三話 首都モルダス
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ほぼ、新作的な勢いで加筆中です。
太陽がゆっくりと大地へ沈むころ首都モルダスへ到着した。
初めて見る立派な門。その前に並ぶ馬車と待機時間で軽く食べられるものを売っている屋台に驚いた。
屋台もしっかり商品が見えるように魔石ランプなどを使って照らしているので、正門付近はかなり明るい。
「す、すごい……私、はじめてみた。お店が出ているんですね」
「そうみたい。アタシ──じゃなくて、私も初めて実際に見たよ。聞いた話だと朝・昼・夕で出店自体が入れ替わるんだって。そういうのも面白いよね」
へぇ、と物珍し気に外の様子を見ている私たちを見ていた同乗者の一人が小さく笑う。
母親くらいの年齢で大きなトランクを二つ、リュック型の荷物を一つ持って乗り込んできた人だ。
「これは観光客へのサービスと飲食店の宣伝のために国が制度を作ったんだよ。基本的には軽食の類だけど、特定の曜日には布製品やらアクセサリーやらの店も外で露店を開けるのさ」
この一言で周囲の人も色々と教えてくれた。
「流石トライグルの国王様だよなぁ。俺の娘もせっせと小物やらなんやら作ってるぜ。かーちゃんもレース編みして稼いでくれるしな。月に一度の門前開放日は、出店料もとらない上に、外にいても魔物やモンスターが近づかないように冒険者や騎士が守ってくれるから人が良く集まるんだ」
「値段もピンキリ。素人がつけるから腕以上に高かったり、逆に安かったり色々で面白いんだ。おすすめは細工師や布関係だね」
「それもいいが、やっぱ飯だろ。流石に飯は衛生チェックが定期的に入るけどな。他国じゃこういう風に材料や調理環境をチェックするのは珍しいぜ」
ワイワイと今まで黙っていた人たちが明るい顔で話し始めた。
どうやら、薬の効果が切れたことと騎士による検問まで時間を持て余しているらしい。
私やマリーローズが初めての首都だと知るといろいろ詳しく教えてくれた。
「もし道に迷うのが心配なら数人いる騎士に声をかけてみるといい。道案内もしてくれるし、騎士と居れば軽犯罪に巻き込まれることもないさ。ま、トライグルは他国に比べてかなり治安がいいし、スリも少ないが」
「だねぇ。もしよけりゃ、今のうちに確認してみるのがいいよ。明日試験なんだろう?」
頑張んな、なんて同乗している人から応援してもらえて、不安が少し溶けていく。
和やかに検問所で騎士に手荷物や身分の確認をしてもらい、いよいよ街の中へ。
正門を抜けるとそこは今まで見たことのない景色が広がっていた。
都会というより幻想的な光景が広がっていた。
行きかう人々も建物も道も、魔石灯に照らされてまるで地上に星明りが落ちてきたみたい。それなのに、鼻をくすぐるのは美味しそうな食べ物の香り。
人のざわめきも、遠くに聞こえる馬車の走行音も初めてばかりで、感嘆の声が漏れた。
「す、すごい……都会ってこんなにキレイなんですね。星が落ちてきたみたい」
「わかる。田舎じゃこんな景色ないよ。人もたくさんいるし、おいしそうな匂いもするし」
そうだよね、と頷きつつ正門から離れる。
正門横に数グループ騎士が集まって話をしているのが見えたからだ。
私もローズも手荷物は多くない。
ただ、両手でトランクを持っているのを見て話しこんでいた騎士の数名が気付いてこちらへ視線を向ける。
「おや、こんばんは。お嬢さんたち、何か困りごとかな」
ニコッと笑ってこちらへ一歩足を踏み出したのは、三十代らしい男性だった。
茶色の瞳が好奇心でキラキラしていて、口調も優しい。
もっと威圧的な感じだと勝手に思っていたので肩の力がいい意味で抜けていく。
「あの、明日私たちレジルラヴィナー学院の入学試験なんです。でも首都に来たのが初めてで……道案内お願いしてもいいでしょうか」
「試験に遅刻しないようにしておきたいんです。時間があったらで構いません」
ローズに続いて、私も慌ててお願いをし頭を下げると騎士さんたちは驚いたり感心したりと好意的な反応を返してくれた。
「なるほど、道案内か。丁度あちらの方面の見回りもあるし、私たちでよければ案内させてもらおう。一応、治安がいいと言われてはいるが暗がりはやはり危ないからね」
ありがとうございます、と返事をすると彼らは嬉しそうに笑ってこっちだ、と正門からすぐの道へ足を向ける。
大通りに背を向ける形で歩いていくと、灯りは少しずつ落ち着いてくる。
必要最低限、足元が照らされているだけでも十分だと思うのだけれど、騎士から見るとそうではないようだ。
「犯罪防止のためにはもう少し明るい方がいいのだけれど、この辺りは宿屋街。その奥は住宅街だからね……静かな夜を過ごしてもらうためにギリギリの明るさでどうにか手を打っている。その代わりこの辺りの見回りは頻回かつ不定期にしている」
「あの、騎士の仕事って魔物や盗賊退治だけじゃないんですね……私、教会暮らしだったのであまり皆さんの仕事を知らなくて」
「ははは。確かに、新人たちの何人かにはよく言われるよ。英雄志向が強い若いのも多い。でも、騎士の本質は『守護』だ。王や国、そして国民を守る為にいる。王は『国は民。国を亡ぼすも栄えさせるも民次第』だとおっしゃっている。だから、私たち騎士は国と王、そして国民のために働くんだ」
胸を張って誇らしげに話す騎士に感銘を受けた様に何度もうなずいているのはローズだ。
彼女が騎士を志した根本には『護りたい』という強い想いがある。
「お二人とも騎士科受験かな?」
「私は騎士科、こっちのポットは錬金科の受験です」
「騎士科は君か。なるほど、足取りも基礎的なことはできているようだし、一歩先を歩くのは無意識だね。警戒心も申し分ない。向いていると思うよ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。英雄に憧れるのは悪くないが職務上、大事なのは『護りたい』という強い意志だ。犯罪者以外は護る、それが騎士だと私達が所属する部隊では『常識』だ。君が合格し、無事卒業したら是非私たちの隊へ配属されることを願うよ」
歓迎しよう、と朗らかに笑う騎士にローズがパッと敬礼をした。
やる気は十分、という感じで明日は絶対に受かって見せるという決意がにじみ出ている。
その姿を眺めていると私もやる気が湧いてきて、密かに頑張ろうと決意を固めていると話をしていた騎士が私へ視線を向ける。
「君は錬金科を受験する、んだったかな。実は騎士の間で『本当に庶民出身の錬金術師が誕生するかもしれない』と盛り上がっていてね」
「本当に、って今までいなかったんですか……?」
「いたかもしれないが、私たちみたいな騎士まで恩恵はなくてね。資格取得後に貴族の養子になったという話もよく聞くんだ」
個人の自由だから口ははさめないが、と騎士は苦笑する。
その笑顔は、まるでシスターたちが修繕費や想定外の出費が必要になった時、子供に向けるモノに似ている。
私だけじゃなく、隣にいたローズも察したらしい。
「もしかして、錬金術ってあまり一般的じゃないんですか?」
「……錬金薬が便利で有用であることは認識していますが、普及となると」
言葉を濁した騎士の代わりに、今まで黙って歩いていた比較的若い騎士が頷きながら教えてくれた。
「錬金薬だけじゃなく錬金術で作られたものは高いんだ。俺たちは一般的に『高給取り』って扱いされるけどさ、それでも武器や防具の維持費なんかで結構かかるし、錬金薬は共同で金を出し合ってお守り代わりに持っておくって感じかな。金のある部隊は、部隊備蓄で備えてるらしいけど、隊長なんかが貴族で身内に錬金術師がいる場合って注釈がつくよ」
「そう、なんですね」
思わず同意した私に騎士たちはうんうんと首を縦に振って錬金薬を買うための苦労や工夫を話してくれた。それを聞きながら、暗い住宅街の坂を上る。
目の前に現れたのは荘厳な佇まいの建物だった。
大きさはかなりのもので、先というより全容が分からないほどに広い。
左右に伸びた石塀は高く長い。
「っと、ごめん。ここが『トライグル国立レジルラヴィナー学院』です。こちらは正門になり、錬金科の受験時はこちらの入り口を使います」
「え、もしかして騎士科と召喚科は別なんですか?」
「召喚科については詳しく知らないのですが、騎士科は受験者が多いので数日に分けて一般入試が行われます。スカウトされる人間はかなり少ないですしね」
「スカウト……聞いたことがあるかも。珍しい才能とか優遇される才能持ちがたまに入学前に声をかけられるんでしたっけ?」
ローズの質問に彼らが頷く。
「ええ。ただそういう者は貴族が多いですね。庶民もいますが、庶民の場合はプレッシャーで潰されることも多く冒険者に転向することも多々あります」
そうなんだ、と感心している私たちを騎士たちは騎士科受験生や騎士科に通うことになったらよく使うという別の門へ案内してくれた。
無事二人で確認をして、再び正門へ。
正門前から学院までのおおよその移動時間も聞かせて貰って、お互い安心したところで騎士の皆さんは仕事へ。
「折角だし、ご飯食べない? 初日だし、どうかな」
「う、うん。でも首都って高いんじゃ」
「……値段、見てから決めようか。私もそんなに懐が暖かい訳じゃないし」
「だね」
くすくすと顔を見合わせて笑ったところで、ローズと正門前の道を進むことに。
歩きながら時々話を聞いて『夜鳥の止まり木』という店で食事をすることにした。
暖かい雰囲気のその場所は、どうやら夜だけ営業しているらしく女店主さんが作る野菜たっぷりのメニューが人気なのだとか。
女性客が多いことにもホッとして、偶然空いていた窓際の席へ。
メニューを開くと『夜の満腹セット』という魅力的な文字が飛び込んできた。
「わ。銅貨五枚だって。どうしよう、これにしようかな」
「いいね、私もそうしようかな。あ、でもさ折角だから明日の朝用にお土産付きってのにしない? 銅貨七枚だけど、買って帰れば朝バタバタ朝食取らなくていいし」
銅貨七枚は少し高いと思ったけれど、朝食分が銅貨二枚と考えると安い。二食分と考えたらかなりお得だ。
「受験当日の朝は少し余裕をもっておきたいよね。ご飯探しているうちに時間ギリギリとか嫌だし」
「ほんっとそれ! アタシもうっかりが多いからさ。銅貨五枚で煮込みとサラダ、あとパンが二つ……お土産付きだとジャムパンと焼き菓子がつくみたいだしさ。良いよね、朝から甘いものとか」
「朝から甘いものなんて教会じゃ食べられなかったし、ち、ちょっと奮発しちゃおうかな」
「そうしよ、そうしよ! あと、そのさ……もしよかったら一緒の部屋に泊まらない? 私たち二人なら一つのベッドで大丈夫だし、聞いてみようかなって」
「え! い、いいの?」
「もちろん。一緒にいた時間は短いけど、なんかずーっと友達だったみたいな感じがするんだよね。不思議なんだけど」
「私も、ローズとはずっと昔から仲が良かったみたいな感じがするの。もちろん、初めての友達なんだけど」
「初めてって、教会ならシスターとかいたでしょ?」
「い、いたけど! シスターと友達は違うし。同年代は男の子だったもん」
「なぁんだ。それならアタシも一緒。女の子はいたけどさ、何でも気軽に話せる子ってあんまりいなくて……すごく楽。宿の人に聞いてみよ!」
すいませーん、と大きな声とともに右手を上げたローズはすごいと思う。
人に好かれる、というか人を引き付ける力があるのが分かるから。
注文を聞きに来てくれたお姉さんは、ココの娘さんらしい。
「ってことは、未来の騎士様と錬金術師様になるかもしれないってことね? うち、ちょっぴりそういう子にはサービスしてるの。代金はそれぞれ銅貨一枚割引してあげる」
内緒ね、なんて笑うお姉さんにお礼を言ってその場で代金を払う。
厨房でも、そして周りにいた人たちも私たちの話を聞いていたらしい。
話しかけられたり、応援されたり、いろんな話を聞けて、店内も一気ににぎやかに。
「今年は受験生が多いみたいだけど、実際どうなんだろうね。錬金科って」
「私たちはカルミス帝国からきてるから詳しく知らないけど、難しいんでしょ? 国家資格はトライグルでしか取れないって聞くし」
「そうよね、私はスピネル王国からきてるけど、錬金術の試験ってかなり難しいって聞くわ」
店内のあらゆるところから聞こえてくる言葉で多かったのは錬金科入学の難しさ。
当事者はいなかったけれど、それでもかなり難しいと他国にも広がっていると聞いて不安が大きくなってきた。
ギュ、と両手を握り締めた所でフワッと優しい香り。
顔を上げると湯気を立てている料理が運ばれてきた。その横には黒パン。
「お待たせ!『ヴァルケロス肉とマトマのブラウンシチュー』とパン、採れたてサラダのセットだよ! 応援ってことでアルミス茶つき! こっちはお土産ね。ジャムの瓶は明日にでも洗って返しに来てくれると鉄貨一枚お返しするよ。焼き菓子はナッツのパウンドケーキ。脂紙に包んであるから、明日の朝まではふかふかだよ」
どうぞ、と置かれたトレイには美味しそうな料理が。
頭から不安も心配も綺麗に飛んで、私はスプーンを手に取っていた。
「いただきます!」
「いただきまーす」
私とローズの声が響く。
ここでは食事のあいさつは色々あるけれど、とある偉大な錬金術師様が広めた「いただきます」という言葉が良く使われる。短いし、言いやすい。
「んー! おいしぃ。お肉やわらかぁい」
「こんな料理、教会で出たことないよ。うう。このお店選んでよかったぁ」
二人でホフホフと熱い湯気を逃しながら、必死に食事を進める。
女の子としてはガッついててはしたない、って思われそうだけれどローズと二人だからいいよね。
ローズも後で「ポットと二人だしいいかとおもった」なんて話していたから、私たちは似た者同士なのかもしれない。
美味しい食事をたっぷり食べて、満腹になった私たちはお店にいたお客さんや店員のお姉さんに優しく背中を押されて一番街と呼ばれる大きな道へ。
相変わらず賑やかで華やかな通りをぼんやり眺めているとローズに手を取られた。
「宿はこっちだよ。えーっと『ベリーの庭木』っていう宿なんだ」
「かわいい名前だね」
「うん。お母さんの知り合いがやってる宿らしくってさ、アタシが受験すること知らせたら『うちにぜひ』って」
たしか、と記憶を辿るように道を歩く。何度か道を間違ったけれど、どうにか宿に到着した。
ベリーの庭木、という宿の名前にふさわしく、建物を守るようにベリーの低い木が塀のように植えられている。花が咲く季節だからか、かわいらしい白い花が無数に見受けられ、口元が緩む。夜といっても、しっかりと宿の入り口には魔石灯がともっていた。
ローズが先頭を進んでドアを開けるとチリリン、と控えめな呼び鈴。
カウンターには女性が一人。
「あら、いらっしゃい。お泊りかしら」
「はい。『コットン・ロスマリン』の娘のマリーローズ・ロスマリンです。こちら、母から送られてきた予約表です」
「あら、コットンちゃんの娘さんね。私はベリーナ・ドレート。この宿の主人をしているわ。ええと、後ろの子は?」
「私の友達で明日錬金科を受験するんですけど、まだ宿が決まってなくて」
「この時期は受験者で宿が埋まっちゃうから……今から見つけるのは大変よ?」
「それで、同じベッドで寝ても大丈夫かなって。もちろん、宿代は払います!」
ローズの言葉にベリーナさんは目を見開いて、そしてふっと柔らかく笑う。
「それなら宿代はいらないわ。もともとコットンちゃんから貰ってるしね。コットンちゃんは腕がいいし、色々割引してくれて助かってるのよ。綺麗に使ってくれればいいわ。あ、でも布団を追加するなら料金がかかるけど……女の子二人ならいらないかしら」
「はい。大丈夫です」
「あ、あの、お湯って……」
「お湯なら洗い場で使ってね。盥一つで銅貨三枚……だけど、サービスして値段そのままで盥二つにしてあげる。明日受験なんでしょ? サッパリしてから行きなさいな。その代わり、合格したら教えて頂戴ね」
パチンッと力強いウインクを貰って私たちはその場で手を取り合い、喜んだ。
長旅ってわけじゃないけど、やっぱり髪や体はしっかり洗いたい。
学院まで遠くないことにも安堵し、私たちは髪や体を二人で洗いあってから、ベッドへ。
「ふふ、ちょっとだけ狭いわね。暖かいけど」
「うん。まるで子供のころみたい」
「私も昔はよく弟に抱き着かれてたから懐かしいかも……あったかいっていいね。まだ夜は少し肌寒いし」
「ローズのお母さんにあったら、おれい、いわなくちゃ」
ふああ、とあくびを一つ。
すぐ隣から同じようにあくびが返ってきて思わず目を見合わせた。
何を言うわけでもなく、くすくす忍び笑いをして目を閉じる。
広がるのは穏やかな闇。
「おやすみ、ローズ」
「おやすみ、ポット」
また明日ね、と口にした気がするけれどちゃんと言葉になっていたかはわからない。
読んで下さってありがとうございます!
ストックというか、一応話自体はあるので頑張って更新したいところ…!!
本編の「アルケミスト・アカデミー」もあわせて読んでいただけるとより面白いかな?なんて思っております。




