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第30話「遊びの波紋」

 朝の市場に、子どもたちの声が響いていた。

「ほら、税率15%だよ! しっかり計算して!」「それ売れないって、価格が高すぎるよ!」「待った! 計算ミスしてる!」


 あちこちで『マネー・アンド・タックス・サバイバル』の対戦が始まっていた。黒板の模造ボードに石炭チョークで数字を書き、魔工タイマーの代わりに砂時計を倒す。見よう見まねでも、子どもたちは遊びの中で“何か”を学んでいた。


 その様子を見ていた町の教師たちは、互いに顔を見合わせる。

「本当に、これは……授業に使えるかもしれないな」

「でも、正直ヒヤヒヤするぞ。子どもに“こういう仕組み”だと説明していいのか、ってな」


 その中のひとりが、静かに呟いた。

「これは、“教える”というより、“考えさせる”教材だ」


 小さな商店では、親子が並んで机に向かっていた。

「お母さん、こっちのカードの仕入れ値ってどうなるの?」

「うーん……税込みの価格ってことよね。つまり、これが実際に払う金額になるってこと。あ、こうか。なんか難しいけど、おもしろいわね」


 母子のやりとりのように、子どもたちだけでなく、大人も巻き込んで、波紋は静かに広がっていく。


 一方、商工ギルドの奥ではアーリが追加印刷の打ち合わせをしていた。次は広場向けの拡張セット、大判カード。工房との調整に追われながらも、彼女はその手を止めて言った。

「そろそろ、気づく人が出てくるころかね。……これはただの遊びじゃないって」


 翌朝の新聞の片隅に、小さな記事が掲載された。

『市民発ゲーム 教育の枠を超える?』


 記事はこう始まっていた。

《子どもたちの間で人気急上昇中のカードゲーム『マネー・アンド・タックス・サバイバル』。単なる遊びかと思いきや、その中身には現実の経済活動や税の仕組みが織り込まれており、一部の教師や商人たちの間で“教育的価値が高い”と評価されている。》


 《親子のコミュニケーションのきっかけにもなり、家庭用としても注目が集まっている。》


 そして記事の末尾に、こう添えられていた。

《ただし、遊びを通して“税の仕組み”に疑問を投げかけているのでは、という声も一部にはある。》


 ゼントは記事を読みながら、静かに呟いた。

「やっぱり……ここからは、簡単には進めないな」


 けれどその目は、どこか覚悟を帯びていた。


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