8限目 素晴らしい
書くことねえや。
「何やら、あの子たちのほうは騒がしいようね。」
グラシアは、とある部屋に置かれている水晶に映る寮での宴会の様子を見てリャーギェル達に言った
『ええ、まあ。こちらの世界に来て、慣れずに怖気づくよりかはよろしいかと。』
「・・・そうね。それに、楽しそうで何よりだわ。」
微笑んでそういった
「そうだ、リューギェル。明日あの子たちに街の観光をさせるんでしょう?」
『はい。この街、この国でのルールも覚えてもらおうかと。』
「そうね、リューギェル、明日あの子たちに金貨1枚と、一万リルほどさしあげなさい。そのくらいあれば、しばらくは不自由せずに過ごせるでしょう。朝と夜ご飯も寮で食べれるでしょうし。」
『はい。分かりました。』
「ついでに、レインちゃんにはこの国でのファッションも教えてあげてね。」
『・・・私はそういったことには疎いのですが。』
「なあに、ちょっとした知り合いがこの店にいるわ。よろしくね。」
グラシアはリューギェルに一枚のカードを渡し、ウインクをした
―――――――――――――
お湯と木のいいにおいがする。
俺とは宴会があった後、リンクしていないと気付いて流石にそれは汚いからと風呂に入ることにした。因みにリッキーも一緒だ。
この寮の全員が使うから当然なのだが、かなり広い浴場だ。現実のようなタイル張りではなく、床、壁から天井まで、すべて木製だ。勿論、シャワーなんてものも存在しないから、体を洗うときは湯船から直接お湯をくむ。あ、でも石鹸は存在した。
城は洋風なのに、この寮の雰囲気は和だ。趣があって素晴らしい。お湯が温泉なのも素晴らしい。男女交替で入るという仕組みも素晴らしい。
「なあ、リッキー。」
「なんだ?ヒナタ。」
顔と性格に似合わず、頭にタオルを乗せているリッキー。イケメン補正なのだろうか。メガネが曇っていない。
「この浴場、さっきまであのメイドさんたちが入ってたんだよな。」
「・・・そうだが?」
風呂でもはしゃいだのだろう。洗面器は散らかって、長い髪が大量に落ちている。
「何かコーフンしない?」
「馬鹿いえ。」
「・・・お前はさ、あの中に好きな人とかいないの?」
「いない。」
ポーカーフェイスで、素早くこたえた。
「ふーん。」
「お前はどうなんだ?特にあのレインの事とかは。」
「う~ん。可愛いとは思うけどさ、やっぱまだ知り合ったばっかだし・・・。」
「何が言いたいんだ。」
「ん~・・ブクブクブクブク。」
鼻まで湯につかる。答え方が分かんないからとりあえず現実逃避。
「・・・ふう。そろそろ上がるぞ、俺は。」
「あ、じゃあ俺もそうする。」
タイルとは違って暖かい木の床を歩き、脱衣所に出る。濡れてすぐに駄目になりそうだけど、俺もこんな風呂が欲しい。
「悪いな、寝巻借りちまって。」
「別に構わないよ。そっちは俺のじゃないから。」
「え?」
「さっき俺が蹴った奴。あいつのだよ。どーせ伸びてるから今日は使わんだろう。」
「・・・おう。」
少し大きいサイズの寝巻を着て、自分の部屋へと戻った。
―――――――――――――
「・・ナタさーん。ヒナタさーん。」
女の人が俺を呼ぶ声。だが母親のものではない。
『・・・ちょっとどきなさい、レイン。』
ベト
顔にいやな感触。何か冷たくてぬるぬるの・・・。
「ふあ!?」
びっくりして起きる。俺の顔に乗っていたものは・・・。
『くくくくくく・・・。』
見上げるとリューギェルが馬鹿にしたように箸でこんにゃくをつまんで笑っている。
んのやろおおお。朝っぱらからジト目を発動してリューギェルを睨みつける。
てかこんにゃくってこの世界にもあるんだ。うまいもんな。
というより何で今持ってんだよ。俺に悪戯する気満々だったんじゃねえか。
「ヒナタさんが起きないからですよ・・全く。夢の中でまで熟睡しないでください。」
少し頬を膨らませてレインが怒る。可愛い。
「えーと、今日何の日だっけ。」
『今日はこの町を案内するよ。早く朝飯でも食べて準備しなさい。』
「・・・おう。」
部屋を出て下の階へと降りる。
食堂にいたのは、メイドさんが数人だけだった。
「あ、おはようございます!そして初めまして!!ヒナタ様は目覚めが遅いのですね!!」
・・・笑顔で、しかも初対面で毒を吐かれた気がする。
挨拶をしてきた女の人は、黒髪で背が高く、絵にかいたようなTHE・メイド服を着ていた。あと多分見た感じアレの大きさはBカッ(ry
「すいません、他にもいっぱい人いましたよね?」
あまりの人数の少なさに尋ねてみる。
「あ、はい!他のものは、城へと出かけております。この寮に残っているのは、私とそこにいるロップル。そして、洗濯物を干しているエレンだけです。ロップルのほうは、ぐったりしてますが、ただの二日酔いですので気にしないでください!」
確かに机を見るとどう見ても小学生くらいにしか見えない朱色の髪の女の子が気持ち悪そうに伏せていた。話の合間にたびたび聞こえてた『気持ち悪いよお・・・。』という声はお前のものだったのか。
てか、二日酔いて。本当にここの平均年齢どうなってんだよ。
「そうですか・・・。あ!!洗濯物って俺の服・・・。」
「大丈夫です!ヒナタ様とレイン様の服は、あらかじめ乾かして、部屋に置いている筈ですから!」
「あれ?そうだっけ。」
「はい!そんなことよりも、朝食は、レイン様と一緒でよろしいですか?」
「あ、何でもいいっす。」
そういって運ばれたのは、丸いパンと木のお皿に入った、野菜のスープだった。
うん。すごくシンプル。
『いただきます。』と、手を合わせて食べ始めたのだが、それがどうもこの世界では新鮮だったらしい。少し不思議な目で見られた。
現実ではあまり使う事のない、木のスプーンでスープをすくい口へと運ぶ。
ほのかな甘みのある人参と玉葱。まろやかな舌触りのスープと共に口の中にしみこんでいく。
・・・うまいじゃないか。
パンをちぎって口の中に入れる。小麦のいい香りが鼻を抜けていく。現実のような既製品のパンからは絶対に出せない味だ。
ただのパンとスープなのにこんなにも美味しいとは。朝食が贅沢に感じられる!ありがてえ!!
某ギャンブラーの気持ちがわかった気がする。
「ごちそうさまでした。」
ここまで丁寧に言ったのは初めてだろう本当においしかった。
「食器はそこに置いといてください!」
「分かりました。」
やたらとこの人元気だな。セリフ全てにビックリマークが含まれているとは。
なんて思いつつ階段を駆け上った。
部屋へ戻ると、布団の横に、確かに服が置かれていた。てか勝手に部屋に入られてたのかよ。
すぐに着替え、寮の入り口へと向かった。
『やっときたねえ。』
「わりい、わりい。現実では土曜日だからさ、一日中寝たくなる気分なんだ。」
『そうかい、そうかい。それじゃあ、はい、二人とも。』
リューギェルから何か小さい巾着袋を手渡された。開いてみると、中には金貨一枚とお札が5枚、そして、硬貨が何枚か入っていた。
『確かに渡したからね。金貨一枚と一万リル。リルというのはここでのお金の単位。5000リルずつ札と硬貨に分けてある。金貨は、金だから多少の誤差はあるが、一枚で大体10万リルの価値がある。だから、大切に保管しておきなさい。』
・・・10万。10万!?太っ腹だな。現実だと俺の貯金は一万あるか、ないかくらいだぞ。
「・・・何かありがとう。」
『礼なら王に。これを渡すよう言われたのは王だからね。』
「じゃあ、お前から言っといてくれ。もうあの階段を上るのはこりごりだ。」
正直、筋肉痛にならなかっただけでも幸いなくらいだ。変なトラウマもできたし。
『ピイ!ピイイ!!』
突然、3階からトラウマの原因でもあるピイが飛んできた。
昨日、あの男――名はコールというらしい。コールに下敷きにされた後、メイドさんたちの手によって救出され、そのままレイアという少女に抱かれたままだった。
3階から出てきたという事は、しばらく彼女と一緒だったのだろう。てことはお風呂も一緒に入ったのか。羨ましい奴め。
「お前も来るか?」
さりげなく誘ってみる。てか、ついていきたくて外に出たのだろう。
『ピイ!!』
元気よく、体を揺らしてピイが返事をする。口なんて見当たらないがどこから声を出しているのだろう。
「わかった。よし、じゃあ行こうぜ。」
『商店街は、この先を100m程行けばある。歩けばすぐの距離なので、覚えておくといいだろう。』
「そういえば、今日はお前だけか?リャーギェルはどうしたんだ?」
『おそらく、訓練兵に座学を教えてるだろう。あいつは世話焼きだからねえ。』
「そか。」
「早く行きましょう!ヒナタさん!!」
何やらテンションが上がっているレインと寝起きの俺。
大きく伸びをして、商店街に向かって足を踏み出した。
そういえば最近服買ったんだけど、まさかこんなに似合わないのかと後で気づき、返品してきました。