『合宿』 その五
部屋決めも終わり、いよいよ合宿本格始動といったところか。いつも課題を溜め込んで夏休み最後の数日間が勉強漬けになってしまうわたしとしては、この合宿中にある程度まで課題を終わらせてしまいたい。
「せっかくの合宿なんだから、勉強なんかしてないで遊ぼー!!」
部屋決めが終わって管理人室から解放されたアンさんは、両手いっぱいに遊び道具を抱えて二階から降りてきた。頭を抱えながらシャリーさんが指を鳴らすと、ギルマンさんが管理人室から出てくる。
「さぁ、アンネ様、まずは私と勝負致しましょう」
「やだ!! ギルマンなんでも強くて勝てないもん!!」
ギルマンさんが目配せして、シャリーさんが頷く。
「では、私に一度でも勝てたら、私の事をこの合宿の間だけ好きにして頂いて構いません」
「えっ、マジで?! やるやる!! 絶対勝ってこき使ってやるから覚悟しろー!!」
二人は管理人室の中に消えた。拒否モードのアンさんを一瞬で手の平返しさせるなんて、扱いに慣れているのは本当のようだ。
「部長のアン先輩が勉強会に参加しないのはどうなんですか」
「アンは昨日までに夏休みの課題を終わらせていますから。暇を持て余して邪魔されるくらいなら、勉強会に参加させない方がみんなのためですわ」
「ええっ、もう課題全部終わらせたんですか」
「すご〜い、早いですね〜」
夏休みが始まってまだ三日しか経っていないのに、もう課題を終わらせているなんて信じられない。わたしなんか、全く手を付けていないのに。
「さ、ギルマンがアンを足止めしている間に勉強会を致しましょう」
「……もしかして、これから毎日勉強会前にアン先輩はああやって騒ぐのでしょうか?」
「あまり考えたくありませんけど、そうなる可能性は大いにありますわ。明日以降、どうなだめすかせばよいのやら。……まぁ、あまり気にしても仕方ありませんわ。明日の心配より、今の勉強会ですわ」
高級感溢れる一枚板のテーブルにて、わたし達の勉強会は執り行われる。リラックスして勉強できるようにと、シャリーさんが古めかしい蓄音機を弄って、優しい旋律の古典音楽で部屋内を満たしてくれた。
アンさんが居ないと茶化す人もいないので、みんな黙々と勉強に取り組んでいる。そんな中、わたしはあまり集中できないでいた。音楽が眠気を誘発するのもそうだけど、たまに管理人室の奥から聞こえてくるアンさんのこもった叫び声が、妙に気になる。わたしも早く遊びたい、勉強だるい、眠い、天気いいし日向ぼっこしながら本読みたい――
「あ、アルケイナムさん、どこか解らない所でもありますか?」
少し離れたソファに腰掛けて『ゼロからはじめる自信の持ち方』とかいう自己啓発本を読んでいたはずのモニカ先生が、いつの間にか横に立っていた。
「あっ……そういうわけじゃないです」
「そ、そうですか? なんだか、勉強が捗っていないように見受けられたので」
「ユリィちゃん、解らない箇所があったらわたくしに遠慮なく尋ねてくださっても構いませんわよ」
「私も解るところだったら教えてあげるよ〜」
「私だっているぞ!」
「でも、捗らないのは課題が解らないわけじゃ……いや、何割かはそうだけど……なんとなく、集中できなくて」
「ふむ、わたくし、お茶を淹れてきますわ。ちょっと休憩しましょう」
これを期に、黙々としていた空気が変わった。シャリーさんが淹れてくれたハーブティーを飲みながら、集中が切れた時は二、三言話したり、解らない所は教え合ったりする。さっきまでの散漫した感じは大分マシになり、勉強が割と捗った。今までの夏休みで、一番楽しく勉強できた。
勉強に精を出しているうちに日が傾きかけ、薄茜の膜が空にふわりと被さる時間になった。
「そろそろいい時間ですわね……皆さん、今日のお勉強はひとまずこれくらいにして、夕食の準備を致しませんか?」
「やった〜、ご飯だ〜」
「ふふっ、さ、外に出ましょうか」
「外、ですか? なぜ?」
「ふふっ、すぐに解りますわ。わたくしはギルマン……ついでにアンも呼んできますので、みなさんは庭先で待っていてくださるかしら?」




