第二十二章 ②太郎との再会
三峯の丘の上。
「……ククッ!
イレーズ、良かったな」
ゴン子の声色が変わった。
凛花は固まる。
この独特なバスバリトンの低音ヴォイス……。
聞き覚えがある……。
「え、え、ええっ?
その声は……っ!
太郎さん?」
「ハハ、こんにちは。
お久しぶり……、
でもないですね?」
すうっ……、
ゴン子は『太郎』に変化した。
服装は大学生らしいカジュアルファッションだ。
スリムジーンズにスニーカー。
ジャガード編みのセーター。
ワッフルジャケットカーディガンを羽織っている。
ストン、
巨大銀狼の背に足を組んで座った。
太郎は微笑む。
「凛花さん。
すでにご存じかも知れませんが……。
イレーズはとても良い男ですよ?
それも飛び切りの『グッドガイ』です」
「はい。
重々、了知しております……」
「そうですか?
では、一体なにを迷っているのです?
自分の心に従うだけですよ?」
「……はい」
凛花の心は沈んでいる。
太郎は肩をすぼめる。
「うーん……。
それでは特別に。
魔導師四人衆の恋愛観と結婚制度についてお教えします。
その上で。
イレーズの恋人昇格、前向きにご検討ください。
そして後ほど。
答えをお聞かせください」
凛花は深々、頭を下げる。
「お手数おかけして申し訳ありません……。
ご示教、お願いいたします」
太郎は頷く。
釈義教化を開始する。
「兜率天は欲界に位置しています。
とはいえ、ほぼ『色界』です。
あらゆる欲望が薄い世界だといえます。
親しい友人同士であれば握手やハグをします。
恋人同士であれば唇にキスをします。
しかしせいぜいその程度です。
過度なスキンシップはほとんどありません。
恋愛観は極めて純粋です」
「わ、そうなのですか?
兜率天の恋愛観……、憧れます」
「ましては。
魔導師四人衆が住する藍方星……。
それは特殊設定です。
居住者は一桁しかいません。
魔導師四人衆と彼らのパートナーのみです。
選ばれし極上縁者を『ディアー』と呼びます」
「魔導師の『ディアー』とは……。
ひとりだけ、なのですか?」
「そうです。
ディアーはたったひとりです。
藍方星はパートナー変更不可です。
ですから条件はただひとつ。
四人衆の極上縁者であること。
それだけです。
藍方星では悠久の長き時間軸を共に過ごします。
それは気が遠くなるほどの長さです。
だからこそ。
完璧なマッチングでなくてはなりません。
極上縁であれば。
生存していた時代、国籍、年齢、性別……。
何ら問いません」
凛花は感激する。
「時代、国籍、年齢、性別さえ超越するのですね!
素敵ですっ」
太郎は続ける。
「極上縁者は運命的に出会います。
引力作用によって互いに惹かれ合います。
魔導師とディアーは愛情表現として唇にキスをします。
しかしながら。
それ以上の行為は存在しません」
凛花は問う。
「兜率天すべてが。
極上縁システムなのですか?」
「いいえ、そうではありません。
それぞれの星々によって制度は様々です。
子孫繁栄が可能な惑星も存在しています。
しかし藍方星に子孫繁栄はありません」
「永き歳月の間には……。
より相応しいお相手が現れる……。
そんな可能性もあるのではないでしょうか?」
「ありません。
確定したパートナー以外はあり得ません。
個体能力値、容貌、特性など。
どれほど優た者が現出したとしても関係ありません。
対象外です」
「そう……、なのですね……」
「どうでしょうか?
藍方星のシステム。
ご理解いただけたでしょうか?
それらを踏まえまして。
是非とも前向きにご検討ください。
イレーズにとって凛花さんは……。
すでに『特別な存在』だと思います」
凛花は混乱する。
思考がぐるぐるする。
結論に至らない。
「あ、あのっ?
私はどうしたら……?
まだ正解がわかりませんっ」
「ハハ……。
ただ素直に純粋に。
心の叫びに従うだけですよ?
凛花さんの返答……、
イレーズに直接お伝えください。
それでは、また……」
…………シュンッ!
太郎は消えてしまった。
すうぅ…………
銀狼神霊獣、カンとダンも消え去った。




