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第32話 臨時講師のレクチャー

 真っ白なオーラがシェスターの身体を包み込む。

 さながらそれは、残された力を全て振り絞った最後の炎にも見えた。


(竜種の弱点は、他の部位と比べて皮膚の柔らかい喉元か首の付け根だったよな。 あのブレスを掻い潜り、一撃喰らわしてやろうじゃないか)


 ジェイド・ドラゴンが口を開く。 ブレスが放たれる瞬間、シェスターは気力を振り絞って前に出た。


 吐き出される風刃のブレス。 それに向かって走り出し、直撃する寸前で大きくジャンプすると、ブレスを放った直後で硬直状態にあったジェイド・ドラゴンの首の付け根を目掛けて、剣を突き刺した。


「グギャアアアッ!!」


 悲鳴をあげるジェイド・ドラゴンが首を振り回すが、シェスターは振り落とされるのを踏ん張り、剣を刺したままグリグリと掻き回した。


「倒れろ! このトカゲ野郎!」


 いける。 このまま、ジェイド・ドラゴンに致命傷を与えれば、自分は勝てる……と、思った矢先、ジェイド・ドラゴンが一際激しく首を一振りし、シェスターを地面に叩き落とした。



「かはっ!? ……情けないな、弱点に一太刀浴びせたっていうのに、致命傷を与えられないのか、僕は」


 幼い頃からトップだった。 いつかは、必ず騎士団の中でも成り上がる予定だった。


 そんな自分の最期は、あまりにも呆気なく、こんな形で唐突に訪れるとは、つい先程まで思ってもみなかった。



 仰向けに倒れたまま、目の前にジェイド・ドラゴンの足が見えた。


 このまま、自分は踏み潰されて死ぬのかと、覚悟を決める。


(マーガスにも、騎士団の皆にも、迷惑かけちまったな。 ごめんな、馬鹿な男で……)



 目を閉じる。 ……が、大きな衝撃音に再び目を開ける。


 いない。 確かに目の前にあった、ジェイド・ドラゴンの足が無いのだ。



「……新人騎士はいえ、流石は騎士団の一員だな。 アンタの気概、見せてもらったよ」


 聞き馴染みの無い、だが、聞いた事のある声が聞こえた。


「……お、おまえは……」


「なんで単独行動してるのかは分からないが、最後まで逃げずによく戦ったよ。 しかも、ジェイド・ドラゴンに一撃与えるなんて、アンタ将来良い騎士になれるかもな」


 随分と落ち着いた声だった。 ジェイド・ドラゴンがいるのに、なぜそんなに冷静なのか、シェスターには理解出来なかった。


「それにしても、竜種がこのエリアまで逃げて来るとはな……間違いないな、これは」


 シェスターは上体を起こすと、信じられないものを目にした。


 目の前には、あの学生……ヴィーが立っており、ジェイド・ドラゴンが倒れて藻掻いていたのだ。



「一体……何が……?」


 ジェイド・ドラゴンがシェスターを踏み潰そうとした瞬間、ヴィーが横から飛び蹴りを喰らわせたのだ。


「ああ、アンタの獲物を奪うつもりはないんだが、状況が状況だし、勘弁してくれ」


 シェスターは、ヴィーが一体何を言っているのか理解が追い付いていない。



「グオオオオオオオオオッ!」


 すると、復活したジェイド・ドラゴンが、怒りの咆哮をあげながら、ヴィーに向かって突進して来た。


 一撃で岩石をも粉々にする尻尾による攻撃……それをヴィーは難なくキャッチする。


「おイタが過ぎるぞ、トカゲ野郎」


 そして尻尾を掴んだままジェイド・ドラゴンを木々を薙ぎ倒しながらぶん回し、森の奥地の方に放り投げた。



「え……ええ!?」


 シェスターが唖然とした声を上げる。 これは夢なのだろうか? と。 危険度レベル8の竜種を、一介の学生が素手でぶん投げたのだから。


「おい新人。 こういう場合は出来るだけ対象を人のいない方向に追いやるんだ。 今やったみたいに」


 出来るか!! ……と言いたかったが、実際に今目の前でヴィーが実践したので、シェスターは何も言えなかった。



「じゃあ新人、着いて来い」


 そう言って、ヴィーはジェイド・ドラゴンを放り投げた方に向かって走り出す。


(着いて来いって言われても……行くしかないか)


 シェスターはダメージでバキバキの身体に鞭打って、なんとかヴィーに着いて行く。


 そこには、低い唸り声をあげてヴィーを睨むジェイド・ドラゴンと、涼しい顔のヴィーが立っていた。



「さっきおまえが狙った通り、竜種は首の付け根と喉元が弱点だが、付け根を狙う場合は一撃でしとめなければさっきのおまえみたいに振り落とされる危険性がある。 なら、喉元狙う必要があるのだが、常に首が下を向いているから狙い辛い」


 ヴィーはまるで竜種の倒し方をシェスターにレクチャーしているようだった。

 それは、騎士団の臨時講師としての習性だったのかもしれない。


「なら……おまえならどうする?」


 どうすると聞かれても、シェスターは自分ではどうする事も出来なかったから首の付け根を狙ったのだ。 結果、ヴィーの言う通り振り落とされてしまったのだから。



「分からないのか? 首を跳ね上げれば良いんだろ……こういう風に」


 そして、ジェイド・ドラゴンの顎を蹴り上げる。 すると、無防備な喉元が顕になった。


「今だっ! やれ!」


「えっ? えっ?」


 突然、やれと言われても、あまりに突然の事にシェスターの理解が追いつかなかった。



「遅い! ほら、喉元が隠れちまったじゃないか」


 そんな事言われても……と戸惑うシェスターだったが、ここに来て漸くヴィーの意図を読んだ。


(まさか……竜種の倒し方をレクチャーし、僕に倒させるつもりなのか?)


 この場面で、しかも竜種を相手にレクチャーを始めるなど、シェスターには考えも及ばない行動をとるヴィーに、驚きよりも尊敬にも似た感情が芽生えていた。


(竜種相手にこんな余裕で………この学生……いや、もう認めよう。 この人は、俺なんかよりも遥かに強いんだ。 竜種を教材扱いしてしまう程に)



「グルオアアアアアッ!!」


 怒りと戸惑いの混じったジェイド・ドラゴンの咆哮。 熟練の騎士ですら恐れ慄く迫力だ。


「じゃあ、もう一回やるぞ? そらっ!」


 だが、そんな咆哮など一切気にせず、再び顎を蹴り上げて喉元を顕にさせた。


「やれっ!」


「う、うおおおおおっ!!」


 今度はヴィーの合図に応え、シェスターは文字通り最後の力を振り絞ってジェイド・ドラゴンの喉元に一撃を叩き込んだ。


「グギャアアアアアアッ!!」


 ジェイド・ドラゴンは喉元を斬り裂かれて悲鳴をあげる。


「はっ……殺ったか?」


 シェスターは今の一撃、自分でも驚くくらいの手応えがあった。

 本当に、自分がジェイド・ドラゴンを倒せたと思うくらいに……。



「それ、確かフラグってやつだな。 マルクが教えてくれたんだけど、そういう事言うと……ほら」


 ジェイド・ドラゴンはまだ死んでいなかった。


 そして、瀕死の状態で、最後の力を振り絞ったブレスを放とうとしていたのだ。


「う、嘘だろ……?」


 ジェイド・ドラゴンのブレスをこの至近距離で受ければ、間違いなく自分は死ぬ。

 そう判断したシェスターがヴィーを見ると……ヴィーは異空間から黒い刀・ダークマターを取り出していた。


「対象の弱点を狙うのは常套手段だ。 でも……」


 そして、ジェイド・ドラゴンがブレスを吐き出す寸前。紫黒のオーラを纏った剣筋が一閃……。


 後には、首が胴体から斬り離されて絶命したジェイド・ドラゴンが激しく転倒した。


「全てを斬り裂く一撃を磨けば、弱点など関係なくなる」


 そう言って、ヴィーはダークマターを異空間にしまった……。



 シェスターは、オルテガや先輩騎士達が、何故あんなにもヴィーを信頼していたのかを、ここで漸く知る事になる。


(ジェイド・ドラゴンを……一撃で? この人、一体何者なんだ……)


 そして、ヴィーに対抗心を燃やしていた自分が、どれだけ愚かだったのかを思い知ったのだった……。

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