10限目 笑みがこぼれる
暫く投稿頻度が低下するおそれあり
「あ~、ただいま~。」
誰もいない部屋に向かって、どっと吐き出すように声を出す。
かなりいろんなものを買った。服に靴に財布に鞄に時計に・・・。ピイがいなければ全て持ち運べられなかっただろう。
「サンキューな、ピイ。」
『ピイ・・・。』
ピイもかなり疲れたように鳴く。頭の上に荷物を載せてたから当然か。
『お疲れのところ、失礼するよ。』
「失礼しまーす。」
リューギェルとレインが部屋の扉を開け、入ってきた。
レインも、ルーシェに服屋でかなりの服を買っていたし、その他の生活用品もいくつか買っていた。にもかかわらず、ここまで元気なのはたまたま通りかかったメイドさんの群れに殆どの荷物を持ってもらったかららしい。
何という運の良さ。羨ましい限りです。
「んで?何しに来たの?」
『明日の事だよ。悪いけど、君たちの休日も一旦は今日まで。明日からは城の裏でお互いがお互いにあった修行等をしてもらうよ。』
「は?」
『悪いけれども、正直君たちがいくら森の魔物の弱点になるような知識を持っていても攻撃はおろか、近づくことさえできなければ意味がない。森へ向かうのは今でなくてもよいのでね。』
「でも?ガラルムンクが攻めてきたらどうするんだ?」
『ふふふ。シックザールの軍事力を甘く見てはならないよ。確かに王はガラルムンクは脅威だという風に言っていたが十分張り合えるだけの力は持っている。何せ、この国には『六凄絶』と言われている者たちが3人いるからね。』
「ごせいぜつ?」
『数年前の大陸同士の争いで活躍した6人の英雄の事さ。彼らの圧倒的な力はすぐに全大陸に知れ渡ったよ。そのうちの一人が昨日、王も話していた『マーク・バーツ』さ。』
「・・・そんなすごい奴らが3人もいるんならガラルムンクなんてボッコボコなんじゃねえのか?」
『そういう訳にもいかない。国、兵士、兵器の数は圧倒的にガラルムンクのほうが大きい。それに六凄絶の内の二人もガラルムンクにいるからね。だが、向こうからしてみても、こちらの方が数が多い魔導士や魔道具が怖い。両社痛み分けで決着をつけるくらいならある程度確実に勝てる手段を取っておくために互いの国がにらみ合いをしているのが今の状況さ。』
「すまん。知らん単語が二つ出てきた。」
『魔導士と魔道具だね。魔導士とは魔法が使える人物の事を表す。魔導士は魔力エネルギーを結晶化させたものをエネルギーにしたり、魔導士自身の魔力エネルギーを消費して使うものさ。』
「その結晶の例が森の魔物から出てきたその水晶の事か。」
『そういう事だ。という訳で明日の朝から城に来てもらう事にするよ。』
「すまん、無理。」
『・・・寝たいからとかいう理由はなしだよ、勿論。』
「おう。明日、現実の方で部活の試合があるんだ。なんだかんだ俺、スタメン張ってるからさ。行かなくちゃならねえ。」
『・・・では、夜でもいいからこっちに戻ってきた時に城に来てくれ。私はこの辺で失礼する。』
「あいよ。」
リューギェルは少し困ったような顔をしながら部屋から出ていった。
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「日向!6番マークしろ!!」
「分かった!!あ、ザワ!9番裏抜けた!!」
日曜日。今日は朝っぱらから近くの運動場でサッカーの試合。俺は右サイドバック(右のDF)だ。
相手はなかなかの強豪校で、去年の先輩が県大会の決勝で負けた学校。この試合は小さいリーグの中の一戦とはいえ、部員から顧問の先生まで気合が違っていた。
かく言ううちの高校も、県では一位二位を争うほどのレベルは持っている。そう簡単に負けるほどやわではない。
敵のスローインが頭上を飛び、相手の9番の選手の胸へと吸い込まれる。だがそのボールは、しっかりと俺が指示したザワ(本名は澤信彦)がカット。
そのボールは、一気に前線を押し上げたオフェンス陣へと回される。左サイドにボールが渡ったので右サイドの俺はハーフラインより前へ、次にトップ下の選手に回ったボールはダイレクトに今度は俺のもとに。
相手のインターセプトをかわすように前へ出ながら進行方向と逆方向にボールをトラップ。そのまま相手をかわしてペナルティーエリアにボールをけりこむ。
それはしっかりとセンターにいる選手に渡り、そのままゴール。
かと思いきや、相手のキーパーが前に出てきてセンターに渡る前にボランチの選手へとパンチング。
「前線下げろ!!ディフェンスライン元に戻せ!!」
センターディフェンスであるザワの指示で再び俺はボールをとらえながら自陣へと戻る。やはり一筋縄じゃあいかないようだ。
春の日差しに照らされて光っている汗をぬぐいながら俺は走り続けた。
専門用語ばっか使ってすいませんでした。一応謝罪はしたかんな。byヒナタ・ヒイラギ
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「ん~。朝だーーー。」
下で支度をするメイドさんたちの少し騒がしい音とともに目が覚める。この音で目が覚めなかったヒナタさんはすごいと思う。大きく伸びをしてあくびが出る。ボクは立ち上がり、布団を押し入れにしまう。
そういえば、昨日リューギェルが朝から城に来いと言っていた。内容はボク達を鍛えるためだ。
という訳で、運動しやすそうな服に着替える。昨日はベルさんに色んな服と、この世界でのファッションを教えてもらったけど、あまり現実と変わらなかった気がする。
一応1000リル程持っておき、部屋を出る。見ると、横でレイアさんとミシリスさんが正座をしてエミルさんに怒られていた。
「あなた達は何をやっているのですか!!いくら意識がないからとはいえやっていいことと悪いことがあります!!」
「だってー。」
「何か滑稽だったもん。」
「いいですか?あなた達は城でメイドとして働く以上、ある程度の無礼はわきまえるのが当然です!軽はずみな理由で行動しては、何か起こってからじゃあ遅いのですよ!?」
エミルさんは相当怒っているようだ。あまりこういう事は言いたくないが、下着姿でも許せないくらいのようだ。
「あの~。」
「あ、レイン様!!起こしてしまいましたか!」
「いえ、それは別に良いのですが・・・。今日は城に行く予定でしたし。何をそんなに怒っていられるのですか?」
「じ、実はですね・・・。その・・。」
「ヒナタの顔に落書きしただけ。」
「ついでにパンツ一丁にしただけ。」
レイアさんとミシリスさんが口をへの字にしていった。
「・・・へ!?」
「はあ・・・。二人の言う通りです。レイン様。本当に申し訳ありません。この馬鹿二人が・・・。」
「それで・・・今ヒナタさんは・・・。」
「そのまんま。」
「まんま。」
「な に し て る ん で す か 。 」
ヒナタさんの部屋に入ってみる。
・・・確かに二人の言ったとおり、ヒナタさんはうつ伏せにパンツ一丁で倒れており、横を向いた顔には『う〇こ』だのにこちゃんマークだのといった落書きがされていた。
「・・・あの、二人とも、これは油性で書いたのですか?」
「いや、水性。」
「その辺はちゃんと考えてる。」
「考えてるなら初めっからやめなさい!!」
エミルさんがグーで二人の頭をたたいた。
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城に着くと、門の前で誰かが待っていた。
『おや、いらっしゃったようですね。』
「えーと、あなたは・・・。」
『顔も姿もほとんど一緒なのでね。ワタクシはリョーギェルです。ヒナタさんは今はこられないことは存じております。では、一度中へ。』
歩き出したリョーギェルさんについていく。そういえば、あの後のヒナタさんだけど、脱がされていた寝巻を着させ、顔の墨はお湯で濡らしたタオルで丁寧に吹いたから大丈夫だとは思うけど・・・。
今日、寮に残るのはレイアさんとミシリスさん両方らしい。レイアさん自身がピイを抱いて嬉しそうにそういっていた。エミルさんが念に念を押して注意してたけど、悪戯をしないかすごく心配だ。
『さて、こちらですよ。噴水をまっすぐ行き、階段を上がるのではなく、右の道にそれた。』
「・・・?どちらへ行くのですか?」
『レイン様を待っていられる方がこちらにいられます。また、レイン様が修行する場所も、この道を行った場所になるので、覚えておいてください。』
わかりました。と返事を返すが、この城、思っていたよりもずっと広い。かなりの距離を歩いている。その際に、何人かの兵ともすれ違った。
10分ほど歩いただろうか。
大体城の裏側に近い部分まで歩いた時、リューギェルが足を止めた。
『着きました。彼が今日からあなたに魔術及び魔法を教えます。では、ワタクシはこれにて。【座標移動】。』
「あ・・・。」
そういってリョーギェルさんは姿を消した。
それにしても・・・。
リョーギェルさんが彼と言っていた人物は、こちらに背を向けてベンチに座り何やら分厚い本を読んでいる。とても長い金色の髪で、本を持つ手には複数の指輪がはまっている。
待ってても仕方がないので、恐る恐る尋ねてみる。
「あの~。ボク、レインと言います。これからあなたにお世話になると思います。よろしくお願いします。」
そういったはいいものの、彼はずっと背を向けたまま微動だにしない。それどころか、次のページをめくりだした。
「あ、あの~?」
聞こえていないのだろうか。
「もしも~し。・・・もしもし!!もしもーし!!!!!」
はっとなり手で口をふさぐ。あまりに反応がないからつい大きな声を出してしまった。
だが、それでようやく気が付いたのか、その男の人は本を閉じ、こちらを振り向いた。
「やあ、もう来てたのかい。」
切れ長の青磁色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめる。
「初めまして。僕の名前はメイシェル・フィーンセウォーク。君はレイン・フォレスターで間違いないよね?」
「あ、はい。そうです。」
「ふふ、よろしく。」
桃色の唇が小さく微笑みながらメイシェルさんが立ち上がる。そしてボクよりも30cmは高いその身長で見下ろしながら言葉をつづけた。
「さて、まず修行という名目についてだが、君はこれをどういう風に思っている?」
「・・・どういう風・・・?」
「僕はね、君にそんな畏まったトレーニングをさせるわけじゃない。出来れば緊張感や上下関係の壁はなくしてほしい。そんなものがあっては自分の真の力は出せない。」
「・・・はい。」
「僕もね、醜い戦争を戦ったからわかるんだ。本当に怖いのは経験豊富な手練れでも、一万の兵士でもない。恐れを、感情を持たないものだ。気持ちというものはどこかで必ずストッパーをかける。他人を敬う気持ち、勝てないと逃げる気持ち、そんなものは払拭するべきなんだ。少なくとも僕といる間だけでも何にも束縛されない、君自身の力を見せてほしい。」
「で、でもボクは魔術とかが使えるわけでも運動ができるわけでもないし・・・。」
「いや、そんなことはない。そもそも君の修行の担当は僕がかってでた。何故か?それは君自身に戦地で確実に生き残れる才能の塊を見出したからだ。そしてその塊は僕の手で磨いて一級品に仕上げたい。初めてだよ。今まで数多の人材を育成してきた僕がここまで赤の他人の魅力に惹かれるとは。」
「才能・・・。」
「まあ、前置きもこのくらいにして始めようか。才能を感じたとはいえ流石に君の力量までは深くわかっていない。そうだな・・・。その君の左ポケットにあるナイフを出してくれ。」
「え・・・!?あ、はい!!」
そう言われ、左ポケットからリューギェルから貰った(?)ナイフを取り出す。小屋の時のものだ。
修行と言われるくらいだし、このくらいは必要かなと持ってきておいたのだ。
勿論、危なくないように鞘も買っておいた。
「そうだな・・・。では、そのナイフを僕に当ててみてくれ。」
「はい?」
「別に切りかかってきてもいい。大丈夫だ。僕はそんなナイフ程度じゃあ目に当たっても傷なんてつかない。それに、僕は基本的にかわすだけだ。走って逃げたりはしないよ。」
「・・・。」
日本のある漫画で見た対決に似ている。その時の状況は人間対人間、ナイフで攻撃してしまえば相手に重傷を負わせてしまう。
その緊張感は凄ましいモノだっただろう。
でも、あの時のような緊張感はボクには存在しない。
ナイフを握る
だって目の前にいる人――メイシェルさんには私の攻撃なんて効かない、それに、
なぜか笑みがこぼれた
半端な行動なんて大嫌いだろうから。
ダン!!!
ナイフをしっかり握りしめ一歩踏み込む。
地面をけってベンチの背もたれに足を乗せ、そのままの勢いで飛び掛かる。
だがそれは腕を組んだまま紙一重でかわされる。分かっていた。
だからボクはナイフを振らなかった。
そうすれば硬直は最小限に抑えられる。やや左に移動したメイシェルさんの体をにらみ、右手に握ったナイフを横一文字に振る。
当たらない。今度は後ろに身を引いてかわされる。
それを待っていた
左肩まで振った腕が戻る勢いを利用し、ナイフを投げる。
素人の行動だ。ナイフはそううまく刃先を向けて真っ直ぐには飛んでいかない。
だがそれでいい 当たればいいのだから
後ろに移動すれば、当然重心も後ろに傾く。その体勢では左右に移動してかわすには時間がかかる。そんなことをしてればナイフは当たる。勿論、前後に移動しても結果は一緒だ。確実にナイフは当たる。
・・・と思っていた自分をぶんなぐってやりたい。
メイシェルさんは特に気にもせずにつま先で地面を蹴り、高く舞い上がる。
ナイフは空を切り裂き、勢いを落としてコン、と地面に落下する。その少し後にメイシェルさんも地面に降りた。
そしてナイフを拾い上げ口を開く。
「・・・考えは素晴らしい。一撃はおろか、二撃目もフェイクにし、重心が後ろに行くのを見てナイフを投げるとは、当てればいいというルールを逆手に取ったのには驚いた。」
「が、」と言葉をはさみナイフを僕に返す。
「敗因は敵の力量を見誤ったこと。一撃目を紙一重でかわしてくると分かっていたのならあのくらいは予測できたんじゃあないか?それに、ナイフを投げる行為は専用のものでなければふさわしくない。むしろ身を亡ぼす可能性だってある。初心である君に言うのもなんだが、覚えていてくれ。それと・・・。」
蔑むような表情でボクを見下ろす。
「その・・・。なんというか、体力が無いのはわかっていたが、そこまでだとはな・・・。」
苦笑しながらそう言った。
そう、ボクはメイシェルさんへの渾身の一撃を外した後、息が切れてその場に倒れこんだ。天を仰ぎ、酸素を体に取り込む。しばらく運動をしていなかったとはいえここまでだとは思わなかった。額に流れる汗が土にしみこんでいく。
「まあ、体力と魔力は似てはいるものの、力としては関係していない。体力が無いからとはいえ魔力がないという訳ではないからな。」
「・・・ハァい。わかり・・・ました。さっきの話も含め覚えておきます・・・。」
息を切らしながら答える。
「とにかく、体を休ませて体力万端になったら声を掛けてくれ。次に移行するから。」
やれやれというような表情でメイシェルさんは背もたれの曲がったベンチに座った。
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「ぜひ、この娘を僕の手で育てさせてもらえないでしょうか。」
「・・・勿論、構わないわ。私見てて、あなたが最も適任だとは思っていた処よ。」
「ありがとうございます。」
「ただ、なるべく早く恐怖心への耐性をつけさせるのよ。痛いほどわかっている筈だとは思っているけど、恐怖は人の力を奪う最大の敵であり、同時に慣れてしまえば人を突き動かす最高の原動力にもなる。」
「勿論です。」
「あなたもよ、キュワ。」
「ふぇ?ミャーがこっちの男の子を?」
「よろしく頼むわよ。」
「・・・はーーーーーーい。めんどくさいニャあ・・。」
―――――――――
・・・本当にこの子を、レインを見ることができてうれしいと思っている。
あの時僕の体を襲った殺気、ナイフを当てることに集中して計算された動き。
兵舎に行けばあのレベルはいくらでもいるが、他とは違う内に秘める才能と魔力が違う。
特にあのナイフを投げる一撃までの一連の動き。あれを初心で出来るのは彼女くらいではないのだろうか。
体にも顔にも出さなかったが最高に興奮した。
体力には少し、いや、かなりの問題があるものの、戦況を冷静に見る力―――先ほどの格闘。どれだけ自分に不利な状況下でも答えを導き出す――あの小屋で見た、問題を解く素早さ。
限界まで、寧ろ限界突破させるほど育て上げたい。
そしていつかマークに見せてやりたい。僕の一番弟子だと――――。
首寝違えた




