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真・摂政戦記 0012話 風はフロリダから

【筆者からの一言】


連邦政府は消滅しても俺達の政府は消滅しちゃいない!

というお話です。

 1941年下旬 『アメリカ フロリダ州 州都タラハシー 知事室』


「知事、本気ですか?」

「本気だ」

 政策担当顧問の問い掛けにフロリダ州知事は苦悩の表情を見せながらも頷いた。


「だが、それは国家への反逆です」

 副知事が懸念を滲ませた声色で問い掛ける。

 だが、知事の考えは揺らがない。

「私とてできる事ならばこんな決断はしたくない。しかし、私にはフロリダ州知事としてフロリダ市民190万人の安全をはからねばならない義務がある。連邦政府が消滅した現状では尚更だ。もし日本がフロリダにあの特殊爆弾を使用したらどうなる? フロリダは全滅するぞ」


「それは……」

「確かに……」

 知事の尤もな言葉に副知事と政策担当顧問の言葉と表情も冴えない。


 日本軍にワシントンDCが攻撃されルーズベルト大統領を始めとする政府閣僚全員と上下両院議員全員が死亡とのニュースが伝わってきた。

 更には日本が大都市を一発で壊滅させる新型特殊爆弾を使用し、既に全米60都市で多大な犠牲が出ている事も報道されていた。

 太平洋・大西洋両艦隊も壊滅し日本軍は西海岸に上陸しているとの報道もある。


 最初は誤報であっくれ、何かの間違いであってくれ、と思っていたが、日にちが経つにつれ、それらの情報が確実である事がわかってきた。


 特にフロリダはメキシコ湾と大西洋岸の海に面している事から中南米諸国からの情報も得やすい。

 国内での情報網が被害をうけ情報が混乱し錯綜しているので、フロリダから遠い西海岸地域の情報などは中南米諸国の方が正確な情報を掴んでいる場合もあったのである。


 フロリダ州政府では全力をあげて国内からの情報と国外からの情報を収集し、すり合わせて分析、検討した結果、あまりのアメリカの被害の大きさに、誰もが驚愕にする事態となった。

 知事にその報告書を持って来た書記官など手が震えていたほどである。

 それほどまでにショッキングな内容だった。


 日本の使用した新型特殊爆弾については南米諸国が盛んに報道していた。

 これは日本が宣伝目的の為に非公式にその威力を南米諸国のマスコミに流していたからである。

 

 連邦政府が消滅した今、アメリカ合衆国の舵取りは非常に困難になりつつあった。


 このままでは日本の新型特殊爆弾により文字通りアメリカ全土が殲滅される可能性も出てきた。

 どうやら今の所、日本は人口20万人以上の大都市を狙い特殊爆弾を使用している。

 20万人の大都市で無事な所はあと数都市だけだ。

 その大都市への攻撃が終われば、次は中規模や小規模の都市が狙われるかもしれない。 


 それらを考慮して知事は一つの決断を下した。

 

 フロリダ州のアメリカ合衆国からの脱退及び、フロリダ州の独立、今次大戦での中立宣言である。

 その案を今、副知事と政策担当顧問に相談していた。


 そのフロリダ州知事の名前はスぺサード・ホランド。今年49歳。


 彼はフロリダ生まれのフロリダ育ちでフロリダ大学卒。

 職業は弁護士として始まるが、第一次世界大戦が発生した時は軍人として出征しフランスで戦い活躍し勲章を授かっている。

 その後、再び弁護士に復帰するが、後にフロリダ州で検察官となり、更にその後はやはりフロリダ州で裁判官となっている。

 1932年には民主党から出馬してフロリダ州の上院議員となり1940年までその職にあった。

 そして今年のフロリダ州知事選挙に出馬して当選し知事になったばかりだ。


 そこまでは史実通りである。

 史実では、フロリダ州知事を1945年までつとめ、その後、再び上院議員選挙に出て当選し1946年から1971年までの25年間その職にあった。

 1970年には次の選挙には出ないと発言し、その言葉通り1971年1月の任期切れをもって引退したが、それから10ヵ月後にフロリダで77歳にて死去した。

 上院議員時代から教育、減税、労働者の賃金問題と失業保険問題に力を入れていた人物だ。


 フロリダに生まれ、フロリダで育ち、公僕として長年、フロリダ州とアメリカ合衆国に尽くし、そして故郷のフロリダに死した男。

 こよなく故郷のフロリダを愛した男。

 それがスぺサード・ホランドという男だ。


 そのスペサード・ホランドは1959年にノーベル委員会に対し、当時の日本の首相、岸信介をノーベル平和賞に推薦している。

 岸信介首相の核軍縮運動推進がその理由だ。

 しかし、この歴史では日本が使用する核兵器に脅かされている。

 皮肉な話しである。


 フロリダを愛しているからこそホランド知事は、このまま坐してフロリダが日本軍の攻撃に壊滅させられ多くのフロリダ市民を亡くさせるわけにはいかなかった。


 アメリカ合衆国は連邦政府と州政府の二重構造だ。

 州政府の権限は大きい。

 州法もあれば州軍もある。

 現代においても各州によって法律が違うので死刑制度のある州もあれば、既に死刑制度を廃止した州もある。

 平時において州軍を動かす権限は州知事にあるが大統領には無い。

 現代日本における都道府県知事と比べるとアメリカの知事の権限は遥かに大きく重い。


 だからアメリカ合衆国は州という小さな国が集まり国を構成している連邦制の国だ。

 それ故にアメリカ政府は連邦政府とも呼ばれている。


 スぺサード・ホランド知事は、この後、州議会や州の民主党本部と共和党本部、更にフロリダ経済界の主要メンバーに根回しする。

 流石に独立ともなれば反発する者達もいた。

 しかし、日本軍の新型特殊爆弾の威力、日本軍の狂気の兵士からどうやってフロリダ市民を家族を守るのだ?と問われれば沈黙せざるをえない。


 フロリダ州に新型特殊爆弾(ウラン爆弾と言う名の原子爆弾)は落とされていなかったが、摂政はフロリダ州の四つの主要港ジャクソンビル、ウエスト・パーム・ビーチ、セント・ピータズバーグ、ペンサコラに対アメリカ決戦用強襲部隊「桜華甲班」を投入し、無差別大量殺戮と港の破壊をさせている。


 日本軍の狂った兵士の話しは今やフロリダ中に広まっていた。

 まだ子供と言える年齢の者を含む男女の日本兵が、老若男女区別なくフロリダ市民を笑いながら殺し最後は自爆していった。まるで悪夢のような話しである。

 それに加えてルーズベルト大統領は、まるでどこかの未開の蛮族が行ったかのように日本軍に首を切られて晒された。

 新型特殊爆弾は止める手立てが無い。

 

 状況は最悪だ。

 誰が日本軍からフロリダを守ってくれるのか。

 人口わずか190万人しかいないフロリダ州では州軍の規模は小さく、連邦軍も大して駐屯はしていない。

 

 今や各地にあった連邦軍は大打撃を受けており、他の州も州軍を他所に派遣するのは躊躇するだろう。

 どこも自らを守るのに懸命な筈だ。

 もうフロリダが生き残るにはアメリカ合衆国から独立するしか道は無い。

 

 スぺサード・ホランド知事に根回しを受けた者達はそう説得され最終的には折れた。

 誰もが家族を持っている。

 子もいれば孫のいる者もいる。

 老いた父母や兄弟姉妹、親戚や仲の良い友人がいる。

 そうした愛する者達を守る力が連邦政府にはもう無いのだ。

 決断するしかなかった。



 1941年12月下旬、フロリダ州はアメリカ合衆国からの離脱と独立、そして今次大戦での中立を宣言した……


【to be continued】

【筆者からの一言】


フロリダに続く州はあるのか……


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