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体重3ケタ越えのデブ子が超絶美女に転生したので好き勝手生きてみることにした  作者: 汐乃 渚


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そうだ、遠乗りに行こう




「ローザ、待ってください~速いですよ~」


「ふふふ、追い付いてご覧なさぁ~い」



 ドップラー効果で声を響かせながら私は走る。

 正確には私の乗っている馬、ライオネール号が物凄いスピードで走る。



「ちょっ、いくらなんでも速すぎぃぃぃい!!」



 良いんだよね、本気出しちゃうよ!? と言わんばかりにぐんぐん速度を上げていくライオネール号に成す術はない。

 止めるのも可哀想だしね……。


 アリーと侍女2名に合図をして、目的地である小さな泉まで全速力の馬を駆ったのだった。




***




「あ、アンタちょっと速すぎよ! 女性を乗せて走るスピードじゃなかったわよ……」



 ぶつぶつ言いながら、澄んだ泉の水を飲んでいる馬を撫でてやる。



 まあこちらの目的も果たせたし、多少想像してたのと違っても目を瞑るか。



 そう、この乗馬も秋の運動計画第二弾なのである。


 乗馬効果って言うもんね。



 乗馬服着て変な体操するくらいなら、乗馬服着て乗馬した方がしっくりくるに決まってる。



 ということにやっと気づいた私は次の休みにアリーを誘って遠乗りに出掛けたのだった。



 ちなみに、例のリズム体操系運動はウエストに効いたものの、封印することにしたわ。 だってエリーの視線が怖いんだもの。





「ふぅ……、やっと追い付きました」


「ローザお嬢様、お怪我は御座いませんか!?」



 ゆったりと馬上から降りたのは、乗馬用のドレスを纏ったご令嬢のアリー。


 彼女とは対照的に、血相変えて飛び降りてきたのが侍女のエリー。


 エリーはあんまり乗馬得意じゃないからね、まあ追い付きたくても追い付けなかったんだろう。



「大丈夫よ、ライオネール号がちょっとはしゃいじゃっただけだから」


「もう少しお控え下さい……心配しました」


「いやー、それにしても速かったわね。皆も急いじゃったかしら? ここで少しのんびりしてから出発しましょう」



 まだまだ、目的地は先。


 ふふ、絶好の行楽スポットを教えてもらっちゃったのよね~。



 ここがまだ学園の敷地内だなんて信じられないわ。

 向こうには山が見えるし、川だってあった。


 狩猟用の森も遠くに見える。


 流石この国唯一のお貴族様学園。


 見栄が半端ないぜ……!



 まあ貴族特有の教養を身に付けるには良い場所よね。



 辺りを見渡せば、周りはすっかり秋の景色だ。


 風にそよぐ木の葉は黄色く色付いて、秋の草花も控えめに揺れている。


 木枯らしは冷たく頬を切るけど、乗馬効果のお陰か服の中はうっすらと汗ばんでいる。



「しっかし、絵になるわね~」



 風に流されそうな髪を押さえながら一生懸命に水を飲む馬の姿を見つめ微笑んでいるアリー。


 女神か!


 燃えるような赤い髪は、そこだけまるで紅葉しているよう。



 癒されるわぁ~。



 そんな彼女は、近くに生えている秋の花で花冠を作り出す。


 完成して大いに誉めちぎってから、再び出発したのだった。




***




 アリー作の可愛らしい花冠を被せてもらった私は、今度こそ程よいスピードでライオネール号を駆った。



 振動が内腿とウエストに効いてる感じがする。


 作戦は多分成功だ。



 私は乗馬服で正面から、アリーや侍女達は乗馬用ドレスで横乗りにしているので、なんだか気分は騎士様みたい。



 ゆったりと彼女達や周りの風景を眺めながらひたすらに馬を走らせると、木がこんもりと生えた小さな林に辿り着く。




「着いたわね」


「ここですか? 何も無さそうに見えますが……」


「皆そう言って通りすぎちゃう、隠れた絶景スポットらしいわ。私に教えてくれた人もたまたま見つけたんですって」


「まぁ! それは楽しみですわね」


「でしょ? さぁ~って、どこから入ろうかしら」




 獣道があるらしいけど、それらしいものは見当たらない。


 何か印でもあればなあ……とぼやいていると、アリーの方が先に見つけた。


 ぽやんとしているようで、結構勘が良いのよね~。



 木の枝に引っ掛からないように気を付けながら、辛うじて道らしきものの見える筋を辿った。





 地面に気をつけて馬を進めると、急に視界が開ける。




「わぁぁぁぁあ!!!」


「まぁ……!!!」



 私とアリーが感嘆の声を上げたのは、ほぼ同時。



 薄暗い林のその奥、光の差し込むそこには大きな湖。



 更にその向こうには……真っ赤に色付いた紅の木々。

 光を反射する湖は、まるで鏡のように水面に対になるようなその姿が映り込んでいる。


 一面真っ赤な上に美しいグラデーション。




 来て良かったと、来れて良かったと心の底から思う。




 ややあって追いついた侍女2名も、この光景のあまりの美しさに絶句している。




 しばらく私たちは、馬に乗ったままこの美しい光景をただ見つめていたのだった。




***




「すっっっっごく素敵です~~~~!!!! ローザ、連れてきて下さって本当にありがとうございます!!!」


「ホント、綺麗よねぇ……うん」




 目の前の光景にいたく感激したアリーに、感謝されまくった。


 私が見つけたわけじゃないけど、こんなに喜んでもらって、誘った甲斐があるというものね。



 かくいう私も、教えてくれた人に感謝の気持ちでいっぱいだ。



 この場所の情報提供者は女性騎士サーシャ・シャルドン。

 先日届いた、ヒューイの汚い字を矯正したお礼の書かれた手紙に一緒に書いてあったのよね。



 この場所を発見したいきさつについては詳しく書かれていなかったけど、そんなのは全然関係ない。




 素晴らしい景色で胸がいっぱい。


 もう、前世の自分だったら速攻でスマホを取り出してパシャパシャしてたわ。


 絵心無いけど、この風景をどうにかして形に残せないものかと思ってしまう。




 さて、そんな私たちは今絶景を前にピクニックタイム。




 ひとまずお茶セットでホッと一息。


 燃魔石のおかげで、道具さえあれば外出先でもすぐに暖かいお茶が飲める幸せよ!




 耳には茶器の鳴る音と風の音、小鳥のさえずりだけが聴こえる。


 風は穏やかで、湖面を揺らすもののそこに映る美しさが損なわれることはない。



 お茶でじんわりと温まりながら、ひたすらに目の前の光景を脳裏に焼き付けた。





 私とアリーが一心地ついている間にも、二人の侍女はテキパキと昼食の準備をしてくれている。



 本日のメニューは、手で摘まんで食べられるようにと工夫されたロールサンドイッチやらピックに刺さった一口料理達。


 所謂お弁当メニューってやつかしら。



 それも、お弁当箱じゃなくてきちんとお皿に盛られてから出てくる。



 流石、仕事が細かいわぁ。




 随所に飾り切りされた野菜やら形を工夫した串料理等など、舌だけでなく目も楽しませてくれる出来栄えである。




「嗚呼、なんて幸せなのかしら……!!」



 心の底からの呟きだった。




 学園ライフとはちょっと違うかもしれないけど、親友と美しい景色を眺めて美味しい料理に舌鼓を打つなんて、これはこれで前世では考えられなかった幸せよね!?



 だって引きこもりだったんだもの。



 多分、同じ景色を見たとしてもこんな気持ちにはならなかったんじゃないかしら。



 真っ赤に染まる木々を見つめて、そう思った。




***




「ローザは次の休暇には実家に戻りますか?」


「ええ、そのつもりよ」




 この学園にも冬期休暇というものがある。


 国内ほぼ全ての貴族の子供たちが集まっていることもあり、帰省に時間がかかる人もいるので約1ヶ月くらいの長期休暇だ。



 この国の神様に祈りをささげるまんまクリスマスっぽい聖夜に年を跨いで新年を祝ったりとイベントもそこそこあるので大抵の生徒たちは実家へ戻る。


 ただ、家庭の事情だったりそもそも実家が雪深くて危ない等の理由から学園に残る者もいるらしい。



 それはそれで楽しそうではあるけど、私もアリーも実家のある領地はそこまで雪深くないので久しぶりに家族に会うために帰るつもり。



 中には実家に帰るでも寮に残るでもなく、王都のセカンドハウスで若者だけのどんちゃん騒ぎをする輩もいるらしいけど……まあ関係ないか。




「向こうでもまた会いましょうね」


「そうね。たくさん時間があるからゆっくりできるわね」




 学園入学前みたいにどちらかの実家でアリーとまた遊べる。



 冬期休暇も楽しそう、と少し先の未来に想いを馳せたのだった。




「はぁ~~、暗くなるのもあっという間ね」




 名残惜しんだものの、真っ暗な中馬を走らせるのは危ないので陽が落ちてきた段階で湖を出発した。


 まぁそれでも女子寮に戻ってきたのは辺りが薄暗くなってきてからだったんだけど。




 帰る前に、綺麗そうな落ち葉を拾ってきたからまだ少し紅葉気分は保てる筈。




 ダイエット目的だったけど、しっかりと心と体をリフレッシュできたのだった。





丁度秋なので突発的に思いついたお話でした。

とある紅葉の美しい場所の写真を見ながら書いたのですが、海外って日本ほど真っ赤な紅葉が当たり前にないらしいですね……。

ローザがいるのは異世界なので、アリかなーと。でもかなり珍しい光景のはず。

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