第二十二章 ③イレーズの過去(兜率天)
三峯の丘の上。
シュッ……、
太郎は消えてしまった。
凛花は呆然として立ち尽くす。
イレーズは肩を震わせ笑い出す。
「クククッ!
つまりさ?
ゴン子は未來王が化身した姿なんだよ。
権現してるからゴン子、ってわけ」
「わわ? 頭が混乱しています。
あっ! どうしよう……。
龍使いに取り立てていただいた御礼……。
言いそびれてしまいました。
感謝をお伝えしたかったです……」
「そっか……。
たぶんだけどさ?
きっとすぐに再会できると思うよ?」
「そうだと良いのですが……」
「ああ、そうだ。
さっきの『昔話』には続きがあるんだ」
……死没後。
約束通り、ゴン子が迎えに来てくれた。
ぐいぐい、俺の手を引っ張る。
兜率外天院の門をくぐる。
藍方星へと案内した。
シュンッ……、
ゴン子は消えた。
パアアァッ……!
光が放たれた。
……眩しい。
燦然と煌めく『光の塊』がある。
それは遥か彼方の星々を照らしていた。
俺は必死に目を凝らす。
ゴン子の『本来の姿』が見たい!
『光の主』を見てみたい!
……見えたっ!
目の前に。
細身の若い男性が立っていた。
思わず息を呑む。
そして瞬時に察した。
……間違いない!
唯一無二なる『未來王』だ!
そのあまりの貴さに。
そのあまりの優美さに。
そのあまりの崇高さに……。
欣幸の至りとなって涙が溢れた。
俺は自然に無意識に……。
ラピスラズリの固い地面に崩れ落ちた。
跪いて平伏した。
『お疲れさまでした。
よく頑張りましたね……』
バスバリトンの声音、大宇宙に響き渡る。
未來王は穏やかに微笑んでいる。
『あなたに名を与えましょう。
今日より『イレーズ』と名乗ってください。
容貌年齢は二十九歳で固定します。
兜率天では。
各々の身体的能力値・頭脳的能力値。
そのふたつが最大値となった年齢に永久固定されます。
イレーズの場合、二十九歳です』
俺はわずかに戸惑う。
未來王は淡々と続ける。
『イレーズの潜在能力……。
それは『極等級』に値します。
今後は。
魔導師神の課程を修了してください。
あなたの才覚を極限まで磨き上げてください。
指導は魔導師三人衆がおこないます。
彼らは藍方星の住人です。
あなたの先輩であり仲間です』
「ウイザード・ゴッド?
三人衆……?」
『今後はイレーズが加わりますので……。
『魔導師四人衆』となりますね」
「は、はあ……?」
『ハハ。
それでは早速……。
イレーズの兜率天での『未來』。
自分自身で感応透視してみてください』
スッ、
未來王が左手の人差し指を立てた。
ツンツン、
俺の鼻先を突いた。
その途端に。
不可思議なエナジーが溢れて漲る。
全身に圧倒的パワーが滾った。
どうやら。
『特殊魔力』が宿ったらしい……。
即座に。
自分の未來を感応透視した。
そして感激に打ち震えた。
……人間界での孤独男。
兜率天では孤独ではなかった。
イケてる魔導師と親友になっていた。
賢い霊獣たちに囲まれていた。
天界魔界に友達ができていた。
俺の未來は。
王と図抜けた仲間たちと共にあった……!
『いかがでしょうか?
ご納得いただけたでしょうか?』
もはや迷いはない。
即座に返答する。
「諾っ!
未來王の友として。
弟子として。
そして家族として。
この身、捧げ尽くします!
恐悦至極に存じます……」
『それでは。
あなたに恒久使命を与えます。
それは『永遠の未來の創造』です。
仲間たちと特殊任務遂行をお願いします。
仕事内容は……。
若干面倒なことがあるかも知れません。
ですが適当に処理して進めてください』
「適当……?
いい加減で良いのですか?」
『そうです。
大切なものは何か。
それさえ分かっていれば間違えません。
たとえ誤算が起きたとしても即座に修正できます。
そして美しい心根を保持し続けるのです。
そうすれば自分を見失うことはありません。
中心に据えてある根幹がブレなければ良いのです』
俺は得心した。
深く諾った。
『今日より。
イレーズは我らの仲間です。
さあ、覚悟はいいですか?
これから長い時間軸が始まります。
それはウンザリするほどの長さです。
だからこそお願いがあります。
過剰にひれ伏すのをやめてください。
できれば敬語も控えてください。
友人として接してください』
「え……?
あ? し、しかし……?」
『堅苦しいのは好きではありません。
偉そうに踏ん反り返って権威を振りかざす。
大げさに崇め奉られて良い気分になる……。
そんな輩の器など知れたものです。
古臭くてダサいです。
あんなのにはなりたくありません』
「は……? ははっ?
クッ、クククッ!
じゃあ、任務以外は友達として……。
それで良い?」
『ハハ、そうしてください。
では永遠の友・イレーズ!
共に未來に尽くしていきましょう!
これからよろしく……』
ふわり、
ハグされた。
柔軟なベールに包みこまれた。
よしよし、
頭を撫でられた。
『今までよく頑張りましたね。
えらい、えらい。
いい子だ……』
「ううううっ、ううっ……、
うわあああっっ……」
俺は大声で泣いた。
嬉しくて嬉しくて……。
幼い子供のように泣きじゃくった。
しばらく涙が止まらなかった。
未來王は穏やかに微笑んだ。
それは貴き『アルカイックスマイル』だった…………。




