神、降臨(?)
「神って、お前、俺を殺そうとしてたあの神ってことだよな?」
「そうじゃ、たわけっ‼︎‼︎ 貴様のせいで、下界に堕とされたのじゃ‼︎‼︎‼︎ どうしくれるのじゃっ‼︎‼︎‼︎」
だーっと、俺のところまで走ってくると、ポカポカ殴りつけながら叫んだ。
だか、手を伸ばしても俺の胸部までしかないし、神なのかって疑うほど非力で全然脅威を感じない。
「どうも、こうも、何があったのかわからねぇだろ」
「うるさいうるさいうるさいっ‼︎‼︎‼︎ 全部貴様のせいじゃっ‼︎‼︎‼︎」
あやすように言ったが、ついに(自称)神が俺にしがみついて、びぇぇぇぇ‼︎‼︎、と泣き出してしまう。
もう制服がグジャグジャだ。
「? っ!」
しかも、気付けばなんか窓とかドアから住民がこっちを見ている。
その目がすげぇ怪しげで俺が少しでも不審な動きをすれば、即通報しそうな目つきだ……………………。
まあ、確かに今の俺は普通じゃない。
小さなクレーターのそばで、銀髪の幼女に泣きつかれてるなんて異常以外の何でもない。
「お、おい。とにかく、泣き止んでくれ、な? お願いだ、頼む」
「うるさいっ‼︎‼︎ 泣いとらんわっ‼︎‼︎」
ま、まだ認めるつもりがないのかっ。
だが、つっこめば絶対にさらに面倒になる。
「くそっ! 文句言うなよっ‼︎」
「ふのわっ‼︎」
かと言ってずっとここにいてもまずい。
俺は幼女神を肩に担ぎ上げて走った。
「何をするかぁあ‼︎‼︎」
「お前が喚くから、目立ってんだよっ!︎ とりあえず人のいないところに行くぞっ!」
肩の上でジタバタと喚き散らす幼女神を無視して駆けた。
てか、足を止めたらだめな気がする。
嫌がる女児を無理矢理担いで走る高校生という図はもう即通報レベルの事案だ。
「き、貴様っ…………わ、妾を人気のないところに連れ込んで何をするつもりじゃ?」
俺のセリフに自分の置かれた状況に気付いた幼女神がピタリと喚くのをやめて、恐怖に震える声で言った。
この場面を見られたら、完全に言い逃れはできないだろう。
「何もしねぇよ! ガキの体に興味あるわかねぇだろっ‼︎」
「神様に向かってガキとはなんだガキとはっ‼︎‼︎」
「事実だろうがっ!」
今度は憤慨してジタバタしだしやがった。
何が不満なんだよっ‼︎
……………………下界に落とされたことか。
「とにかく、黙ってくれっ。 それとも、黙らされたいかぁ?」
足を止めて、脅すように声のトーンを落として言ったら、
「ひうっ‼︎‼︎」
と、予想以上に怖かったようだ、息を呑んで黙り込んでしまった。
いや、耳を澄ませば、しゃくる声が僅かに漏れて聞こえる。俺が黙っていろと言ったから両手で口を押さえているようだ。
そこまで、怖かったのか、俺?
…………なんか…………罪悪感がすごい……………………。
後で、誤解を解こう。
「よし、着いたぁ、疲れたぁ」
しかし、幼女神が黙ってくれてどうにか人目を避けて、息を切らしながらも愛しの我が家の前に辿り着いた。
とは言え、ここからが試練だ。
よっと、と幼女神を降ろして、屈み込んだ。
「呼びに行くまで、ここにいてくれ。わかったな」
「(ぶんぶんぶんぶんぶん)」
俺の言いつけに首を縦に勢いよく振ったのを確認して、立ち上がるとそっと玄関を開けて入った。
音がしないように靴を脱いでソロりソロりと廊下を移動してそっと居間を覗き込んだ。
「ふ〜ん、ふん、ふ〜ん」
そこでは奥の台所で母さんがよくわからない鼻歌を歌いながら、夕食を作っている。
俺の気配には気付いていないようだ。
この様子なら大丈夫だろう。
玄関に戻って、お口チャックみたいに口を一文字にして黙っていた幼女神に、人さし指を口に当てて、しーっ、というジェシチャーで念を押してから手招きした。
それにもぶんぶん頭を振って頷いて応じた……………………さっきまでうるさかったが、こう見ると少し愛着が湧きそうだ。
幼女神は靴を履いてなく、脱ぐ手間が省けた。
廊下を二人でそろりと移動して、突き当りの階段を上がり、3つのうちの俺の部屋のドアを開けて入る。
「ふ〜〜。もう喋っていいぞ」
緊張の糸を緩めて長い息を吐いた。
近くに妹の部屋があるが、部活でまだ帰ってこないはずだ。
「う、うむ」
「それで、だ。何があったのか話してくれねぇか?」
「わ、わかった」
しおらしくなった幼女神が話し始めた。
「妾は汝を荷車で轢き殺そうとしたじゃろう?」
「おう。そうだな」
「それを上司に知られてな……………………こっぴどく怒られたのじゃ……………………」
その時を思い出したのか、幼女神が顔を俯かせた。指示代名詞も汝に戻ってるし、落ち着いたみたいだが、今まで忘れてた現実が急に目の前に現れたんだろう。
その姿に急に親近感が湧いた。
上司って、神に上下関係があるのか。
なんか、世知辛いな。
「上司がいるのか……………………天国って会社があるのか?」
「社中ではなく、組織じゃ。星の数ある世界の管理をしておる」
「ああ、それで、俺を異世界に飛ばすと言っていたのか」
へぇー、別世界って本当にあったんだな。
もう、神にあった時点で俺の驚きのハードルが下がってしまったようだ。
「そうじゃ。妾が担当していたのがこの地球がある世界とまた別の世界の二つで、別の世界が魔王によって破滅に向かっていたから」
「俺を送り込んで、どうにかしようとしたのか」
「そうじゃ。たまたま汝を見て、こやつならと思ったのじゃが、な」
唐突に幼女神がしゅんとなって、肩を落とした。
「なんか…………ごめん」
その様子に俺もいたたまれなくって謝ってしまう。
俺が知っているのは、俺を殺そうとしているときの生き生きとした姿と下界に落とされたことに怒っているときの姿で、急にこんなしおらしくなると挨拶に困るんだが……………………。
「ああ、いや、妾も気が急いて汝の言葉に耳を貸さんかったからな。妾が担当していた世界は他の神に引き継がれたし、何も謝ることはない。それに、謝るのは妾じゃ。先程汝に強く当たってしまったな、すまなかった」
「いや、別に構わねぇって。それで、なんでこんなとこに来たんだ?」
ジメジメした雰囲気を変えようと、別の話題を振った。
「妾が汝の意志をしっかと聞かず、無理無体に異世界に飛ばそうとしたから、神を失格されて地球に堕とされたのじゃ」
しかし、幼女神はいまだ湿った雰囲気を漂わせていた。
感情の浮き沈みが激しいやつなのかもしれないが、そんなことより俺は別のことが気になった。
「えっ……………………それ、帰られるのか?」
「ああ、心配は無用じゃ。汝が寿命を迎えて、妾に能力付与権限が戻れば、帰ることになっておる」
「はっ? 俺が死ぬまで、ここにいるということか?」
平然と言うには重すぎる内容に、思わず訊き返す。
「うむ。そうじゃ」
「いや、そうじゃ、じゃなくて。どこで暮らすんだよ。あてはあるのかよ?」
「ないぞ? 当然じゃろう。まあ、神じゃから飲まず食わずでも生きていられるし、大丈夫じゃろう」
「だ、大丈夫って、そういう問題じゃないだろ………………………………」
強がっている風もなく、なおも平然という幼女神に、俺は何とも言えない気持ちに駆られて言葉を口にしようとするが、その言葉が出てこない。
本能が囁いている。
俺が言おうとしていることは普通じゃないと、普通に戻りたければ触れるなと。
しかし、俺には目の前の神には到底見えない幼女を突き放す勇気もなかった。
「お兄ちゃん、これのこ────」
そして、足音を聞き逃さない冷静さもなかった。
「あ"っ……………………」
ドアを半分まで開けた状態で、幼女神を見つめたまま固まっている妹を見て俺は最悪の予感がした。




