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キャラ設定について考えてみる


 短い脚を必死で動かしてコロコロと転がるように走る虎をわたしを呆然と立ち尽くして見ていた。

 あああ、走ってる必死で斜めに走っている!

 一生懸命、直進しているつもりなんだろうけど、どんどん右へと進路が逸れていってるのが、後ろから見ていてよく分かる。堪らなく可愛い。

 

 ずるっ! ぽてっ!

 

「ああ! 大丈夫!?」


 愛くるし間抜けな姿に目を奪われていたけど、盛大にこけてしまったので慌てて駆け寄った。

 

 ひょい、とわたしでも軽々と持ち上げられる小さな身体。

 抱きかかえると大人しくわたしの腕の中に落ち着いた。

 

「もー、あんまり無茶しちゃダメなんだからな? 怪我したらどうすんの」


 茶と黒の縞模様の子虎は、むみゃー、と返事をした。

 うん、肯定したのか否定したのか反抗したのかさっぱり分らん。

 

 さっきからわたしが付きっきりで相手をしてるこの子の名は、ムウ。

 わたしとユン様の愛の結晶……などという事はない。そこ勘違いしないように。

 

 この子は数日前にわたしが街を散策中についうっかり拾ってきてしまった捨て子だ。

 はいはい、またわたしはやってしまったんだな。

 案内役の人と途中ではぐれてしまったわたしは、あっちへウロウロ、こっちへウロウロしてる間にスラム街へと入ってしまった。

 どうやらわたしは迷うとスラムに辿り着くという能力の持ち主らしい。いらんわ、そんな能力。

 

 そこで、また怪しい売人に出くわす前に何とかして脱出を……! と焦っている途中にこの子と遭遇したのだ。

 餓死寸前でフラフラしているこの子をどうしても放っておけなかった。

 この世界に来てしまった当初、わたしだって運が悪ければこうなっていたのだろうと思えば尚更。

 

 で。ムウを抱きかかえながら途方に暮れていたところを、颯爽とユン様が探し当ててくれて……とか言えたら良かったんだけど、ユン様がお屋敷から出られるわけもないので、実際に助けてくれたのは警邏隊の人だった。

 

 そして街で迷子になって大勢の人に迷惑を掛けた事をミン様にこってりと怒られて、更に心配し過ぎて半泣き通り越して号泣状態だったユン様を慰めるのにまた大層な時間を費やし。

 その間ムウの面倒を見てくれていたメイド仲間のみんなに頭を下げて。

 

 そんな感じでその日はくったくたな一日だった。

 まだ眠くない、と目が冴え冴えとしているユン様を放置して、先に寝ちゃったくらいの疲労っぷりだった。

 

 それからというもの、毎日献身的にムウの面倒を見ながらユン様のお世話をし、やっとこうしてムウが元気に庭駆けまわれるくらいまで回復したというわけだ。

 

 あ、ちなみにムウの名前の由来は、わたしがこの子ばっかり構うからユン様が不機嫌になって「むう!」と怒ったから。

 まぁわたしに名づけ権を与えた時点で間違っていたって事だな。

 

「うーん、お前本当に施設に行って大丈夫かぁ? ちょっと心配だなぁ」


 親のいない子の面倒を見る施設がちゃんとこの国には存在する。

 ムウはたまたまわたしが通りかかったから助けられたけれど、施設に行き着く事無く死にゆく子は少なくないらしい。特にスラムでは。

 

 まだ体力が万全じゃないムウだけど、もうここまで元気になれば、後はこの離宮を離れて施設へ連れて行く事になる。

 いつまでも、生き神たるユン様の屋敷に住まわせておくわけにはいかない。

 

「じゃあムウの事、よろしくお願いします」

「はい、確かに」


 優しそうな壮年のおじ様にムウを渡す。初めて見る人に若干怯えているけれど、ムウは大人しく彼に抱かれていた。

 

 暫くジッとムウ達が去っていくのを眺めから、わたしもクルリと方向転換して屋敷の中へと入った。

 いつまでも感傷に浸ってはいられない。

 なにせウチにはもう一人問題児がいるからな。いい大人の問題児が。

 

「ユン様、ムウはちゃんと施設の方にお任せしましたよ」


 ちらっとわたしを見て、ユン様はすぐにそっぽを向いた。

 おいなんだそのリアクション。面倒くさい事この上ないじゃないか。

 嫉妬深い女に辟易とする男の心情というものを一瞬理解しかかってしまったわ。

 

 もうこの数日というものずっとこの調子だよこの人。なにせ子供の名前がムウになっちゃうくらいだ。

 

 あれ、でもちょっと待て。今ユン様は人型を取ってらっしゃるけれど、さっきのプイ! のところを虎の姿でされたらどうだろう。

 

「…………ユン様っ!!」


 体当たりする勢いでユン様の背中に抱き着いた。

 妄想しただけで、スゲェ破壊力だった!

 哀愁漂う後姿とか、首をもたげてしょんぼりしてるところとか、ちらっと物言いたげにこっち見てくる表情だとか!

 動物って喋れない代わりに全身で訴えてくる感じがね、必死さが伝わって来て余計に愛らしく見える。

 

 というわけでユン様の姿を脳内変換た結果、我慢できずに主様を後ろから襲ってしまった。

 

「カノ!?」


 驚いておたおたしているユン様。だけど全然離れようとしないわたし。


「うん、やっぱユン様が一番可愛い」


 しみじみと言うとユン様は動きを止めた。

 

「可愛い……より、カッコいいの方がいい」

「百年早いです、ユン様」

「そんなに……!?」


 カッコいいっていうのは大人の男の称号だ。いや年齢で言えばユン様も立派な大人なんだけど、如何せん中身がな。

 ムウと同レベルになってヤキモチ焼いてるようじゃまだまだ。

 

「それにしても誤算でしたねぇ、ユン様がムウの事気に入らないなんて。あの子はきっといい刺激になるだろうってミン様も言ってたのに」


 わたしがユン様にお仕えするようになって少し経つ。

 独りから二人に増えた生活にも慣れてきて、更に次の変化を……という時にわたしが偶然ムウを拾ってきた。

 

 王宮外の虎、しかも子供なんてユン様にとって未知数だ。いい機会だから屋敷に置いてみて、良ければ育てて将来的に使用人にでもすればいいとミン様は画策していたようだった。

 

 だけど、結果は「むう!」

 なんだよ、大の男が言う事かよ。ちっ、ユン様マジで世界一可愛い!!

 

 仕方がないからミン様にまた相談して、やっぱりムウは施設にお願いして預ける事になった。

 

 というのが今回の事の顛末だ。

 

「……カノが、あんなに構わなければ、別に」

「そんな事言ってる内は子供なんて作れないですね」


 確か最初言ってたよな、子供欲しいって。

 出来ちゃったらユン様にも父性というものが生まれるのかもしれないけど、どうもこの調子じゃ難しそう。

 

 過去何度か現れた白虎だけど、彼等の子供についての記録は残されていないらしい。

 そもそも繁殖力が弱いのかもしれない。

 

 そのわりに、ユン様とってもアッチは元気だけどな……。

 遠い目をしていると不思議そうに見詰められた。いや、わたしはあんたのあの底なしの体力の方が不思議だわ。

 この細い身体のどこに隠れてるんだ。

 

「子供は、その、カノの子はきっとかわいいと思う、けど……。今は、こうやって二人きりがいい」


 少し前まで容赦なくわたしがユン様に抱き着いていたけれど、今度はユン様がわたしを抱き込んだ。

 すっぽりと彼の胸にうずまるのは好きだ。

 

 いつもは、わたしがユン様を守らなくちゃって思うのに、こうやって彼に包まれているととても安心する。

 

「カノは、ずっとここにいて。ぼくと一緒にいてね。そしたら、大丈夫……だから」


 震える小さな声で吐き出された言の葉は、切々とした願いのようだった。

 よく分らないけど、ユン様なりにムウが居なくなったのを少しは寂しいと思っているのだろうか。

 

 それとも、わたしには思いもつかないような、何か心の奥に秘めた悲痛な傷があって、それが言わせているのだろうか。

 

 ……いや、ないか。無理やりシリアス展開に持っていこうとしたけど、どうもユン様だとなぁ。暗い過去設定とか難しいよな。深読みは良くない。

 

「わたしがユン様以外のどこに行く場所があるって言うんですか。むしろユン様が嫌だって言ってもここに居座りますよ」


 暗く重たい過去はなくても、長い歳月一人きりで居たのが今になってトラウマになりかけているのかもしれない。

 もうあの時に戻りたくないと思っているのかな。

 

 バカだなぁ。わたしがユン様をそんな悲しい時間に置き去りにしたりするはずないのに。

 

「カノ、カノ」

「ん……、ぁユン、さま……」


 貪るように口づけられて、そのまま押し倒された。

 結局はこうなるのか。もはや諦めの境地で受け入れる。

 

 恍惚とした表情で見下ろしてくるユン様に、ぞくりと背筋が痺れた。

 

 ていうかですね、ヤンデレ設定とかも、やめて下さいね?

 



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