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いつか、どこかで君と出会った  作者: 鷺岡 拳太郎
第16章

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第64話

 

「5月7日 水曜日


 今日は久しぶりに会社に出社した。

 久しぶりと言っても土日を入れて四日間しか休んでいない。ただ、最近はそこまで長い休みは取っていなかったから、その四日間はひどく長く感じる。

 会社に出社して利奈とひとしきりゴールデンウィークの話をした。利奈はゴールデンウィークの前に有休を三日も取得していて、ゴールデンウィークとつなげて一週間の長期休暇にしていた。その一週間の休暇で海外旅行に行ったのだと言う。女友達と三人でインドネシアのバリ島に行ったのだと、少し日焼けした顔で私に語った。ヨガリトリート、スパ、海辺のカフェ巡りと満喫したらしい。

 私が『私はゴールデンウィークはどこにも行かなかったかな。だって、どこに行っても混んでいるから、疲れるだけだと思って』と利奈に話すと、利奈は少し気まずそうな表情をして『そうですよね。空港なんて本当に混んでいて、大変でした』と私に話した。だけど、その口調は旅行に行ったことを微塵も後悔していなかった。

 簡単な世間話もすぐに終わり、私はさっそく仕事にとりかかる。ゴールデンウィーク前に二日間有休を取得したので、その分の仕事は目の前に大量に積み上がっている。利奈は海外旅行に行くために有休を取得し、私はメンタルヘルス科を受診するために有給を取得した。その差はどこから来るのだろう。そんなことを考えもしたが、考えても答えなんてあるわけがない。私は自分に『目の前の仕事に集中しろ』と心の中で言い聞かせる。

 ミューズの広告案については先日、野村ゆかりにOKをもらったが、それはスタート地点に過ぎない。今後は実際に広告を世の中に出していくために色々な仕事が待っている。広告の方向性は決まったが、それを実際のプロダクトに落とし込んでいく必要がある。社内のデザイナー、コピーライター、映像ディレクターなどと連携を取って仕事を進めていかなければならないのだ。

 今日は、そのためのやりとりに忙殺されていた。

 結局家に帰ったのは、いつものように午後十時半を回っていた。

 このような日々はいつまで続くのだろうか。

 このような日々の先には、何が待っているのだろうか。

 深夜、一人だけの部屋で夕食を食べているとひどく不安になる。そのような不安も、記憶障害の原因の一因になっているのかもしれない。


 先日、見知らぬ街を歩いているときに頭の中に蘇った、中学生の頃の私の姿。

 その時のイメージがひどく気になっている。

 中学生の頃の自分の姿。

 思い出せそうで思い出せない。

 中学生の頃の私に、何があったのだろうか」



「5月8日 木曜日


 昨夜はうまく寝られなかった。

 午前0時前にはベッドに入ったが、眠りはなかなかやってきてくれなかった。その代わり、日中の仕事のこと、そして最近自分の身に起こっている不思議な出来事のことをとりとめもなく考えてしまう。午前3時を回ったところでようやくうとうとし始めたが、スマホの目覚まし用のアラームが午前6時に鳴ったときには「もう朝なんだ……」という絶望的な思いと、「やっと朝になってくれた」というどこか救われた思いが自分の頭の中でぐるぐると回っていた。何とかベッドから起き出し、いつものように会社に行く。日中の仕事は、寝不足の頭を引きずるようにして何とかこなすことができた。

 やはり仕事の忙しさに、自分でも気づかないうちに心は悲鳴を上げているのだろうか。


 先日、K中央病院のメンタルヘルス科を受診した際に、医師から『仕事が忙しい時はうまく眠れなくなるとおっしゃっていたので、念の為、睡眠導入剤を出しておきます。毎日飲む必要はないですが、眠れないという日が続いたときに飲んでください』という言葉と一緒に、数日分の睡眠導入剤を処方してもらった。

 これ以上眠れないと、本当に仕事に支障をきたしてしまう。

 今夜はとりあえず、一錠、飲んでみよう。




 あなたは誰ですか?

 なぜ、私の夢に出てくるのですか?」



挿絵(By みてみん)


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