表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/142

第二十二章 ③イレーズの過去(兜率天)

 三峯の丘の上。


 シュッ……、

 太郎は消えてしまった。


 凛花は呆然として立ち尽くす。

 イレーズは肩を震わせ笑い出す。


 「クククッ!

 つまりさ?

 ゴン子は未來王が化身した姿なんだよ。

 権現(ごんげん)してるからゴン子、ってわけ」


 「わわ? 頭が混乱しています。

 あっ! どうしよう……。

 龍使いに取り立てていただいた御礼……。

 言いそびれてしまいました。

 感謝をお伝えしたかったです……」


 「そっか……。

 たぶんだけどさ?

 きっとすぐに再会できると思うよ?」


 「そうだと良いのですが……」

 

 「ああ、そうだ。

 さっきの『昔話』には続きがあるんだ」

 

 ……死没後。

 約束通り、ゴン子が迎えに来てくれた。

 ぐいぐい、俺の手を引っ張る。

 兜率外天院(とそつがいてんいん)の門をくぐる。

 藍方星(らんぽうせい)へと案内(あない)した。

 

 シュンッ……、

 ゴン子は消えた。


 パアアァッ……!

 光が放たれた。


 ……(まぶ)しい。

 燦然(さんぜん)(きら)めく『光の塊』がある。

 それは遥か彼方の星々を照らしていた。


 俺は必死に目を()らす。

 ゴン子の『本来の姿』が見たい!

 『光の主』を見てみたい!


 ……見えたっ!

 

 目の前に。

 細身の若い男性が立っていた。

 思わず息を呑む。

 そして瞬時に察した。


 ……間違いない! 

 唯一無二なる『未來王』だ!


 そのあまりの(たっと)さに。

 そのあまりの優美(ゆうび)さに。

 そのあまりの崇高(すうこう)さに……。

 欣幸(きんこう)の至りとなって涙が溢れた。


  俺は自然に無意識に……。

 ラピスラズリの固い地面に崩れ落ちた。

 (ひざまず)いて平伏(ひれふ)した。


 『お疲れさまでした。

 よく頑張りましたね……』


 バスバリトンの声音、大宇宙(コスモ)に響き渡る。

 未來王は穏やかに微笑んでいる。


 『あなたに()を与えましょう。

 今日より『イレーズ』と名乗ってください。

 容貌年齢(ねんれい)は二十九歳で固定します。

 兜率天(とそつてん)では。

 各々の身体的能力値・頭脳的能力値。

 そのふたつが最大値となった年齢に永久固定されます。

 イレーズの場合、二十九歳です』


 俺はわずかに戸惑う。

 未來王は淡々と続ける。


 『イレーズの潜在能力……。

 それは『極等級』に(あたい)します。

 今後は。

 魔導師神(ウイザード・ゴッド)の課程を修了してください。

 あなたの才覚を極限まで磨き上げてください。

 指導は魔導師三人衆がおこないます。

 彼らは藍方星(らんぽうせい)の住人です。

 あなたの先輩であり仲間です』


 「ウイザード・ゴッド?

 三人衆……?」


 『今後はイレーズが加わりますので……。

 『魔導師(ウイザード)四人衆』となりますね」


 「は、はあ……?」


 『ハハ。

 それでは早速……。

 イレーズの兜率天(ここ)での『未來』。

 自分自身で感応透視とうししてみてください』 


 スッ、

 未來王が左手の人差し指を立てた。

 ツンツン、

 俺の鼻先を(つつ)いた。


 その途端に。

 不可思議なエナジーが溢れて(みなぎ)る。

 全身に圧倒的パワーが(たぎ)った。


 どうやら。

 『特殊魔力(まりょく)』が宿ったらしい……。


 即座に。

 自分の未來を感応透視(とうし)した。

 そして感激に打ち震えた。


 ……人間界での孤独男。

 兜率天(とそつてん)では孤独ではなかった。

 イケてる魔導師と親友になっていた。

 賢い霊獣たちに囲まれていた。

 天界魔界に友達ができていた。

 俺の未來は。

 王と図抜けた仲間たちと共にあった……!


 『いかがでしょうか?

 ご納得いただけたでしょうか?』


 もはや迷いはない。

 即座に返答する。

 

 「(だく)っ! 

 未來王の友として。

 弟子として。 

 そして家族として。

 この身、捧げ尽くします!

 恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます……」


 『それでは。

 あなたに恒久使命を与えます。

 それは『永遠(とわ)の未來の創造』です。

 仲間たちと特殊任務(ミッション)遂行をお願いします。

 仕事内容は……。

 若干(じゃっかん)面倒なことがあるかも知れません。

 ですが適当に処理して進めてください』


 「適当……?

 いい加減で良いのですか?」


 『そうです。

 大切なものは何か。

 それさえ分かっていれば間違えません。

 たとえ誤算が起きたとしても即座に修正できます。

 そして美しい心根を保持し続けるのです。

 そうすれば自分を見失うことはありません。

 中心に()えてある根幹がブレなければ良いのです』


 俺は得心した。

 深く(うべな)った。


 『今日より。

 イレーズは我らの仲間です。

 さあ、覚悟はいいですか?

 これから長い時間軸が始まります。

 それはウンザリするほどの長さです。

 だからこそお願いがあります。

 過剰にひれ伏すのをやめてください。

 できれば敬語も控えてください。

 友人として接してください』


 「え……? 

 あ? し、しかし……?」


 『堅苦しいのは好きではありません。

 偉そうに踏ん反り返って権威を振りかざす。

 大げさに(あが)(たてまつ)られて良い気分になる……。

 そんな(やから)の器など知れたものです。

 古臭くてダサいです。

 あんなのにはなりたくありません』


 「は……? ははっ? 

 クッ、クククッ!

 じゃあ、任務以外は友達として……。

 それで良い?」


 『ハハ、そうしてください。

 では永遠の友・イレーズ! 

 共に未來に尽くしていきましょう! 

 これからよろしく……』


 ふわり、

 ハグされた。

 柔軟(フレキシブル)なベールに包みこまれた。

 よしよし、

 頭を撫でられた。


 『今までよく頑張りましたね。

 えらい、えらい。

 いい子だ……』


 「ううううっ、ううっ……、

 うわあああっっ……」


 俺は大声で泣いた。

 嬉しくて嬉しくて……。

 幼い子供のように泣きじゃくった。

 しばらく涙が止まらなかった。


 未來王は穏やかに微笑んだ。

 それは(たっと)き『アルカイックスマイル』だった…………。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ