真・摂政戦記 0010話 積み込み
【筆者からの一言】
敵地のど真ん中に孤立しているこの人達は、ここに残る意味はあるのだろうか?
後で摂政に聞いてみましょう。
1941年12月中旬 『ケンタッキー州 ハーディン郡 フォート・ノックス』
「積み込み急げ!」
将校が兵士を急き立てていた。
何隻もの巨大な飛行船の貨物室に兵士達が木箱を次々と運び入れている。
そこに指揮官が来た。積み込みを監督していた将校に声をかけた。
「どうだ、どれぐらい積んだか?」
「はっ。既に8割は積み込みました。予定通り、本日中には積み込みを完了します」
「よしっ! いいぞ」
部下の返答に満足し指揮官は大きく頷いた。
現在、このフォート・ノックス基地は「桜華乙班薄桜隊」の毒ガス攻撃により無力化され占領されていた。
そして、基地内の金銀保管所に眠るアメリカ政府の保有する大量の金塊と銀塊が「桜華乙班薄桜隊」の手により持ち出され大型飛行船に積まれている。
フォート・ノックス基地は広大な敷地を持ち機甲部隊の本拠地でもある事から平坦な地形の部分も多い。 今、そこに9隻の飛行船が集結していた。
このうち5隻はワシントンDCを強襲した「第零東遣航空艦隊」の飛行船であり、ワシントンDCに落下傘部隊を降下させた後、このフォート・ノックスに向かったのである。
残る4隻は「第1東遣航空艦隊」に所属する飛行船であり、中西部で先に「ウラン爆弾(原子爆弾)」による核攻撃を成功した後、このフォート・ノックスに向かった飛行船である。
今、その9隻の大型飛行船にアメリカ政府の物であった大量の金塊と銀塊が積み込まれている。
「第1東遣航空艦隊」所属の4隻のうち2隻は搭載していた戦闘機とパイロット、整備員や戦闘機の燃料と整備部品を降ろしている。
フォート・ノックスの部隊に参加させるためだ。
残る2隻の戦闘機部隊は護衛としてそのまま搭載している。
この金塊を積んだ飛行船部隊はこの後、中西部の「愛と平和の教団」の農村共同体に向かい、そこで補給を受け、それから西海岸に向け飛び立ち、最終的に日本を目指す事になる。
一方のアメリカ軍は指揮系統が乱れ入って来る情報も錯綜してどこも大混乱だった。
これには議会議事堂でルーズベルト大統領が開戦演説をしていた時に陸軍と海軍の主要人物も同席していた事が災いとなっている。
陸軍参謀長のジョージ・マーシャル将軍。
海軍作戦部長のハロルド・スターク提督。
この二人も日本軍の襲撃により議事堂の片隅で死亡していた。
ヘンリー・ルイス・スティムソン陸軍長官とウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官も死亡している。
更には陸軍省も制圧され他の陸軍高官も死亡している。
アメリカ陸軍が国内で蠢動する日本軍を押さえ込まなければならないのに、そのトップ達が失われているのだ。
アメリカ本土を防衛する東部、西部、南部の各防衛軍司令部は、担当地域にある大都市で突如発生した大爆発(日本の核攻撃)の情報だけでも手に余る事態となっていた。
しかも他の司令部との調整役となる陸軍省との連絡も不通になり混乱に拍車をかけている。
怪しげな飛行船についても情報は入って来ていたが、情報の信頼性に疑問符がつき対応が遅れていた。
東部防衛軍司令部の参謀は情報を電話で伝えてきた将校に噛みついている。
「首都ワシントンDCの上空に日本軍の飛行船が現れただ? 夢でも見てるのか? 寝言は寝て言え!!」
飛行船による「ウラン爆弾(原子爆弾)」投下にしても落下傘で投下し、時限式で爆発時間に猶予を持たせたために、アメリカ人の中には飛行船が爆弾を投下したとは思っていない者もいた。
それに「ウラン爆弾(原子爆弾)」の爆心地近くにいた人達は敵も味方も皆、死亡している。
その為、飛行船により爆撃が行われたとはアメリカ軍人の殆どが考えてもいなかったのである。
こうした事から日本の飛行船による「東遣航空艦隊」は、未だアメリカ軍からは重要な敵対戦力とは認識されていなかったのである。
それには今暫くの時が必要であった。
【to be continued】
【筆者からの一言】
摂政戦記とは違いフォート・ノックスで奪取した金塊を飛行船で輸送するようです。
デンバーで奪取した金塊は摂政戦記と同じく陸路移送中のようです。
筆者「摂政殿下、これだけ核攻撃して甚大な被害を出させているのに、金塊を奪った後もフォート・ノックスを確保する意味はあるんですか?」
摂政「軍機だ」
筆者「便利な言葉ですね」
摂政「おい、副官、こいつを銃殺に…」
シュタタタタタタタタ(筆者の逃げる足音)