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第二章:もう少し可愛らしい動物に変えられませんの?

イベントの喧騒が遠のき、小柄な少女は独り夜の闇へと踏み入った。高揚した熱を夜風に溶かすように、あえて人通りのない路地を選んで歩を進める。


「魔力の無駄。もっとまともに使いなよ」


樹影の中から、腰まで届く長い髪をなびかせた高身長の少女が現れた。有栖優子だ。


その端正な顔立ちは凛としており、マリーに対しては一切の虚飾を排した、冷淡で簡潔な女子高生の口調で告げた。


「ほんの少しの資本主義の魔法ですわ實。でも、試合での不正はあたくしの美學に反しますのよ」

マリーはいたずらな微笑みを浮かべ、軽やかに答えた。


「別に。それより、あんたにも聞こえるでしょ」優子は深追いせず、前方にある公園へと視線を向けた。


「被害が出る前にやる。手伝って」


二人が公園のベンチに辿り着くと、そこには砕け散った紫色の結晶が散乱していた。暗闇の中で放たれる微かな光が、不気味な色彩を路面に落としている。


「理解に苦しみますわ。異界から這い出てくるこの手合は、まるで流し台のゴキブリのようですわね」

マリーは結晶を一つ拾い上げ、不快そうに眉をひそめた。


「数は少ない。マシな方」結晶の残骸を見下ろしながら、優子が短く吐き捨てる。


「ええ、そうですわね……」マリーは紫色の結晶をじっと見つめた。


彼女の耳には、結晶の中に閉じ込められた微かな叫びが届いていた。それは、ここで遊んでいた誰かが最後に放った絶望の残響だ。


助けを求める声は、結晶の消失と共に静寂へと沈んでいく。その末路と同じように。


「まだ近くにいる。追うよ」優子は簡潔に告げ、手をかざした。一冊の本が虚空に浮かび上がる。


「ALICE WONDERアリス・ワンダー、変身」白光が彼女を包み、中から現れたのは白のワンピースに薄衣を纏った、童話から抜け出したような姿だった。


「小型種ね」優子が本を開くと、無数の灰色の鼠が這い出し、彼女の足元に集結した。



「もう少し可愛らしい動物に変えられませんの? 嫌悪感を禁じ得ませんわ」マリーは忌々しげに吐き捨てた。


「効率いいし。街中ならこれでしょ。噛めるし」優子が手を振ると、使魔たちは無言で四方八方へと散っていった。


「見つけた。すぐそこ」ほどなくして鼠たちが帰還した。その先導に従い、二人は近隣の商店街へと向かった。


辿り着いた先は、街灯が灯り、人波が絶えない賑やかな通りだった。


その喧騒の中、周囲の風景から浮き上がるようにして、一人の幼い少年が玩具店のショーケースをじっと見つめている。


その眼差しには、隠しきれない羨望と憧憬が宿っていた。


「……こういう役目は、やはりあたくしがやるべきなんですのね?」マリーは溜息をつき、不本意ながらも少年へと歩み寄った。


「こんな時間に何をしていますの? 良い子は早くお帰りなさいな」微笑みながら話しかけると、少年は呆然と立ち尽くした。


周囲の人々は、マリーの魔法によって意識が数秒間空白となり、彫像のように静止している。少年の耳には、耳鳴りのような不快な羽音が響き続けていた。


「お姉様が、この子守唄を贈って差し上げますわ」いつの間にか真紅の大剣がその手に握られていた。


巨剣が振り下ろされ、少年だったモノは結晶へと変わり、粉々に砕け散った。


「これでよろしいかしら。ドブネズミの始末は済みましたわ」マリーが優子の元へ戻ると、人々の意識が正常に戻った。


音波と振動を操るマリーにとって、目撃者を排除しつつ対象を処理するのは造作もないことだった。


「お疲れ。とりあえず終わり」優子は本を閉じ、変身を解除した。


「滅びた世界の破片にとって、こちらの空気は刺激が強すぎましたわね」マリーが先ほどまで少年がいた場所を見る。そこにはもう、紫色の結晶すら残っていない。


異界から迷い込み、ただ無垢に玩具を眺めていた存在。だが、彼がこの世界の住人を殺めた瞬間、それは「排除すべき害獣」へと変わった。


誰も知らない場所で、彼女たちは世界を救い、そして何かを殺し続ける。


それが、魔法少女という名の、高潔で醜悪な職務である。

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