9限目 適当
タンスの角に小指ぶつけて、うずくまって頭上げたら開けっぱの引き出しに頭をぶつけるという・・・・。
舗装も何もされていない固い土で出来た広い道。その両脇に立ち並ぶ多くの屋台。中からは、威勢のいい声や、肉や魚の焼ける香ばしいにおい。先ほど朝食を食べたばかりなのにまたお腹が鳴りそうになる。
そんな光景が150M程連なるこの商店街で、多くの子供、大人、見回りの兵士が行き来している。勿論物を買う目的だけでなく、路上パフォーマンスのような芸を見ている人もいれば、散歩をしているだけという人もいる。ただ一つ言えることは、とてもにぎわっているという事だ。
「お~すげ・・・。都会じゃあぜってえ見れないな、こんなの。」
「そうですね・・・。現実みたいに信号や、車が通っているわけでもないですし・・・。」
『馬車は時々通るがね。』
それにしても新鮮だ。道沿いに並ぶ屋台も、屋台の後ろの建物の壁からかけられているモールも、祭りとかでしか見たことがない。
包装もされずにそのまま外売りされている野菜も魚も、その魚をくわえて屋根の上を走っていく野良猫も、某日曜の終わりを感じさせる国民的アニメでしかまず目にしないだろう。平和天国日本では品質とか、衛生管理が重視されてるからな。
『・・・二人とも、自由行動するだろう?』
「お前はどうするんだ?」
『適当に喫茶店でくつろいでいるよ。それに、私は君たちの保護者じゃあない。案内役もこれで終了さ。後は自分たちで責任もって行動すればいい。』
「おけまる。それじゃあ、俺は、服でも買いに行くかな。流石にずっとおんなじ服ってのもなんだし、寝巻も借りっぱなしじゃあ悪いし。」
「え?ヒナタさんも服を買いに行くんですか?」
「・・レインもなの?」
「はい!あの、それだったら少しついてきてほしいんですけど・・・。」
「全然オッケー。むしろこっちが感謝だわ。こんなに人がいるところで単独行動ってなんかさみしいし。」
「あ、ありがとうございます!」
レインがほほ笑む。うん。可愛い。
さっき俺は、一緒についてく理由にさみしいとつけた。まあ、それも本当なんだけど本心は、レインとデートができて超嬉しい!だ。それに、服を買いに行くなんて超定番のコース。昨日リッキーに好印象を奪われた分、俺もしっかりとアピールチャンスを増やさないとな。服も買えてアピールもできる。まさに一石二鳥。いや、試着室からのラッキースケベが見られる可能性を考えると三鳥にも四鳥にもなりうるな。現実では考えられないチャンスだ。
俺とレインとピイは、リューギェルと一旦分かれて道を歩き出した。
歩き出して20秒ほど、俺はレインが何やらカードを見ながら歩いていることに気が付いた。
「なんだ?それ。」
「あ、今朝、リューギェルを通じてグラシアさんからもらったカードです!何やら、お洒落な服屋さんを紹介してくれるみたいで!!」
今朝のテンションはそういう事か。
ふーん。と返して、そのカードによく目を通してみる。
シンプルな白と黒のデザイン。右上に小さく筆記体で『Loussier's Clothes shop』と書かれている。おそらく店の名前だろう。真ん中には、小さく地図が書かれており、どうもそれを見て進んでいるようだ。
しかし、女王様の行きつけだなんて、相当な高級な店じゃないんだろうか?さっき10万リルという大金をもらったが、すぐに使い尽くすかもしれないな。実際現実でも一着一万くらいする服なんて大量にあるし。まあ、俺の着てる服は3000円くらいのものだが。
「そういえばさあ、」
歩きながらレインに聞いてみたかったことを質問してみる。
「レインって日本人じゃないよな?けど、初めて会ったとき、少し日本語話せてたけどなんでなんだ?」
「え~とですね。ボクの叔母が日本に住んでて、小さい頃に2年間ほどお世話になった時期があって、基本会話位なら少しだけ覚えてたって感じです。」
なるほど、お決まりのパターンだな。まあ、どうという事はないが。
「そういえば、ヒナタさん。今日は現実で休日だって言ってましたけど、こんなに寝てていいんですか?流石に一日中寝るのは両親に変に思われるのでは?」
「あ、それなら大丈夫。?両親は基本休日も仕事だし、俺も普段から寝てるから、誰も心配することは無い。レインのほうはいいのか?」
そう聞くと、何故かレインが少し『あっ』というような少し戸惑う表情をしたが、すぐに元に戻った。
「ボ、ボクも、ヒナタさんと似たような理由です。」
「そっか。それにしても、まだなのか?そのお店。」
「はい・・・。おかしいですね・・・。この地図だとまっすぐ進めばいいみたいに書いてあるけど・・・。」
もしやと思い、レインからカードを借りて地図を確認した。案の定、道を真っ直ぐ行くようにと書かれてはいるが、進むべき道はおろか、方角さえも間違えていた。
「レイン・・・。もしかしてお前・・。」
ジト目でレインを見つめる。
視線の先のレインは、恥ずかしがるように少し下を向いて口を開いた。
「はい。方向音痴なんです・・。」
「マジかよ。真面目そうなのにな。」
なるほど。今理解した。俺についてきてほしいといった理由はこれか。まあ、そうだよな。何かしらの期待を持った俺がバカみたいじゃないか。
「今太陽どっちにある?」
「えーと、もうすぐ正午なので南ですかね。」
「てことは・・。起きた時は太陽が向こうにあったから・・・。こっちが西だな。なんだよ。来た道と逆じゃないか。」
「あ、す、すいません!」
小さく頭を下げるレイン。本当によく謝るな、この子。
――――――――――――
「・・・ここだな。」
「ここですね。」
目の前にある建物は、想像していた豪勢なものではなく、意外と普通の店で、緑と金で装飾された扉と横にある、マネキンや靴が飾られた大きなショーウィンドウ。上の看板と突出看板には、カードと同じく、『Loussier's Clothes shop』の文字があった。
把手を握り、静かに押す。カララン、という金属の音とともに俺達を出迎えたのはどこかで嗅いだことのあるような花の香りと、数々の服だった。
「いらっしゃーい。」
「いらっしゃいませー!!」
次に耳にした声は、どこかやる気のないような男の人の声と元気な女の人の声。
そしてその例の女の人は、店の奥から入口へと服を二、三着持って出てきた。
「どうも、初めてのお客様ですよね。私、この店を弟のセージュとともにやっています、ベル・ルーシェといいます。この度はどのような服をお探しで?」
そのベルという女の人は、すこしアホ毛が目立つものの、肩のあたりまで伸びた綺麗な茶髪をしていて、黒い服に、緑色のエプロンをしている。慎重も俺より高く、小顔で足がすらっと伸びている。いわゆるモデル体型。
そのベルさんに急に話しかけられたレインは少し戸惑っていた。
そんな様子を俺とピイが微笑ましく眺めていると、ベルさんが、レインの持っているカードに気付き、そのカード・・・。と、口をはさんだ。
「ちょっと、そのカード貸してもらってもいいかしら?」
あ、はい。とレインが返事をしてベルさんに渡す。
ベルさんは、カードの表ではなく、ひっくり返して裏を見ていた。そのとき、一瞬俺にも見えたのだが、そこにピンク色の文字で書かれていたのは、おそらくだがグラシアさんのサインだった。
「成程ね。グラシアの勧めでここに来たという訳か。アイツもお節介ね。」
ベルさんがそう独り言を言いながら、レインにカードを返し、言葉をつづけた。
「それじゃあ、改めまして。ようこそ、ルーシェの服屋へ。グラシアとはちょっとした知り合いでね。今でも時々お世話したりされたりお互い様な関係なのよ。」
「そうなんですか。」
「当たり前だけど、服を探しに来たのよね。えーと二人とも名前は・・・。」
「レインです。」
「ヒナタです。」
『ピイ!』
いや、お前までしなくてもいいぞと突っ込みを入れる。
「レインちゃんはどんな服が好みなの?」
「好みですか・・・。う~ん・・・。」
その後も、ああでもないこうでもないと服の事でお互いに話し合っている。これだから女という生き物はわからない。
まあ、この辺には見た感じレディースの服とかしかないようだし、とりあえず店の奥の方も見てみるか。
ベルさんが出てきた方へと歩く。
そこには、沢山の生地と定規やハサミが並べられた机、そしてその隣の椅子で本を読んでいる、ベルと同じ恰好をした茶髪の青年がいた。こいつがセージュだろう。ぱっと見は俺と大した年齢差は無いように見える。
まあ、今朝及び昨夜のメイドと同様、ココの世界の奴らの年齢なんて見た目と比例はしてないがな。
「メンズの服でも探しに来たの?」
突然、座ったまま話しかけられた。
「だったらここじゃなくて、そこの階段上ったらあるから。」
『そこ』という場所を示すときに顎を使うセージュ。適当な接客だな。
「そうか、ありがとな。」
適当に感謝の言葉を言って階段へと足を進める。適当な言葉には適当な対応。それが俺のモットー的ななにがしだ。
2階へと上がる。確かにそこには男物のコートやシャツがかけられていた。
ここで思った、というより店に入った時から思ってたんだが、めちゃくちゃシンプルな服ばかりだ。
現実みたいにジーパンがあるわけでもパーカーがあるわけでもない。
確かに今思えば、道ですれ違う人も無地の服ばっか来てたしメイドさんたちの寝巻だってもふもふはついていたが、星だのハートだのといった刺繍はされていなかった。寧ろ俺とレインの服装が特殊なくらいだ。
特にレインに至っては、周りと比べると少し露出の多い服を着ているからかなり目立っていただろう。今思えば男どもの視線がレインに対しては少し興奮気味だったかもしれない。俺がついてきててよかった。ナンパとかされてたら、絶対に一人じゃ対処できないだろうからな。もしかすると、それもあってグラシアさんは服屋のカードをレインに渡したのかもな。
なんて考えつつ服を見ていく。
まあ、ファッションなんてどうでもいいから、とりあえずシンプルな服を何着か買う事にする。
黒いシャツ、白いシャツ、羽織るような感じの少し大きめなシャツ、長ズボン、半ズボン、下着、寝巻にはフードのついた厚手の黒い服を、どれもなるべく安そうなものを選んだ。
はい、買い物しゅーりょー。
階段横に置かれていた網の籠に服を適当にぶっこんで2階のレジに行く。
と思ったが、誰もいない。まさか、この店二人だけなのか?
仕方ないのでセージュを呼ぶ。セージュは面倒くさそうに立ち上がると、階段の上の俺に向かっていった。
「2階まで上がるのめんどくせえから降りてきてくれ。」
だったら2階にまでレジつくるんじゃねえよ。一階だけで十分だろうが。
てかこの店一応女王様のお墨付きの店なんだろ?バイトくらい雇え。
仕方なく一階へと降り、入口のすぐ横のレジへと向かう。
「あれ?レインとベルさんは?」
「さらに向こうの部屋に行った。多分試着でもしてるんだろ。えーと・・・。会計1万9000リルだ。」
よし、安い買い物で済んだ。あと8万近く残ってるし、食べ歩きとかしてみるか。
いったんこの店から離れることをレインに伝える為に向こうの部屋に行った。
――――――――――――
「あーーー。なんて日だ・・・。」
服がきれいに折りたためられて入った紙袋を持って道を歩くヒナタの方は完全に堕落しており、顔には二つの赤い痣があった。
10分前
「おーい、おれちょっと買い物すんだから先に観光しと・・く・・。」
目に映るのはお約束の光景。
完全にカーテンレールの開いた試着室。ベルさんから服を、下着姿で受け取るレイン。
「あ。」
「え?」
レインと目が合う。
「どうしたのってキャー!!!ヒナタ君!?」
「えーと・・・これはその・・・。」
レインが顔を赤面させながら両手で顔を覆う。可愛いなんてリアクションをしている場合じゃない。
次の瞬間、俺は謝ることを決意した。のだが、体を曲げようとした瞬間、ベルさんが初めに一発右ほおに長い足で回し蹴りを食らわせる。
「ぐは!?」
「ごめんね!ヒナタ君が流石にお約束すぎるから!」
何か少しメタい発言をして謝ってきたが、勢い変わらず。今度はガ〇ル顔負けの見事なサマーソルトキックを左ほおに食らう。
そして俺は吹っ飛ばされてレジの前で倒れる。
「・・・ご愁傷様です。」
セージュが憐れむような目でそういってくる。
『ピ・・・ピイ・・・。』
まさかのピイにまで同情させられた。人外にまでそんな目をされるとは。
・・・という事があってだな、俺の今の気分は完全に暴落。世界恐慌もビックリだろう。
「仕方がねえ。何か食って気を紛らすか・・。」
という訳でいくつか屋台を見て回り、その中でも特に食欲をそそられた臭いの屋台に並ぶ。
その店のスタンド看板には、『ハイル鳥の串焼き~塩・特性ダレ~』と書かれている。うん。知らない鳥だ。まあ、こんなにいい匂いなんだから味に関しては外れではないだろう。
「いらっしゃいませー。」
俺の番がくる。
「えーと、串焼きの塩味を・・・。ピイも食べる?」
『ピイ!』
「じゃあ、串焼きを2本、塩と特性ダレで。」
「ありがとうございますー。会計600リルになりまーす。」
紙袋を持っていない右手で器用に巾着を開け、小銭で会計を済ませる。財布も買おうかな。
出てきた串は二本ともとりあえずピイに加えて持ってもらった。
「ありがとうございましたー。」
多くの客の対応に追われ、挨拶も少し適当になっている店員に背を向ける。昼時だから大変なのだろう。まあ、そんな中でも接客は明らかにセージュよりかは上だがな。
「よし、食ってみるか。」
ピイから片方、まずは定番だろう塩のみで味付けされた串を受け取る。
すげえいい匂いだ。気をつけて持たないと指にまで垂れてきてしまうほどのあふれ出す肉汁、小麦色にやけた表面。俺に待てというようなご主人様はいない。
俺はさっそくかぶりついた。
「う、うまい・・・。」
普通においしい。密度の大きいしっかりと詰まった肉。噛むと繊維のしつこさを少し残して身がほぐれていく。その度に口の中に広がる肉汁、シンプルな塩だけの味わいが肉本来の美味しさを邪魔せず、そしてよい引き立てとなっている。やばい。白米欲しい。
「えーと、じゃあ、次はタレの方も行ってみるか。」
ピイの口に・・というか口でもなければくわえているわけでもないな。ピイは串を口で持っているのではなく、プルンプルンの肌に挟んで器用に持っている。
特性ダレのほうをいただく。タレのかかった肉は、先ほどの塩味よりもより香ばしいにおいをしている。コンマ0でかぶりつく。
「うわあ・・・。うんま・・・・。」
塩味とは違って少し甘みを感じるようなタレ。鼻で感じる香ばしさと舌で感じる甘さ。頬を内側から攻めていくあふれんばかりの、たれと絡んだ肉汁。さっきの塩味には負けず劣らず、どっちを食べてもうまい。
俺の嗅覚を頼りに進んでよかった。
「ピイも食べていいんだぞ?」
『ピイ!!』
と、言っては見たが、そういえばピイには口と言える部分が見当たらない。どうやって栄養を取っているんだ・・・。
と思った次の瞬間。
体の表面に一筋の亀裂が入ったかと思うとそこから見えたのは無数の白い牙。串を振り上げて宙に浮かせ、それに勢いよくかぶりつく。口に入ると、その亀裂は何事もなかったかのように体と同化し見えなくなる。ピイは体を揺らしながら美味しそうに咀嚼していた。
「・・・なかなかのトラウマもんだな。・・・園児だったら暫く一人でトイレいけないくらい・・・。てか口やっぱあったんだ。」
『ピイ?』
ないとでも思ったの?というような表情で俺を見る。まあ、正直あるとは思わなかった。ほら、よくあるじゃん。こういう感じの生き物って食べ物を体に取り込んで食べるとかさ。まさかの猛獣のようなそんな鋭い牙でかぶりつかれたら流石に見た目とのギャップが激しすぎて混乱するわ。
「まあ、うまいもん食えたしいっか。」
という訳で次は財布を買う事にする。何かいいものはないかなー。とみていると、よくスーパーの道の真ん中とかで置いてある大きめの籠に、『大特価』みたいな感じで賞味期限ギリのカップ麺とかが置いてあるやつ。アレの財布版みたいなのがあった。
その中からがま口の小銭入れと、革で出来た長財布を適当にとって近くの店員にお会計。
革の財布なんて高そうに聞こえるが、大特価してるくらいだ。二つで500リル。うむ、いい買い物。
早速金を移し替える為に路地裏に行く。
路地裏に移動した理由なのだが、実は商店街に歩いていく途中にリューギェルから、ココは意外と治安が悪く、スリやかっぱらいが多いから、多くの金を道の真ん中では出さないようにと言われていた。
いや、見回りの兵士がその辺は仕事しろよ、と突っ込んだが、こっちに来て納得。兵士も買い物やら食事を楽しんでいるようだった。
「よし、これでとりあえずはいいかな?」
小銭をがま口に、お札を長財布にいれて、金貨は一応きんちゃく袋に入れたままにしてズボンのコインポケットにしまっておく。ここの世界のズボンにはそんな便利な機能はついていなかった。つまり現実から来た俺達の特権だ。
準備も済ませ、路地に抜けようとした時だ。
今度は向こうから路地裏に人がやってくる。ボロボロの服、鼻まで被ったとんがり帽子は、どこか怪しさを感じさせる。警戒しながら歩くと、何やらぼそぼそ言っているのが聞こえた。
「じょやはすぎ・・・。古きの飛びし・・天の国・・・。鎌なき室は安の元化す・・・。」
確かにそう言っている。
・・・リズムは5・7・5・7・7だ。この世界にも短歌ってあるんだな。何だ?この人は詩人か何かなのか?
何か変な違和感を感じながらも気にせずに路地裏を出た。
ブックマークよろしくお願いいたします。
普通の事言ってみた。




