『合宿』 その六
「夕飯なのに外って、どこかに食べにでも行くのかな?」
「そうかもな」
「ここの名物ってなんだろうね~。湖あるしお魚さんかな~?」
「魚かー、美味しいのだといいな。……はぁ、お腹空いたねぇ」
「ね~」
行きの道中では気づかなかったけど、別荘の建つ丘の上からは湖畔の街周辺を一望できた。赤くなりかけた日光がさざなみ立つ湖に反射してらんらんと輝いて、遠く見える峰の雪帽子がほんのりと朱に染まっている。まるで風景画の中に入り込んでしまったような、そんな景色だ。わたし達は別荘から少し離れた東屋の中でそれを眺めながら、シャリーさんたちを待っていた。モニカ先生は商店街に用事があると言って丘から降りて行ったから、今この場にいるのはわたし達一年生三人組だけだ。
「なんか呼んでくるだけなのに遅いね」
「大方アン先輩が駄々こねてるんだろ」
「だよねー。……はー、それにしてもすごいねぇ。こんな景色がいつでも見れるなんて、ここに住んでる人は恵まれてるなぁ」
「私達は凄いと思っても、ここに住む人にとっては日常の一部で、恵まれてるなんて思ったりしないかもな」
「当たり前って、すごく大切なことなのかもね〜」
「……そうだな。私達三人だって、こうして当然のように同じ時間を共有しているが、いつか必ず、別々の道を歩むことになるんだろうな」
「どしたのメグちゃん、なんか感傷的だね」
「夕焼け空ってやつは人を感傷的にさせるものなのだろうか……ショコラの言葉を聞いたら、不意にそう思ってしまったんだ」
「詩的だね〜。ユリィちゃんみたい〜」
「ユリィみたいか、ちょっと恥ずかしいな」
「えっ、わたしって恥ずかしいの?」
「いや、違う、なんかこう……ヘンだ」
「えぇ、ヘンって恥ずかしいよりヒドくない?」
「すまん……悪い意味で言ってるわけじゃないんだが、私の語彙じゃ、うまく表現できないな」
「大丈夫だよ〜、ユリィちゃんは詩人さんだから〜」
「なんのフォローにもなってないよ……まぁ、悪い意味じゃないならいいよ」
「む、そうか」
わたし達はそれからしばらく、ぼんやりと風景を眺めていた。そよ風が沈黙の隙間を吹き抜ける。ここはわたしの住む街よりもずっと空気が透き通っているような気がする。
メグちゃんの言っていた言葉を思い返す。わたし達三人だけじゃない、家族も先輩もみんないつかお別れする時が来る。時間は有限で、それはどうしても避けられないものだけれど。それは今日明日じゃなくて、もう少し先の話だ。こんなことを考えてセンチメンタルになっている暇があったら、今この時間を大切に過ごすべきなのだろう。お別れしたって、思い出はずっと、心の中に残るのだから。
なんて浸っていたら、ふと食欲をくすぐる香りが風に乗って漂ってきた。今までのちょっと気取った思考をすべて放棄させ、自然と口の中でよだれがでてきてしまうほどの、かぐわしい香り。そう、これは、お肉を焼いている香りだ。
「おまえらー!! 夕飯はバーベキューだぞー!!」
いつの間にか別荘の前では、バーベキューの準備ができていた。ほぼ同時に振り替えったわたし達だけど、ショコラちゃんが三人の中で一番早く駆け出したのは言うまでもない。
「わ〜い、お肉〜!」
「やけに遅いと思ったら準備してたんだね」
「そのようだな。しかしショコラのやつは……あんなに急がなくとも肉は逃げないだろうに」
「早く来ないと全部あたしが食べちゃうかんねー!!」
「いや、そんなことないみたいだよ!」
「あぁ、あの二人に肉を平らげられかねん! ユリィ、行くぞ!」
わたし達がバーベキューコンロの周りに集合したタイミングでモニカ先生が箒に乗って帰ってきた。夕飯後のデザートとしてケーキを買ってきてくれたそうだ。
バーベキューコンロの網の上では、串付きの肉と野菜が敷き詰められている。お肉の焼ける姿、音、香り、すべてが胃に訴えかけてくる。これにケーキもつくなんて、なんと至れり尽くせりなのだろうか。




