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腹黒天使:ウィリアム視点

長くなったので分けました。

2話連続投稿です。



コッチが、2こめ。

先にいっこめをお読み下さい。


 そうしてエレノアとマーガレットがセリナから聞き出した話は…予想の斜め上、と言っていい内容だった。


「…じゃあ…セリナは、その…蒼玉の君の、使用人のようなものだ…と?」


 戸惑った僕の問いにエレノアが複雑な笑顔で答える


「ええ、セリナ本人はそういう認識のようよ。」



 例によってサロン棟の一室。

 レイモンドが『ターコイズ』の会合の為に、一室を年間予約しようかと言っている。

 その部屋の中で4人は全員、微妙な表情をしていた。


「調べさせた報告でも、4年ほど前にスタンレイ公爵家からミュラー子爵家に正式な依頼として

 セリナに“蒼玉の君の話し相手になって欲しい”という申し出があった、という事なの。」


「話し相手…」


「ええ、なんでも、ギルバート様はセリナと話していると気鬱が晴れるとかで…

 それまではその気鬱で体調を崩される事もあったのが、セリナが話し相手になってからは、そういう事も無くなったのだそうよ。」


「気鬱、ねぇ…」


 そんなのは口実で、実際はその4年前から婚約者として密約が交わされているんじゃないのか。


 婚約は18歳から、という法が暫定ではあるが定まってから、法の抜け道として密約を交わす家もある。

 もちろんバレれば罰則があるし、当たり前だが密約に法的拘束力は無いから、昔のように婚約破棄騒動が起こり、誰かが断罪されたり処分されたりする事はない。

 けれど家同士の密約ならば、よっぽどの事がない限り─それこそ昔のブームの時のように『真実の愛を見つけた』などと、どちらかが騒がなければ─その密約は法的に婚約可能になる18歳の時に履行されるだろう。


「そういう口実で法に触れないようセリナ嬢を囲っている…と見た方が、しっくりするな」


 レイモンドも同じ事を思ったらしい


「そういう密約ならセリナも口外出来ないし、僕らには話せないだろうしね…」


 手の中にあると、いつか僕が手にすると思っていた温かな光が、指の間をすり抜けていくような無力感に襲われる


「でも私…セリナは嘘をついていないと思うわよ」


 マーガレットが言うとエレノアも頷き、言葉を続けた


「ええ。私もそう思うわ。

 “密約を漏らさない為の対外的な嘘”を口にしているとは到底思えない。

 アレは本気で自分が使用人ポジションだと思っているわね。」


 それが本当なら、まだ望みはあるだろうか…




 それから暫くして、ギルバート様が以前より頻繁にセリナに接触してきているとエレノア達から報告があり

 警戒を強めていた所にセリナからレイモンドに『お願いがある』と話を持ちかけられたと聞いた。


(何故、レイモンドに? どうしてセリナは僕ではなくレイモンドを頼るんだ…)


 そんな幼稚な嫉妬を抱えながらサロンの部屋で─レイモンドが年間申込が受理されたので、登録されたメンバーである僕らはこれから何時でも使用していい、と言っていた部屋で─レイモンドからの報告を待っていた。




「高位貴族のマナーとしきたり?」


 話を聞いた僕らの頭上には確実にクエスチョンマークが浮かんでいた事だろう。


「ああ。それを教えてくれる教師を紹介して欲しいと。」


「なんの為に?」


 セリナが公爵家に嫁ぐのであれば、公爵家がそれを手配するだろうに。


「それが…」


 まだ話を整理し切れていないらしく、言い淀んだレイモンドだったが、ポツポツと話された内容を聞いて…



「つまり、セリナは卒業したら公爵家の侍女になると、そう思っているの?」


 マーガレットが不思議そうに問う


「どうもそうらしい。だがいろいろと不可解な点がある。

 そもそも今回の教師を紹介してくれと思った切っ掛けというのが…」


 目を泳がせてレイモンドが何とも言えない表情(かお)をするが、話の行方が見えない僕らは黙って続きを待つ


「…セリナのデビュタントの為のダンスレッスンをするという蒼玉の君の申し出を断るのが…不敬で処断されるとは知らなかったから、だと…」


「…はあ?」


(なんだそれ。蒼玉の君がセリナにそう言ったのか。権力を笠に着た強要じゃないか!)


 怒りで拳を握り締めたが、レイモンドが困ったように眉尻を下げるのを見て(なんだ? 違うのか?)と疑問に思う


「いや、なんか、どういう会話でそういうふうにセリナ嬢が思ったのか聞いてみたんだが…」


 セリナが語ったという会話の内容を聞いて、僕らは下を向いて笑いを堪えた。


「笑うよな。わかるよ。でもなんか、さすがに俺ギルバート様が可哀相になってきちゃって、ちょっとあの時は笑えなかったわ」


 取り澄ましたレイモンドが思わず「俺」とか言って素になっちゃう程の話だ。セリナ、君はやっぱりすごいよ。


「でも不可解なのが、セリナ嬢が侍女になるという話は、ギルバート様が言ったという事なんだ。」


「ギルバート様が? セリナに卒業したら侍女になれって?」


 マーガレットが、わけがわからないという風に訊く


「うーん、セリナ嬢はそう言っているんだが…」


 すると黙って聞いていたエレノアが思案げに片手の拳を顎に当てながら言う


「それについては実はちょっと信憑性のある話があるのよね…」


 どういう事だ?


「ギルバート様と同学年にセリナのお姉様がいらっしゃるのだけど…」


 ああ、と僕は思った。あの、あんまり良い噂を聞かない方ね。

 ご自分のデビュタントの時に、ギルバート様と双子のジェームス様を追いかけ回したとか。


 皆の顔に浮かんだ表情を見て、おそらくは全員が似たような事を思ったのだろう

 エレノアが苦笑して続ける


「そのお姉様が、セリナ達の噂を聞いて否定しまくっているそうよ。“あの子は公爵家の侍女になるのであって、秘密の婚約者とか、ふざけないで!”って大声で喚いているらしいわ…」


 エレノアの呆れたような言い方もさもありなんと乾いた笑いが出た。

 セリナの姉妹とは思えない品の悪さだ。

 見かけだけはそこそこ良いらしいが、人前で喚き散らすような令嬢に、この先良縁なんて無いだろうな。

 そんな関係ない事を思っていると


「まあ、でも…」


 とレイモンドの声がした


「身内がそう言っているのなら、やっぱりギルバート様がそう言った、というのは本当なのかな…」


「でも、それだとセリナのデビュタントのダンスレッスンとか、やってる事がチグハグじゃない?」


 マーガレットの疑問は尤もで、全員が首を傾げて黙り込んだ。


「ま、ここで考えていてもこれ以上はわからないわね。」


 断ち切るようなエレノアの言葉にマーガレットが頷く


「そうよね、やっぱりセリナ本人に、詳しく聞いてみましょう。」



✼••┈┈┈┈┈┈┈••✼



 そうしてセリナの誕生会。


 笑った。


 正直ギルバート様には申し訳ないけど、内心拍手喝采の大爆笑。

いや、男としてものすごく同情はするよ?

 ギルバート様としては「一生付き合って欲しい」ってのは、おそらくプロポーズのつもりで言ったんだろう。

 だけどセリナには通じてない。全く通じていない。


 素晴らしいね。


 ざまあみろという気持ちと同時に自分がセリナにプロポーズする時には絶対に勘違いさせないようにハッキリ言おうと心に決めた。

 ありがとう蒼玉の君。

 僕は貴方の屍を越えてゆきます。






 悪い笑顔を輝かせているウィリアムを、陰で「腹黒天使」とメンバーが言っているのを彼は知らない──


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