遠い日の思い出
今は大型連休中
ずっと続いてた大雨が止み久しぶりに晴れた朝だった
しかし孝弘はインフルエンザにかかってしまい苦しんでいた
『このままじゃ体が保たない』
そんな孝弘からの連絡に何を大袈裟な大丈夫だからしっかり寝てなさい。そう簡単にあしらう奈緒がいた
連休だから会いに帰国したら、インフルエンザだから会えないとキッパリ断られた私の事も少しは考えろって。『ねぇーみんなそう思わない?』
今年のクラス会は孝弘抜きでもいつも通り盛り上がりを見せていた
その中1人正幸は考え事をしていた
『どうしたの正幸?孝弘を逮捕するか考えてるの?』
無理だよね。
『だな。お前なら今すぐにでも逮捕出来るけどな』
奈緒の顔は若干ひきつったように見えたが笑ってごまかす
なぁ、覚えているか?昔孝弘が迷子になった思い出を
正幸は奈緒にそう話した
奈緒も覚えていた。
『だから、人混み恐怖症なんだよねあいつ』
家族で正月神社にお参りに行って、人が多くてまともに歩けなかった。その中繋いでいた手を離してしまい迷子。
『待って待って』と叫んでも声が届かず離れて行く一方だった
確か周りの人にも相手にされなかったんだよね
それが夢にも出て来てトラウマ
『でも、正幸!あいつのすごいのは駐車場に戻って親の車の横で座って待ってたんだよ』
正幸もそれは聞いてはいたが少し疑問もあった
この話しは家族に聞いても、『そうだっけ?忘れちゃったね』って回答だったことと、家族が覚えているのは帰宅後孝弘はかなりの熱があった事だ
家族はショック熱と笑っていたが
今度孝弘が元気になったらもう一度、『過去の栄光を聞いてあげよう』そう言って奈緒は少し孝弘をいじりながら場を盛り上げていた
しかし
『これは、コロナの時よりしんどいぞ』
孝弘は重症化するインフルエンザと戦っていた
激しい頭痛と咳が重なり尚且つ、体中の水分ができってしまい動く事もできなかった
そして
『ん?あれ?』
目を覚ましたら不思議と体は軽い
それどころか見覚えはあるが外にいる
『死んだか?』
この風景は正月にお参りに行く道だった
その瞬間孝弘の周囲をたくさんの人が通り過ぎていく。しかし全ての人に意思は無く抜け殻のように皆同じ方向に向かって歩いていた
気が着くの遅かったのか?歩いているのは周囲の人だけじゃなく自分自身も歩んでいた
その時孝弘は『ふぅ〜』溜め息を漏らすが仕方ない気持ちにもなっていた
しばらくすると
神社が見えてくる。両脇は露店で賑わっているはずだが、立ち寄る客は居ない。皆歩みを停めずただ歩くのみだった
『キョロキョロするな。真っ直ぐ歩け!』おそらく地獄への道案内だろう。
そんな時ふと看板に目が止まった
『自分と話し合う事は禁じる。何も考えず進め』
『代償を払えば帰れる道がある』
代償か。これからの人生良い事あるかわからない。そう考えると代償も少なくって済むのでは。そうすら考えていた
『行かない!頭痛いの!』
なんだ?
孝弘は振り返ってその声を確認した
『嘘だろ?』
あの時の自分がいた。しかしあの時とは違う。明らかに親や兄弟に引っ張られる姿では無かった。
背丈は親、兄弟と同じだが、周囲に黒いもやもやを纏い人を地獄に連れて行こうと考えている者だと認識出来る。そんな姿の者に幼き孝弘は連れられていた
『くそが。あの時か!』
孝弘は振り返って走り出す。
前進以外に進む事が出来た
大人になったいまなら周囲の障害を退けながら進む事が出来る
そして
孝弘は幼い自分自身を引き離し、抱きしめ、来た道を戻って行く
『待って!待って!』
少年の目には遠ざる家族と自分の届かない声だけが強くこれからも残ると孝弘は知っている
来た道を戻り駐車場にたどり着いた
そこには孝弘の車が停めてあった
『車で来たんだっけ?』
おそらく違うだろう。この世界に紛れ込んでしまったと言う認識でいたからだ
でも孝弘は探す。
『どこだ?赤い車、Zだ』
親父は車好きで後先考えない。親父はなんとかなると買ってしまい後々借金だけが残ったと言う俺の幼き思い出は忘れない
この車でどれだけ母親が苦しんでいたか忘れない。
でも『赤いカエル』当時そんな見た目をもった車を今でも覚えていた
目印には申し分ない
『あった!』
孝弘はそこに座り込み幼い自分自身に伝える
『どんな誘惑されてもここを離れちゃいけない』
そうあの時孝弘が生きて帰れたのはここで待ち続けたからだ
あの時孝弘は高熱を出していた。きっとインフルエンザだったのだろう。現在の孝弘と同じで
当時はインフルエンザの特効薬も無く熱冷ましと風邪薬を飲んでいたと思う
当日も激しい頭痛に見舞われ、動くのが嫌だった記憶が蘇ってくる
『どうしたの?お母さんとお父さんとはぐれたの?一緒に行こう』
優しそうな人が幼き自分自身に手を差し出す
その度に孝弘は『きっとお母さん、お父さん、兄貴はここに来るから。離れちゃダメだ』
幼き自分自身にそう話し掛ける
幼き孝弘は頭痛のせいか下を向いたまま差し出す人の顔を見ることはなかった
でも『きっと家族は来てくれる』そんな言葉に『わかった』と答えてくれた
そしてどれくらい時間が流れ、どれくらいの誘いを断ったかわからない
どんな甘い誘惑、怖い言葉に対しても消して耳を傾ける事は無かった
でも
『孝弘!』聞き覚えのある声だ母親が迷子の孝弘を抱きしめて再会を喜んでいた
孝弘もほっとしその光景を見ている
そうだこうやって俺は再会出来たんだから
でも、『迷子になるって事は人生の最後に向かってるんだからね。迷子は怖いんだからね』
『このおじさんはもう帰れないんだよ。間違えた判断しちゃうと戻れなくなるんだよ』
家族がそう言うと孝弘の足は再び神社へと歩み始めた
『おいおいなんだ言う事効かない』
足が勝手に動きだす
そしてルールを確認するかのように視界に看板が入ってきた
『自分と話し合う事は禁じる。何も考えず進め』
孝弘は幼き自分自身と話していた
『待って!待って!』幼き孝弘は俺に向けて今度その言葉を投げている
しかし孝弘の足が再び振り返ることはなく歩み続け、幼き自分自身は親の手から離れる事は無かった
『今のまま治らなくてもいい。◯◯もいらない!』
なんか叫んでる。孝弘は幼き自分自身に別れを告げるように姿を消して行った
そして
『代償か?』あの時どんな代償を提供したかはわからない。でも孝弘はあの時、幼き自分自身と同じ場所にいた
そして、あの時車に連れて行ったのは自分自身だったことを知る
そして、この記憶は家族の知らない記憶だったことも今は理解していた
気がかりなのは何を代償にしたかだ?
正直人生上手くいかないことばかりで何を失ったのかわからない
ただ孝弘は窮屈な世界だけどまた同じ空の下を今日も過ごしていた
曇空なんだけど所々晴れ間が見える
『好きなんだよねこの空色』
みんな元気かな。きっと俺の事忘れて楽しんでるはずだ




