第二十三章 ④マサルとウオン
千代田区永田町。
……スチャッ!
ワープして辿り着いたのは都会のど真ん中。
三角破風鳥居の『山王日枝神社』だった。
凛花は大廈高楼の神社に感激する。
マサルの背中を撫でながら礼を伝える。
「わあっ、エスカレーター!
都会的な神社ですね!
かわいい御猿のマサルさん。
素敵な神社に連れて来てくれてありがとう!」
「ウッ? ウッキッキッ!」
マサルは赤い顔をさらに赤らめた。
ブンブンッ!
凛花と握手する。
イレーズは笑う。
「ククッ!
さすがの懐柔力、だね?」
「はいっ!
頂戴したフィールリズムの威力です」
「うん、そうだね。
だけどそれだけじゃないよ?
凛花の透き通った心が霊獣に伝わっているんだ」
「うわあっ……!
だとしたら嬉しいなあ……」
ふたりは見つめ合って笑顔になる。
手水を済ませる。
作法に則って参詣した。
日枝神社・縁起。
それは鎌倉初期。
江戸貫主・秩父重継。
(天台宗の頭領・天台座主)
居館に『山王社』を勧請したことに始まる。
その後。
悲劇の武将・太田道灌。
江戸城築城にあたり川越山王を勧請する。
そして新社殿を造営した。
日枝神社の御祭神。
山の神様『大山咋神命』(スサノオの孫)。
江戸時代。
将軍家の産土神である。
明治維新以降。
皇室から御崇敬賜され『皇城の鎮』となる。
分霊された御霊が日吉・日枝・山王である。
イレーズはレクチャーする。
「山王信仰の神使眷属は『猿』なんだ。
猿田彦大神がニニギノミコトを高千穂に導いた。
(アマテラスの孫)
だから『みちひらきの大神』とも言われているんだ」
「道開き……。
なんだか壮大ですね」
「まあ色々あって……。
高千穂(天安河原)の天岩窟に籠っていたアマテラスがさ。
神楽を楽しむ神々の笑い声が聴こえてきてさ。
気になって外を覗いてさ。
再び現れて世を照らした……。
そんな伝説が残っているよね」
「はい。有名な神話です。
その天岩窟の岩扉(岩戸)を怪力の神様が投げ飛ばした。
(天手力雄神)
その岩戸が落ちた先が信州の『戸隠』ですよね?」
「クク……。
『天岩戸伝説』って、確かそんなだったよね?
神様たち……、ヤンチャで人間臭いよね?」
「ふふ。
ちょっとだけ親近感、です」
「マサルは縁起物なんだ。
魔が去る。
勝って勝つ。
縁(猿)結び……。
万事を良き方向へ導く、ってね?」
「社殿の前に。
『夫婦の神猿像』がありました。
子猿さん、とっても可愛らしいです」
「伊勢神宮内宮には。
『猿田彦神社』と『佐瑠女神社』が向かい合っている。
佐瑠女神社の御祭神・天宇受売命のご利益はさ。
芸能、芸術、スポーツ、技芸上達と言われている。
ちなみに。
猿田彦神社の宮司は猿田彦大神の御裔(子孫)なんだ」
「そうなのですね!
是非、行ってみたいです」
「猿田彦大神(太田命)の本宮はさ。
三重県鈴鹿市山本町。
伊勢の国の一之宮、椿大神社。
それが道開きの祖神なんだ。
境内の『かなえ滝』はパワースポットとして人気がある。
『椿とりめし』が有名みたいだね」
「わあ!
椿とりめし……、美味しそうですっ」
「ウキキキキキッ!」
マサルは痺れを切らした。
ぐいぐい、
ふたりの手を引く。
山王稲荷神社・千本鳥居に連れて行く。
稲荷参道。
朱色の千本鳥居の階段の途中。
ぽつん、
散切り頭の『幼児』が立っていた。
下駄ばきで絣の着物姿。
五歳くらいの男の子だ。
「あれ?
宇音……?」
ぺこり、
幼児はお辞儀する。
イレーズの足もとに跪く。
「あのっ? もしかして……、
秩父札所二十番のウオンさんですか?」
凛花の問いかけに頷く。
「初めまして、凛花さん。
コン太からお噂はかねがね……。
本日は使節として参上しました」
イレーズは目を見開く。
「え?
伝言があるの?
ゴン子(未來王)はなんて?
どこで会ったの?」
「先日。
南池袋の『猿田彦珈琲』にて。
ゴン子とカフェタイムを楽しみました。
そこで『札所・二十番』への提案をいただきました。
それでは……、
そのままの言葉でお伝えします」
コホン、
宇音は咳払いをする。
ゴン子の声マネをして語り出す。
「おい、ウオン! 良いことを思いついたぞ!
秩父札所・二十番で『ビー玉交換』はどうだ?
ウオンは『龍神』だから『龍玉交換』だ!
参拝者がビー玉を自宅から持ってきてもいい。
一玉・百円で頒布してもいい。
但し!
ビー玉交換は一日ひとつのみだ!
まあ、そうだな。
イレーズの意見を聞いてから進めろ。
多くの者に天界の声が届くといいな……!
……とのことです」
ふるふるふる……、
イレーズは肩を震わせる。
「クッ、クククッ!
似てるよっ!
ゴン子に似てる!
物まね上手だね?」
ぷくっ、
ウオンは頬をふくらます。
「そうじゃなくてっ!
是か非か!
イレーズの意見を聞きたいんですっ」
「ああ、そっか。
そうだね、良いんじゃない?
龍玉集めをしてもいいしね?」
「ビー玉の大きさや色。
無作為でいいですかね?」
「持ち歩くには小さいビー玉が良いね。
好きなパワーストーンと龍玉をさ。
布袋に入れて御守りにするといいかもね?
たくさん集めてさ。
玄関やリビング。窓辺とか。
活気ある場所に置くと良いね」
「承知しました。
内田家当主と相談してみます。
御朱印は……。
もう少し希望者が増えてからになりそうです」
「ビー玉交換……!
宇音さんイベント、楽しみです。
ノアとコン太と必ず行きますね!」
凛花は瞳を輝かす。
ウオンは顔をほころばせた。
なぜか。
イレーズは不満顔だ。
不服を申し立てる。
「あのさあ、これってさ?
どう考えてもさ?
俺と一緒に行く、って流れじゃない?」
「あ、ああっ、ほんとに!
確かにそうですよねっ?
では。
みんなで行きましょうっ」
ウオンは思わず吹き出した。
「ふははっ!
どうやら憎めない龍使いのようですね。
イレーズが焦れている姿が面白い……。
ゴン子はそう言って笑っていました」
「ああ……、まったくさ?
そのとおりなんだよ。
想い人の恋愛的心情は感応透視できないからさ?
心情が読めなくて歯がゆいんだ。
凛花は賢くて純真で可愛いだろ?
だから神々や霊獣から愛されている。
だけど誰にもあげないよ?」
「それって……?
まさか……?
惚気……、ですか?」
「惚気か……。
そうかも?」
ウオンは驚嘆して背筋を伸ばす。
改まって告げる。
「凛花さん、ありがとうございますっ。
冷徹イレーズが大変優しくなりましたっ。
龍神界を代表して!
厚く御礼申し上げますっ」
「ええっ?
とっ、とんでもないですっ!
お礼を言われるようなことはしていません!
私はただ……。
イレーズさんが大好きなだけです……」
まさかの不意うち発言だ。
イレーズは照れる。
凛花は気恥ずかしさで頬を染める。
ふたりはマサルに負けないくらい赤くなった。
ウオンとマサルは手を叩いて喜んだ。
「八坂神社……。
スサノオノミコトとクイシナダヒメノミコトの夫婦神です。
恋人同士に特にオススメです。
是非とも。
猿田彦神社と併せてお詣りしてください」
「ウッキッキッキッキッ!」
夕刻。
帰り際にイレーズが問いかけた。
「あのさ、凛花。
女龍神たちとの計画のことだけど……。
是・契約者と再会するつもりなの?」
「あっ……! (バレてる)
やはり許されませんか?
どうしても伝えたいことがあって……」
「うん……。
だけどさ?
凛花は本当にそれでいいの?
決意は固い?」
「はい。
再会を諦めて後悔したくありません」
「そっか……。
じゃあ俺は凛花に味方するよ。
本音はすっごく嫌だけど……」
「イレーズさん……!
ありがとう……! 嬉しいです!
この感謝、どう表せばよいのか……」
「うーん……、じゃあさ?
ご褒美、もらうね?」
……チュッ!
イレーズは凛花の旋毛にキスを落とした。




