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イベントで出会った同級生との関係(連載版)  作者: 雪之
大学生編

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抱き枕とはちょっと違う?

仲良しカップルが意味もなくきゃっきゃうふふする小話が書きたい。

そんな願望から時系列など関係なしにうっかり書きました。

アルセウスは表だけクリアしました。

「あのー……この格好の意味は?」


「退屈か?」


「ううん。あ、そこの草むらに隠れてるよ」


「よし、捕まえよう」


 そんな会話をしている場所は、休日の一ノ宮家。

 日当たり抜群のリビングに映っているのは、最近発売したゲームの画面だ。

 大きなテレビの正面にあるソファに、二人揃って座っている。

 普段だったら並んで座るはずなんだけど、今日は状況が違っていた。

 一ノ宮くんが深く座り、なぜか私は脚の間にちょこんと座っているんだ。

 そして一ノ宮くんの操作するコントローラーは私のお腹の前にある。

 はっきり言えば、後ろから抱きしめられている状況だ。

 まだまだ肌寒い時期にこの姿勢は嬉しいけど、さすがにどうなんだろう。

 平然とプレイする一ノ宮くんの前で、なんとなく心配になってしまう。

 最近の一ノ宮くんは、バイトやスタッフや大学の提出物ラッシュで忙しかったらしい。

 ようやくのお休みだって言ってたけど、こんなことして疲れないのかな。

 いや、のんびりゲームするのは正しい過ごし方だとは思うんだけど。


「えっと……やりづらくない?」


「窮屈か?」


「ううん。この先輩キャラ、主人公とフラグ立ったりしない?」


「いや、残念だがフェードアウトするらしいぞ」


 残念。

 可愛い系男子のビジュアルはぜひとも主人公と仲良くしてもらいたいのに。

 って、そうじゃなくて!


「一ノ宮くん、疲れてるよね?」


「そんなことないぞ」


「そんなことなくないよ。私は一人で帰れるし、大丈夫だよ?」


 まだまだ昼間のこの時間なら、ゆっくり帰っても日が暮れることはないだろう。

 だから気にせず休んでほしいと思ったんだけど……。

 一ノ宮くんはコントローラーを私の膝に落とし、腕にぎゅうっと力を込めた。


「暇か?」


「そ、そんなわけないよ。だけど一ノ宮くん、寝たほうがいいかなって……」


「なら、帰らないでほしい」


 苦しいほどの力に驚いていると、一ノ宮くんは私の肩に頬を押し付けた。

 どこもかしこもぴったり触れ合い、呼吸の音さえ聞こえる距離が恥ずかしい。

 だけど一ノ宮くんは気にしていないようで、ぎゅうぎゅうすりすり触れてくる。


「MP切れなんだ。回復させてくれ」


「私は回復ポイントか何かなの?」


「むしろセーブポイントだな。こまめに触れておきたい」


 なんというか……まぁ、回復するっていうならいいんだけど。

 黙って身体の力を抜くと、一ノ宮くんも腕を緩めてくれた。

 柔らかく触れ合っているからか、背中がぬくぬくあったかい。

 こうやっていると、ドキドキより安心感を覚えるようになってきた。

 付き合ってずいぶんたったからなのかな。

 ちょっと横を向けば、きれいな顔が間近にある。

 最近気づいたけど、私は家にいる時の、気が抜けているような顔が結構好きだったりする。

 一ノ宮くんはいつも元気溌剌だ。

 だからこれを見られるのは彼女の特権、みたいな。

 躊躇うことなく見つめていると、さすがに気づかれたらしい。

 ちらっと私の顔を見たかと思ったら、ごくごく自然にキスされた。


「えぇ……」


 思わず漏れた声に、一ノ宮くんは小さく笑っている。

 安心感は一瞬で緊張感に変わってしまい、突然の驚きと恥ずかしさに襲われる。

 だけど、嬉しいって気持ちは変わらないわけで。

 お腹に回る腕に触れると、一ノ宮くんは私の肩に顎を乗せた。


「もっと回復した。エリクサー並みだな」


「ゲームが違くない?」


「このゲーム、トレーナーへの被ダメはあるのに回復薬がないからな」


 ゲームの中では時間が過ぎていて、夕焼け空がきれいに映えてる。

 とはいえ、リアルはまだまだ真っ昼間だ。

 今日でどこまで進められるのかと考えていると、ふと耳元に規則的な吐息が聞こえてきた。

 そっと顔を向けると、長いまつげで縁取られた目蓋が下りている。

 無理な体勢だっていうのに眠ってしまったらしい。

 ちょっと重い。

 けど、なんか嬉しい。

 ひとまずセーブだけしておくか。

 聞き慣れた効果音のあとにゲームを終了させると、ホーム画面で気づく。

 自分のアカウントでプレイしてもいいかなぁ?

 最近やってなかったけど、昔はシリーズでやってたし。

 ほとんど悩むことなくスタートすると、肩の重みは気にならなくなっていた。


 順調にストーリーを進めていると、背中の重みがうごうご動く。

 お腹をぎゅうっと抱きしめられたかと思ったら、耳元で小さなあくびが聞こえた。


「……すまん、寝てたな」


「大丈夫だよ。ゲームやっちゃってたし」


 没頭していたせいか、気づけば外は夕焼け空だ。

 一ノ宮くんのゲーム進行には追いついていないけど、一人で十分楽しんでいた。


「替わる?」


「いや、まだいい」


 とはいえ、さすがにちょっと疲れた。

 コントローラーを置いて小さく伸びをすると、肩に乗った顔に目が行く。

 一ノ宮くんは寝起きがいいほうだけど、さすがに起きたばかりはそうじゃないらしい。

 ぼんやりしながら私を見ていたかと思うと、柔らかく目を細めた。


「目が覚めた時に玄瀬がいるって、いいな」


 ふにゃんとした顔ではにかまれると、可愛さのあまりきゅんとしてしまう。

 格好いいのに可愛いって、どれだけ私を喜ばせるつもりなんだろう。

 そんな一ノ宮くんがどうにもたまらなくなって、小さな願望がむずむずしてしまう。

 いい、かなぁ。しちゃっても。

 悩みながら見つめていると、問いかけるように首を傾げられた。

 うん、可愛い。

 よし、しよう。

 目的地までの距離感を測ってから目を閉じて、思い切って唇を押し当てる。

 ちょっとカサついた場所は、あったかくて柔らかかった。


「おはようの、ちゅーです」


 我ながら恥ずかしい。

 でも、したいと思っちゃったし。

 間近すぎる顔を見つめていると、一ノ宮くんは私の耳元に頬ずりをしてきた。

 く、くすぐったい!

 だけど抱きしめられているせいで身動きができなくて、じっと身を固めるしかない。

 そんな反応に満足したのか、一ノ宮くんの唇が私の頬に軽く触れた。


「いつか、おやすみのほうもしてもらいたいな」


 何度も首筋にキスをして、すべすべな頬を擦り寄せて。

 身体中で感じるそわそわをどうすればいいのか。

 ふにゃふにゃな表情は、多分まだ寝ぼけているんだろう。

 そう思わないとやっていけない。

 強く巻き付く腕をとんとん叩くと、ようやく私の主張に気付いたらしい。

 どこか嬉しそうに笑うと、私の顔にぴったり頬を寄せた。


「今度……二人で旅行でも行こうか。

 朝から晩まで誰にも邪魔されないで、ずっと二人でいたいな」


 シチュエーションCDのような声色に、思わず身体が震えてしまう。

 なんだ、この色気は。

 ASMRがすぎるんじゃないか!

 きゅんきゅんどころかぎゅんぎゅんしそうな心臓を静め、あえて頬を押し付けた。


「一ノ宮くんのお家でこうしてるのも、私は好きだよ?」


 外や車の中みたいに、周りを気にしなくていいし。

 いや、別にこういうことするために来てるわけじゃないんだけど!

 勘違いされたら嫌だなぁって思ってたら、上目遣いに覗き込まれていた。


「俺もだ」


 そう言って、一ノ宮くんは少し長いキスをしてきた。

 こういうのに、前よりは混乱しなくなった気がする。

 恥ずかしいものは恥ずかしいけど、嬉しいが勝るんだって気付いたから。

 余裕ができたからか、最近は一ノ宮くんの顔を盗み見ることができるようになった。

 いつもスマートだなって思ってたけど、ほんとはちょっと照れてるらしい。

 目があった時に頑張って見つめていると、私の余裕をなくそうと大人っぽいことをしてくるんだ。

 そうやってごまかそうとするのも可愛いし、ちょっと強引な仕草をするのもドキッとする。

 だから、恥ずかしさを押し殺して見つめてしまうわけで。

 そうしていると、この触れ合いが途切れることはない。

 ゲームは一旦中断しよう。

 セーブしてないけどどうにかなる。

 それより今は、一ノ宮くんとこうしていたいから。

 無理な姿勢で抱きつくと、一ノ宮くんが膝の上に載せてくれた。

 くっつき過ぎは緊張するけど、やっぱり向かい合うのは嬉しい。

 そんな休日の触れ合いは、聡司さんが大騒ぎしながら帰ってくるまで止まることはなかった。

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