし、邪険にするのも悪いしなぁ)


 クラリス達三年生にとって直属の先輩であり元・生徒会長のシェスターには、誰も頭が上がらない。

 クラリスも複雑な表情を浮かべているし、威勢のよかったライカールなど、シェスターの前では挙動不審になるのだ。 ファンは相変わらずヴィーに怯えているし。



 だが、ただ一人、ルイだけは違った。


「ねえねえヴィー、どうやってシェスター先輩をこんなに手懐けたの?」


「え? 手懐けたつもりは……」


「君は確か……ルイだったか? 僕は手懐けられたんじゃない、惚れ込んだんだ。 そこの所を間違えるなよ?」


 三年生にとってシェスターは先輩だし、ヴィーは同級生。 だが、シェスターはヴィーを師匠として慕っている。


 この複雑な状況に、好奇心旺盛なルイが反応しない訳がなかった。


「じゃあ、つまりヴィーって、シェスター先輩が慕う程強いって事だよね?」


「いや……程々だよ、程々」


「師匠が程々なら、騎士団全員下の下になってしまいますよ。 謙遜は時に残酷ですよ?」


「え? マジで!? ヤバっ、ヴィー激ヤバじゃん!」


 三人の会話を聞きながら、クラリスは兄であるシュウトの言葉を思い出していた。


 ……「アイツには過度に干渉せず、全て自由にやらせろ。 これは、騎士団団長としての命令だ」……


(あの御兄様と、このシェスター先輩までもが認めた男。 私と同じ歳なのに、シュナイダー君は一体何者なんだろう?)



 クラリスがカイゼルアカデミーに入学した時、シェスターは生徒会長としてアカデミーの絶対的なカリスマだった。

 武術だけでなく、魔法の面でも秀でた能力を持っていたシェスターに、クラリスも尊敬の念を抱いていたし、そんな偉大な生徒会長に自分もなれればと、学生生活を頑張って来た。


 なのに、そんな憧れの存在が自分と同じ歳の男子生徒に、まるで従者の様に従っている。


(……ヴィー・シュナイダー。 貴方がどれだけのものか、確かめてやるわ)



 ヘンリー森林区への課外授業が中止となり、一年生は戦闘訓練及び模擬戦闘の授業を行う事となった。


 相手をするのは、学園のトップたる三年生の精鋭達。


 入学間もない一年生に、二年間アカデミーで学んだ三年生が如何に成長しているのかを知ってもらう狙いだ。


 一年生のクラスは五クラス。 それぞれ一人ずつ三年生が臨時講師となり、自分達の得意分野の授業を一時間ずつ各クラスで行う。


 クラリスは魔法学。


 ファンは剣術。


 ルイは弓術。


 ライカールは徒手格闘術。


 そしてヴィーは……


「僕は一昨年まで皆と同じこの学園に在籍し、生徒会長を勤めていたシェスター・レイモンドだ。 まだ騎士団に入って一年弱だが、皆には騎士団へ入団した際に必要となる騎士の心得と、騎士団の実務について学んでもらう」


 なんと、シェスターに授業を丸投げしていた。


(だって、俺が学生に何かを教えるのなんて無理だしな。 魔王軍時代はスパルタ教育が許されてたが、今の人間社会のご時世では、過度な体罰は暴力とみなされてアウトだろうし)


 実は先程、アカデミーの教師に臨時講師を頼まれた際に、どうしようか悩んで困っていたヴィーに気付いたシェスターが、講師の代わりを申し出てくれたのだ。


 生徒会長だった頃を知る教師達も、シェスターになら安心して任せられると、二つ返事で了承してくれた。


(ありがとう、シェスター先輩。 お礼に、望むなら一年後にはオルテガのオヤジをボコボコに出来る位には鍛えてあげてもいいですよ)



 シェスターは流石に生徒会長を務めていただけあり、教え方も抜群に巧かった。


 実際に地獄の新米訓練をやり抜き、騎士団の一員となっているからこそ言葉に説得力があるし、一年生にとって騎士団に対する憧れを助長するだけではなく、厳しさの面でも並大抵の決意と根性がなければままならない事も伝え、そんな厳しい環境で磨いた己の力を主君であるミゲール王に、引いてはこの国に住み暮らす人々の為に使うのが騎士であると、まるで選挙演説かの如く講義している。


(……凄いな。 ルイが言った様に、本当に優秀な先輩だったんだな。 戦闘の面でもまだまだ伸び代もあるし、いずれはシュウトの跡を継げる可能性だってあるかも。 ……やっぱりオルテガのオヤジ、かなり先輩の事を買ってたんだな)



 こうして、昼食を挟んで計五時間の特別授業が終わり、最後の授業として模擬戦が行われる事となった。


 各クラスの代表三名ずつが、三年生の精鋭に胸を借りる形式で、三年生は一人につきそれぞれ三名を同時に相手にする。



 まずルイは、魔法も交えて弓を使った効果的な戦い方を実践し、遠距離だけでなく近距離の戦闘技術も必要だと一年生に知らしめる。


 次にライカールは、武器の無い素手だからこその戦法、殴る蹴るのみならず、投げる、締める、関節技等を駆使し、一年生に武器を失った際の、徒手格闘の重要性を唱えた。


 剣の達人であるファンは、剣による攻撃と防御よりも、相手との間合いの大切さを重点的に披露して、一年生に剣の真髄を学ばせる。


 そしてクラリスは、初級から上級の魔法の発動時間や威力を分かりやすく効果的に使い分け、一年生に魔法の利便性を伝えた。



(三年生の皆は、流石に二年以上学生として学んでるだけあって、基礎がしっかりしてるな。 あのルイやライカールですら教えるのも巧いし。 ほとんど我流の俺では、ああも分かりやすく一年生の相手は出来ないし、またシェスター先輩に任せようかな?)


 ヴィーの心中を察してか、シェスターが耳元で囁いた。


「師匠、ここも僕が出ましょうか? 多分、一年生じゃ師匠と戦ってもレベルが違い過ぎて、何が凄いのか理解出来ないでしょうし」


 ヴィーは思った。 こんなにも優秀で、しかも自分に対しての気配りまで完璧なシェスターを疎ましく思っていた自分を殴ってやりたいと。


「先輩……ありがとうございます。 そして、宜しくお願いします」


 先日のファンとの件でも、ヴィー本人としては穏便に済ませたいと思っての行動が、全然穏便に済まなかった失敗例もあった為、シェスターの申し出は願ったり叶ったりだった。



「さて、じゃあ最後は現役騎士団員である僕が相手をしてやる。 こんな貴重な経験は他では出来ないぞ?」


 現役騎士と手合わせが出来るなど、将来騎士団を目指している学生にとっては夢の様な話である。 だが……


「お待ちください、シェスター先輩。 今日の授業はそもそも私達三年生の役割です。 模擬戦くらいは、シュナイダー君にやらせるべきでは?」


 クラリスはシェスターが模擬戦を行う事を認めず、ヴィーが行うべきだと主張したのだった。

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