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アーティフィシャル・マジカルガール  作者: 桜井つみれ
二章 グリッチの支配者編
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第21話 笑う魔女、黒幕のお出まし

 突如、空から降ってきたガラスに私達は背筋を凍らせた。

 もしも、あのまま英雄が助けてくれなかったら――と、考えたくもない思考がよぎる。

「なんなの、これ」

 ひびき先輩はゆっくり立ち上がると、ガラスに指先から触れてみる。

 すると、ノイズ音と共にひびき先輩の顔が歪む。

「ひびき先輩っ!」

 私は思わずひびき先輩に駆け寄ると、思わず息をのんだ。

 ガラスに触れたひびき先輩の手は微かに痙攣していて、ノイズが走っている。

 まるでコンピューターがバグを起こしたように、0と1で構成された手が崩壊していた。

「なにこれ、取れないんだけど!」

 ひびき先輩は手に着いた汚れを拭うように手を擦るが、そのノイズは収まることがなかった。

「ちょっと、アンタ!これどういうことよ!」

 怒声まじりに響くひびき先輩の声。それが飛び掛かったのは英雄の方であった。

 しかし、この空間を作り出した張本人であるはずの英雄も、動揺の色を見せていた。

「知らねぇよ、アタシにもなにが起こってんのか……」

 次の刹那、耳を劈くようなサイレン音に心をザワめかせるだろう。

 ステッキから発される甲高い不協和音は法螺貝と同じ、戦いの合図だった。

 グリッチ漂うこの空間に高さ3m程の、異形の影が機械音を鳴らしながら現れた。

 そう、フェアリーズだ――。

 でもなぜ?ここはグリッチ世界、英雄が魔法で作り出した空間のはず。

 現実世界以外でフェアリーズが来たことなんて……。


「いやぁ、このままじゃ味気ないかと思ってさ。少しだけスパイスを加えさせてもらったよ」


 どこからか聞き覚えのある声が聞こえる。

 声の方へ振り向くとそこには魔女の帽子を被った少女が立っていた。

「……何の用よ性悪女」

「ひどいなぁ、僕にはちゃんと天道あさひと言う名前があるというのに」

 あさひと名乗る子供を鋭い目つきで睨みつけるひびき先輩。

 しかし、あさひは悪びれる様子もなく社交的な笑みを浮かべていた。

 フェアリーズと並んで歩くその姿は猛獣使いさながらで、ここの誰もが彼女をこう感じただろう。

『異質』と――。

「……っ」

 冷や汗を頬が伝い、息を吞む英雄。

 彼女の瞳孔はあさひの姿をとらえると、歪んだ様に震わせていた。

 呼吸が浅くなっていく彼女に私は思わず駆け寄る。肩に手を置くと、瞳孔だけではなく全身が震えているのが分かった。

「おや、おやおや。久しいね、狼谷こころ」

 黄金の瞳は英雄を見据える。

 どこか冷ややかな空気はただでさえ漂う緊張感をさらに増強させていた。

 そうだ、思い出した。この子はたしか、麦わら帽子の……。

 でも、どうして魔法少女が作った空間内に入れているの?

「なんでお前がここにいるんだよ、『魔女』」

「ふふ、親愛なる魔法少女様にそう呼んでもらえるなんて喜ばしいね。僕らにとって、魔女と呼ばれることはとても名誉なことなのだから」

 その言葉に、私とひびき先輩は耳を疑っただろう。

 魔女――。昔から伝記や歴史的な文書には忌むべき存在として烙印を押されている存在。

 そのはずなのに、あさひの声色からは誇りすら滲んでいた。

 彼女は敵なのだろうか?それとも、味方なのだろうか?

「アンタ、こいつのこと知ってるの?」

 ひびき先輩は問う。

「……コイツは『魔女』アタシ達を"魔法少女"にし、フェアリーズを生み出した存在だ」

 彼女の言葉に息を呑む。

 魔法少女を作り、フェアリーズを生み出した存在。

 この街に起こるフェアリーズによる破壊活動は全て彼女の手の内だった?

「ふふ、黒幕の登場……ってね。そう、僕はこの物語の創造者であり必要悪さ。」

 両腕を広げながら高らかに言い放つあさひ。

 開いた瞳孔はギロリとこちらを見下ろすと、不気味に下まぶたを持ち上げていた。

 その目は、私の背筋を冷やすのには十分なものであった。

「は?ちょっと、あーしこいつのこと殴っていい?」

 冗談めいた様に言葉を放つひびき先輩。

 だが、手に握られたステッキは今にも飛び掛かりそうな獣のように構えられていた。

「やめとけ、腕が木端微塵になるぞ。比喩なしで」

「こっわ……」

 あさひはその会話を聞いてか、小さく鼻で笑い声をあげた。

「流石は僕の作り出した魔法少女!ガッツも勇気も百点満点!……って、褒めてあげたいところだけど」

 あさひの笑みは一瞬にして崩れ、口角は下がり、どこか冷ややかな視線を向けていた。

「正直、今の君たちでは僕に勝つことはないね。なぜなら、僕が」

 あさひは握っていた長い杖をくるくると回転させる。

 数回転したその杖は最終的に、私達の方へ向けられた。

挿絵(By みてみん)

「この世界では上位の魔女『創造の魔女』なのだから」

 不敵に笑う彼女の瞳はギラギラと黄金に輝いていて、思わず目をそむけたくなってしまった。

 黄金が輝いているはずなのに、なんだか気持ち悪い。鮮やかな色のはずなのに濁っているように見える。

「ぅ……」

 この目に当てられていると、動けなくなる。体全体が、無数の手に絡まれているみたいだ。

 目を逸らそうにも逸らせない。

「気色悪い目しやがって」

 英雄は舌打ちをすると憎悪をむき出しにし、あさひを睨みつけていた。

「ちょ、二人共大丈夫なの!?なんか見えてんの?」

 ひびき先輩は私達の様子に、動揺の表情を向けていた。

 ひびき先輩には何も見えていないの?

「まぁ、要するに……僕と君たちが戦っても君たちが負けるだけなんだよ。でも、それだと面白くないじゃん?物語もドラマも生まれない……だからね」

 あさひは「じゃーん、」とセルフ効果音を出すと、左手が隣に連れていた異形を指した。

「君たちにはこの子と戯れてもらうよ」

 まるで自信作を見せびらかす子供のような無邪気な声色であさひは言い放つ。

 異形はいやにリアルな金髪と大きな水色のスカートを靡かせ、華麗にターンをすると丁寧にお辞儀をした。

「あのさぁ、あーしはアンタとも用があるんだけど」

 ひびき先輩は恐れを知らず、ズカズカとあさひの方へ近寄っていく。かなり立腹のようだ。

 あさひは大きくため息をつきながらひびき先輩に答える。

「だから僕は言ったじゃないか、君たちが負けることを望んでいないから今回はこの子の相手をって――」

「そういう事じゃないのよ」

 割り込み響き渡るひびき先輩の怒声。その声に驚いたのかあさひは微かに肩を跳ねさせていた。

 ひびき先輩は続ける。

「アンタには感謝もしているわよ。でも、それ以上に破壊の限りを尽くすフェアリーズを魔使市に放ち続けた事が赦せない。あーしの生まれ育った大好きな町なのに……」

 心の底から溢れ出す感情をありったけ吐き散らすひびき先輩。

 私と英雄はそれに圧倒されてしまい、なにも言えなくなっていた。

 それは、あさひもきっと同じだっただろう。だが、彼女は再度口を開く。

「そうだね、生まれ育った町が第三者に荒らされること程、怒りを表したくなるものはないさ」

 あさひはどこか遠い目をしながらそう呟く。あさひからはどこか哀愁が漂っていた。

 しかし、次の瞬間。悲観的であった表情が一瞬にして狂気に染まる。

「君がもし、僕をどうしても倒したいのならば……僕に近づいてみせなよ」

 三日月のように上がった口は速い速度で開閉を繰り返していた。

「そんなに僕が憎らしければ、赦せないのならば、僕にたどり着くことだね。たどり着いて、僕という悪を打ち負かせば再び平和が訪れることを約束しよう。それが君たちの英雄譚であり物語なのだから。」

 狂っている。

 まだ幼いはずの彼女は子供らしからぬ発言の数々を連ねる。

 正気の沙汰ではなかった。

「さぁ魔法少女達よ、僕の為に踊っておくれ。その命の灯火が物語になるのだから。」

 子供特有の甲高い笑い声が響くと共に、フェアリーズは踊るように私達へと襲い掛かる。

 関節の球体発せられる高音は私達の不安を煽るのだった。

「面倒事ばっか増やしやがって……」

 悪態をつきながらも手には大きなハンマーを握りしめる英雄。

 私もひびき先輩も武器を構え、これから始まる戦闘に備える。

 それをあさひは笑って見ていた。

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