真・摂政戦記 0024話 決断
1941年下旬 『アメリカ ワシントンDC』
25万人。
日本がアメリカに対し宣戦布告をした時、ワシントンDCで働いていた政府職員の人数である。
日本軍の奇襲攻撃によりルーズベルト大統領を始めとした政府閣僚全員と連邦議会議員の全員が死亡した。
これにより、国民に選ばれた連邦の代表は誰もいなくなった事になる。
しかし日本軍がワシントンDCにはウラン爆弾(原子爆弾)による攻撃を加えなかった事から連邦政府の各省庁は残っており、その職員は健在だ。ただし陸軍省と海軍省は降下部隊に攻撃され壊滅している。
政府閣僚が全滅した為、各省庁の代表となった次官達が集まり今後をどうするか緊急会議が開かれた。
それを主導したのは国務省である。
今は戦争中だ。
国務省は外交を司る。この戦争を何とかしなければならない以上、国務省が主導するのも当然だった。
まずは次官達が合意したのが臨時政府を立ち上げる事だ。
その臨時政府代表として名前があがったのが、ハーラン・フィスク・ストーン最高裁判所長官である。
民主主義の根幹たる三権分立の司法・立法・行政のうち、行政(政府)と立法(議会)が全滅した以上、残されたのは司法(最高裁判所)だけだ。
最高裁判所長官ならば国民の認知度も高い。
国の臨時代表としての役割を担えるのではないかと考えられたのである。
それにアメリカの歴史の中では過去に最高裁判所長官と国務省長官を一時的に兼任し政治に関わった人物もいる。
奇しくも第4代最高裁判所長官と第4代国務省長官は同一人物が務めている。
ジョン・マーシャルだ。
彼は第2代大統領ジョン・アダムズにまずは国務長官として指名される。そして1800年6月からアダムズ政権が終わる1801年3月までその職にあった。
その国務長官の職にあった1801年1月、マーシャルはアダムズ大統領から最高裁判所長官に指名され1835に亡くなるまでその職にあったのである。
約3ヵ月間の事ではあったが、ジョン・マーシャルは最高裁判所長官と国務省長官の職にあったのだ。
白羽の矢が立てられたハーラン・フィスク・ストーン最高裁判所長官は1872年生まれの69歳。
1941年3月にルーズベルト大統領に指名されて最高裁判所長官になったばかりの人物だ。
彼には閣僚の経験がある。
1924年に当時の大統領カルビン・クーリッジに指名されて閣僚入りし司法長官を務めた事がある。
つまりこれまで全く政治に関わった事がないわけではない。
それどころか閣僚の経験があるのは大きい。
このアメリカ合衆国危急存亡の秋、臨時政府代表としてはハーラン・フィスク・ストーン最高裁判所長官が最も相応しいのではないかとの意見が、次官達の間から出て反対意見も無く賛同者多数で纏まったのである。
「降伏しかないだろう」
ハーラン・フィスク・ストーン最高裁判所長官は臨時政府代表の座を受諾した。
その最初の臨時政府会議の席上で発した第一声が「降伏」である。
ザワッと空気が揺れた。
次官達は顔を見合わせる。
だが、反対意見は出てこなかった。
アメリカは日本のウラン爆弾(原子爆弾)攻撃により壊滅的大打撃を受けている。
軍も被害が大きい。
健在な州政府の中には分離独立を宣言した州もある。
次官達ももう戦えない事はわかっていた。
「今や多くの国民が避難民になり食料も薬も無く苦しんでいる。経済にもダメージを受け過ぎた。避難民となった国民を救い経済界を立て直しながら戦争を継続する事など無理だろう。日本がそれを黙って見ている筈もない。これ以上、あの特殊爆弾を使われたらアメリカ国民は一人残らず殺されてしまう。残念ながらこの戦争は負けだ。今は生き残っている国民を一人でも多く救う道を選択しよう。戦争が一日でも早く終われば、それだけ助けられる命は増える」
ハーラン・フィスク・ストーン臨時政府代表の言葉に次官達は項垂れた。
理屈ではある。正論かもしれない。戦えない事はわかっている。
しかし、東洋の小国に過ぎない国に、見下している有色人種の国に、降伏する事に心理的抵抗があった。
だが、受け入れるしかない。
既に死者の概算は1000万人を軽く超えている。
負傷者は2100万人を超える。
アメリカ人の四人に一人が死ぬか負傷した。
家を失い難民と化したのは約2500万人。アメリカ人の五人に一人が住む場所を失ったのだ。
家を失わなくても電気や水道が止まり生活に支障が出ている国民も多い。
内陸部では鉄道が破壊され生活に必要な物資が届かなくなった地域もある。
早く戦争が終われば軍を救援に回せる。
日本軍による交通網と通信網の攻撃も終わり物資の流通も回復する。
そうなれば薬や食料を運べる。
だが、戦争を継続すれば死者は更に増大するだろう。戦場で戦う兵士以上に、難民と化した国民、それも多数の負傷者が薬が無く死に、何れは餓死者も出るだろう。
アメリカはそこまで追い込まれている。
「わかりました。代表、降伏しましょう」
国務省次官が賛同した。
「私も賛成します」
「仕方がありません、同意します」
次々と賛同する声があがる。
その声は続き、最終的に全員が同意した。
「急いで日本政府との交渉に入ってくれ。交渉が早く纏まればそれだけ救える命は多くなる」
「わかりました代表」
ストーン臨時政府代表の言葉に国務省次官が力強く頷いた。
こうしてアメリカ合衆国臨時政府はこの日、正式に日本に対し降伏する事を決定した。
【to be continued】




