4話 気まぐれな毎日
ソラが俺の部屋に転がり込んで、2週間ほど経った。
朝はソラが簡単な朝食を作り、俺は隣でコーヒーを入れる。
「ジャム取って」
「はい。あ、ヨーグルト食べる?」
「さんきゅー」
そんな感じで朝がはじまる。
掃除はソラ、洗濯は俺。特にルールを決めたわけでもないのに、自然と家事が分担されていった。
その共同作業は、どこか心地よく、静かに新しい日常を生んでいた。
カフェも手伝ってくれる。
ソラは慣れた手つきでカウンターを拭き、グラスやシルバーを磨く。
少ない指示でもテキパキ動く。夜の店で働いていたのも納得だ。
しばらく悩まされた腰痛、痛いと思ったときには、何も言わずスッと手を貸してくれる。
ただ、その手が背中や腰に触れるたびドキっとする。ソラの手や視線に、自然と反応してしまう自分がいた。
だけど――。
「ソラ?」
ランチタイムが終わる頃。ふと気づけばソラがいない。夕暮れ時にふらりと現れ、『おなかすいた~』帰ってきたり、明け方にこっそり帰ってくることもあった。
――まるで自由に歩き回る猫が、気まぐれに戻ってくるようだ。
ソラの行動に、干渉するつもりも、詮索することもない。期限のない一時的な同居だ。
俺を悩ませる問題もある。
夜になると、俺のベッドに潜り込んでくること。
俺はベッドの真ん中に、これでもかと抱き枕やクッションを並べ、防壁を作って寝る。
しかし深夜、もぞもぞという感触で起きると、俺の腕の中にすっぽりと収まり、幸せそうに丸まっているソラがいる。
「……おい」
俺の必死なバリケードは、猫の気まぐれなひと蹴りで、あっけなく突破されていた。
仕方なく背を向けて寝るも、背中から伝わる温かさに、目は冴えていく。
半分夢うつつのソラは、細い腕を俺の腰に回し、酔ったような甘さで絡んでくる。
「ねぇ、ケイ、しようよ……」
まるで猫がじゃれるように、くっついて離れない。
指先が背中を這うたび、衝動的に触れたいと思う自分に抗えない。
「こら、ソラ……!」
「ねぇ、感じた?」
耳元で囁く。抵抗しても、指先が敏感なところに触れるたび、思わず息が乱れる。
「やめ……ろ!」
「今夜もおあずけ?」
「もう寝ろ」
「犬じゃないから『待て』は苦手なんだけどな。僕は甘えたいときには、好きなだけ甘える主義なの」
「ソファで寝ろよ」
「やーだ。ご主人様の温もり、独占するにゃん」
やがて、静かな寝息をたてはじめる。
いったい、俺なんかのどこがいいのか?
同居のお礼を身体で支払う。そんなこと、本気で思っているのだろうか。
――気まぐれなソラの誘惑に、俺はいつまで抗えるのか。自信は、ない。




