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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第20章

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第90話

 

「2011年11月15日


 鈴木飛鳥は特に目立つという生徒でもなかったし、かといって地味な生徒というわけでもなかった。いわゆる、どこの中学校にもいるような、ごく普通の中学生だった。少なくとも、そのときの私にはそう見えていた。

 私の何が気に入ったのか、飛鳥は入学式の日に私に話しかけてくれた。

 飛鳥にとってはただ左隣の席が私だったということだけだったのかもしれないけど、入学式の日、飛鳥が私に「私、鈴木飛鳥。よろしくね」と話しかけてくれた後に、私たちは少しずつ会話を始めた。始めはぎこちないものだったけど、飛鳥は自分のことを話し、私も私自身のことを話した、のだと思う。今になってみると、そのときの私たちがどのような会話をしたのか覚えていない。きっと、自分が通っていた小学校のことや、まだ一日しか通学していなかったK中学のことや1年3組のことなど、他愛もないことを話していたのだと思う。

 会話の最後に飛鳥は、「ねえ、私たち、友だちにならない?」と言った。

 私は驚いて「え?」と聞き返した。

 私が今まで過ごしてきた小学校のクラスでは、初対面の子にそのようなことを言う子は一人もいなかった。だから、あまりにも直接的に「友だちにならない?」と言ってきた飛鳥に、単純に驚いたのだ。

 だけど私はそのすぐ後には、「うん」と答えていた。

 人見知りの性格で、中学で新しい友だちがうまく作れるかどうか不安を抱いていた私にとっては、願ってもない申し出だった。「友だちにならない?」と差し伸べられた飛鳥の手に、私は無条件に飛びついていた。

 人間は誰もが色々な顔を持っている。

 もちろん私も同じだ。家での私と、学校での私は全く別の顔をしている。家の中でも、居間にいる私と、自分の部屋にいる私も別の顔をしていた。それは飛鳥にとっても同じだったのだと思う。だけどその時の私は、飛鳥の本当の顔を知らなかったし、知ろうともしなかった。ただ、「中学で友だちができた」ということを純粋に喜んでいた。それくらい、その時の私は単純だったし、別の言い方をすれば幼かった。


 私と鈴木飛鳥。

 しばらくして、この二人に細川真由美が加わった。

 真由美は飛鳥とは違って、クラスでも地味で目立たない子だった。

 入学式から数週間が経ち、クラスでも大まかな仲良しブループができつつある中で、真由美はうまくそれらのグループに入ることができなくて教室の隅からそれらのグループの子たちを恨めしそうな眼で見ていた。私は飛鳥という「友だち」ができて、真由美と同じような立場に立たずに済んだことを心の底からをほっとしながらも、真由美のことをどこか下に見ていたのかもしれない。

 そんな中で、突然、私と飛鳥のグループに真由美が加わった。飛鳥が真由美に話しかけ、私の時と同じように「友だち」になったのだ。

 なぜ飛鳥が真由美を、私たちのグループに入れようとしたのかは分からなかったけど、私は飛鳥に逆らうことはできなかった。逆らうことなんて考えもしなかった。逆に、飛鳥に今まで以上に気に入られたかったから、飛鳥よりも積極的に真由美に話しかけ、飛鳥よりも積極的に真由美と「友だち」になろうとすらしていた。そんな私の様子を飛鳥はどこか満足気に見ていた。

 ほどなくして私たち三人は、1年3組の中の仲良しグループの一つになっていた。何をするにしても三人で行動した。体育の授業で体育館に行くときも、昼食を食べるために食堂に行くときも、もちろん学校から帰るときも全て三人だった。特に飛鳥が、三人でいることに執着していた。

 私は心のどこかでは飛鳥との関係を重荷に感じることもあったけど、そんなことは言えるわけがなかった。


 K中学では一年から二年に進級しても、クラス替えが行われることはなかった。

 K中学に入学して一年が経ち、私と飛鳥と真由美は1年3組から、ともに2年3組に進級した。それでも私たち三人の関係は変わらなかった。二年になっても、一年の時と同じように何をするにしても三人で行動していた。

 私はそのような日々が続くものだと思っていた。そのまま三年になり、そして高校に進学する。高校でも私たちは三人で、三人で大学受験のための勉強をし、三人で大学に進学していく。そのような平凡な未来を想像していた。私がイメージしていた高校生活とは少し違ったけど、それでも構わないと思っていた。

 だけど、あの日、私が想像していた未来はあまりにも突然に終わりを告げた。

 私は「あの日」のことを今でもはっきりと覚えている。忘れてしまいたいと何度も願ったけど、神様はその願いを叶えてはくれなかった。その記憶は今でも私の頭の中に住みつき、私を苛み続けていた。


 あの日、私は、悪魔は「普通」という仮面を被っているのだということを初めて知った。そして「普通」という仮面を被りながら、私たちのすぐそばで息を潜めて獲物を狙っているのだということを初めて知った。」


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