後日異世界に送り込まれるアラフィフ男、仕事が終わらないので《まだ》異世界には行けません!
異世界に送られる予定のアラフィフ男、異世界に行く前日譚となるのか?
スーパーマーケットの裏側のヒューマンドラマ、苦悩を贈ります。
~異世界に送り込まれたアラフィフスーパーの店員
異世界には《まだ》行きません!
第一話
俺の名前は英 雅樹、アラフィフだ。
都内のスーパーの店員をやっている。
最初は次の仕事を探す間の繋ぎの仕事としてはじめたんだ。気が付けば15年も働いている。
結構むらっ気があったから仕事は何回か転職をしてきた。
流石に15年も働くと仕事だけではなく地域の住民にも認知され、子供達からは親戚のおじさんみたいな感じに認識されている。
15年の歳月はあっという間に過ぎ去り、幼児が高校生、大学生に成長する姿も楽しみの一つだった。
中には引っ越しや家庭の事情で別れもあったが、
おおむね楽しく生活が出来ている。
俺は長年の勤務でスーパーの仕事は鮮魚、精肉、接客、デリカ、品出し、発注、クレーム対応と何でもこなしていた。
まぁ、体の良い何でも屋だ。
最近クレーマーの30代男性が毎日の様に買い物、クレームのループが悩みでも有り楽しみの一つでもある。クレーム自体は店舗運営に反映出来る有意義なものも多い。
さて、クレーマーが来るまで少し時間があるから売り場でも見て回るか…
見かけない青年がおずおずと声を掛けてくる
『英さん、お久しぶりです!僕のこと憶えてますか?』
俺は少し青年の顔を見て記憶を探る。なかなかの整った顔立ちだ。その笑顔には見覚えがあったが、かなり昔の記憶だった。
『もしかして、栃木に引っ越した瞬君?笑顔が昔と変わらなかったから!何年ぶり?東京には帰ってきたの?』
瞬と呼ばれた青年は名前を覚えていてくれた嬉しさからか、ぱっと笑顔が溢れた。
『憶えててくれたんですね!色々あって都内に来たんです!そしたら英さんの事を思い出して会いたくなったんです!』
『そっかぁ大きくなったね、瞬君いくつになったの?』
『今年で17歳になりました。』
『あれからもう12年かぁ、お父さんとお母さんは元気?一緒に来たの?』
何気ない会話が続くかと思ったが、瞬の表情が曇る…
売場も夕方の喧噪、一日に何度か訪れる戦争の時間が始まろうとしている。売場の賑やかさとは反対に瞬は静かに答えた…
『いえ、今日は一人で来ました…』
『一人?どうしたの?親御さんとケンカでもしたの?』
『あっ、あの!英さん、昔僕に言ってくれた言葉って憶えてますか?大きくなったら一緒に働いてくれますか?って』
『もちろん、瞬君はお母さんの手伝いを頑張ってしてたもんね。その時にお肉のいいところ選ぶの上手だね~、目利きだね~、瞬君が大きくなったらおじさんと一緒に働いてくれますか?って』
当時の記憶は鮮明に思い出せる。キラキラと輝くいい笑顔で《うん!》って返事を返した瞬君は、自分にとっても良い思い出だった。
『憶えててくれたんですね!英さん、僕一緒に働きたいです!僕を雇ってください!』
瞬は俺の目を見て懇願してくる。まるでもう後が無いと言わんばかりの表情だ…
『いきなりどうしたの?雇うって瞬君まだ17歳でしょ?住んでるところはこの近所なの?学校だってあるでしょ?』
『………』
瞬は堅く口を閉ざして悔しそうに下を向く。
『話しにくい?じゃあ飯でも食いながら話そっか?その様子だとまだご飯食べてないんじゃない?』
『………』
俺の一言に瞬は少しだけ顔を上げ、とまどった様な、嬉しそうとも悲しそうともいえる表情をする。
先程の久しぶりの対面の嬉しそうな顔と打って変わった瞬を見て何か事情があるのを察したが職場で込み入った話は難しいのでこの後ゆっくりと話を聞くとするか…
そう思案していると売り場の鮮魚コーナーから神経質な甲高い男性の声がする…ああ、もうそんな時間か…従業員からはクレーマーと表される、榊の来店か…
俺はこの後の自身の予定を確認しながら瞬に尋ねる。
『瞬君、この後少しだけ待っててくれるかな?仕事をなるはやで終わらせるから待っててくれる?』
『はい…英さんと話したいです…お店のベンチに座ってまってます。』
『ごめんね、また後でね。それから、何が食べたいか考えておいてね?』
そう瞬に伝えた俺は鮮魚売場のフォローに走る。
冷たいようだが今の俺は店舗スタッフなのだから…と割り切り後ろ髪を引かれる思いで本来の仕事にもどる…
榊は近くにいたスタッフに話しかけている。
捕まったスタッフはどうにか逃げだそうとしているが榊は逃がさない。
榊は年の頃30前位の、痩せ型長身。肩甲骨あたりまで伸ばした黒髪をセンターで分ける、大きめな丸眼鏡の男性だ。一旦顔を見たらすぐ、榊と分かる特徴だ。
榊は俺を見つけると声を掛けてきた。
『ああ、英さん、今この店員さんに旬の生サンマ鮮度的に刺身に出来るか聞いたんだけど、イマイチ要領が…』
榊は早口で捲し立てるかの様に言葉を並べ立てる。榊は決して悪質なクレーマーの類いではないのだが、全てのスタッフに色々な質問、要望をぶつけてくるためにスタッフによっては苦手意識が強く売場から逃げ出すスタッフまでいる。
ただ、先程からクレーマーと言っているが俺自身はクレーマーとまでは思っていない。むしろこちらの知識を学べる人だと思っている。まぁ、対応を間違えると本部までクレームが飛ぶのだが…
俺は軽く頭を切り替えて榊に話しかける。
『榊さん、こんにちは!今日はサンマですか?旬の魚ですからね~、腹も張ってるし、エラの内側もキレイな色してるし、鮮度はお墨付きですよ!ただ、刺身に出来る鮮度ですが、今のサンマは刺身にするためにはアニサキスが怖いので家庭用の冷凍庫なら最低でも72時間以上冷凍してって保健所からはいわれてまして…ただ、家庭用のれいとうこの温度は機種や環境によって不明瞭なので俺はオススメできませんが…どうしても刺身をやるなら冷凍してからにしてくださいね。昔はそんなにアニサキスってなかったんですけど、最近はサンマだけではなくアジやらなんやらアニサキスが…って言われてるんですよね…』
榊が何を知りたいか…俺は会話を通して榊の表情や声色に注意を払う。
俺は家庭用の冷凍庫の温度が業務用よりも高いために、アニサキスは死滅しにくい事を榊に伝えた。
途端に榊は表情が明るくなり、より早口になる。
『じゃあ鮮度は問題ないと?アニサキスは塩やワサビ、酢ではダメなんですか?お寿司屋さんの〆鯖は塩と酢ですよね?』
『実はアニサキスは塩や酢では死滅しないんです。アニサキスは内臓に寄生するんですが、魚の死後内臓から身に移るんですよね。〆鯖は冷凍の鯖を使うか、生鯖の場合、魚が生きてる内に〆て内臓を取り出す等の処置をするそうです。だから鯖って言っても値段が上がるって聞きましたね。ブランド鯖なんかもそうらしいですね。』
内心瞬の存在が頭をかすめたがあくまでも仕事とプライベート、割り切り自分の仕事を選ぶ。
『後は加熱もイイって聞きました。今回のサンマは焼き魚にしますね。』
やはり榊はある程度の情報を持っているようで、知識の確認も含めての質問のようだ。
その上で自身が納得のいく答えにたどり着いた模様。
榊は自分の望む知識を得られ納得したようで眼鏡をクイッと上げる。
『それが一番安心して召し上がれると思います。後は刺身にブラックライトを当てるってやり方もあるそうですが、100%安心と言えないと思います。ウチのお店でも生のまま刺身にすることは禁止されてまして…』
榊はまた面白い知識を得られた!そんな楽しそうな
笑顔を浮かべる。
『なるほど、ソコが聞けて安心しました。ちなみに英さんならどう食べます?』
この表情は純粋にサンマを楽しむ為に質問をしているのがよくわかる。
『俺のオススメは…サンマは目黒のサンマやサンマサンマ苦いかしょっぱいか…でもあるように塩焼きして大根おろしとスダチが好きです!』
『じゃあ今夜は塩焼き一択ですね』
と、榊は嬉しそうによく太ったサンマ1匹を選び帰っていった。
上機嫌の榊を見送り、俺は店内のベンチに座り込む瞬を見つけると急いで近づいた。
『瞬君、お待たせ、もう少しで仕事終わるからご飯行こっか?お腹減ったでしょ?何が食べ物は決まった?遠慮しなくていいよ、久しぶりの再開だし、実は給料出たばかりだからご馳走するよ!』
『いえ、まだ決めかねてます。…実は何も食べてなくて…ご迷惑をかけてごめんなさい…』
瞬は申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうにうつむき答える。
『じゃあ、速攻で仕事終わらせるから食べたい物リストアップしてね!』
瞬を待たせるのは忍びない、爆速で仕事を片付けるか…そして本当は給料日前なんだよな…
頼むからカウンターの寿司とか言わないでくれ…
それにしても重い話になりそうな予感しかしない。とりあえず妻に連絡だけしておこう。
『もしもし?今日帰り遅くなるよ、ご飯は食べて帰えるよ。』
数コールで妻と連絡が繋がる。
『どうしたの?何かあったの?トラブル?』
と新婚27年目の妻の香奈から鋭い指摘が…
『うん、昔来てたお客さんの子供が一人で地方から来たんだよ、何か訳ありみたいでさ…』
ただそれだけを香奈に伝えると香奈は何か察した様に答える。
『そう…しっかり話を聞いてあげなよ?』
『ありがとう、由香(娘)にも言っておいてくれる?』
英家は都合がつく限り家族揃って食事をすると暗黙の了解で決まっている。
『わかった。とりあえずお客さん用の布団用意しておくね。ガンバってね。』
と短いやりとりで察してくれた妻に感謝して仕事に戻る。
初投稿如何でしたでしょうか?
まだまだ登場人物もそろってませんが、コレからスーパーマーケットの裏側もドンドン盛り込む予定です!




