魔力ゼロの落ちこぼれ
よろしくお願いします
魔力がない。
ただそれだけで、俺の人生は詰んでいた。
俺、石浜秀馬。十七歳。
ドール操縦科在籍。
なのに魔力出力は、驚異の「ゼロ」。
我ながら笑えない。
「おい、石浜。今日も『置物』の手入れか?」
昼休み。
教室の端で、嫌味な笑いが飛んでくる。
クラスの中心グループ。魔力持ちの「勝ち組」たちだ。
彼らにとって、魔力のない俺は、戦場に生身で放り出された歩兵のようなものらしい。
「……悪いかよ」
絞り出した声は、自分でも情けないほど細かった。
ドールは、魔力を流して初めて動く「意思持つ兵器」だ。
魔力がない俺がここにいるのは、ただの場違い。
「英雄の末裔」という、カビの生えた看板だけが俺をこの場所に縛り付けていた。
⸻
約二〇〇年前。
空から降ってきた“大厄災“。
同時に出現したダンジョンと、そこから溢れ出したモンスター。
人類を救ったのは、人間に宿る「魔力」と、それを動力とする人型兵器「ドール」だった。
現代。ドールは日常だ。
強いドールを操る者が、社会の頂点に立つ。
そして俺は、そのピラミッドの最底辺にすら立てない。
放課後。
「秀馬、納屋の掃除やっといてね。あんた暇でしょ」
姉からの無慈悲なメッセージ。
「……わかってるよ」
俺が住む実家は古い。
かつて「英雄」と呼ばれた先祖、石浜源之助が住んでいたという屋敷。
だが今や、庭は荒れ、英雄の血筋なんて話はクラスの笑い草でしかない。
納屋の扉を開けると、むせ返るような埃の匂いがした。
軍手をして、古い農具をどかしていく。
一時間ほど経ったころ。
床板の一枚が、妙に「重い」ことに気づいた。
「……地下?」
板を持ち上げると、そこには石造りの階段が続いていた。
カビ臭さはない。
代わりに、ひやりとした、肌を刺すような「冷たい空気」が流れてきた。
スマホのライトで照らしながら、奥へ進む。
そこは、儀式場のような広い空間だった。
中央に、白い布を被せられた「何か」が鎮座している。
その隣には、一振りの刀。
「なんだ、これ……」
吸い寄せられるように、布を払った。
「――っ」
息が止まった。
現れたのは、黒髪の少女。
陶器のように白い肌。
機械特有の無機質さと、人間以上の美しさが同居する、異常な存在感。
「ど、ドール……?」
触れてはいけない。
本能がそう告げていた。
だが、俺の指先は、磁石に引かれるように彼女の頬に触れていた。
その瞬間。
地下室の空気が、爆ぜた。
淡い回路模様が少女の肌に浮かび上がり、凄まじい「熱」が俺の指から全身へ駆け抜ける。
重い、圧迫感。
そして――。
少女の瞼が、ゆっくりと持ち上がった。
金色の、静かな瞳。
射抜かれただけで、魂を掴まれたような感覚に陥る。
「……起動。契約者の認証、完了」
鈴の音のような、透き通った声。
「……源之助、様?」
少女は、俺をじっと見つめる。
「いや、俺は……石浜秀馬。源之助の孫、だと思う」
少女の瞳に、わずかな動揺が走った。
「……今は、何年ですか」
「大厄災から、二〇〇年ちょっとだ」
「二〇〇年……」
少女が、ふらりと体勢を崩す。
咄嗟に抱きとめた。
軽い。
そして、温かかった。
ドールのはずなのに、俺よりずっと「生きて」いるような温もり。
「私は、桜花」
彼女は俺の腕の中で、静かに名乗った。
「石浜源之助様と約定を交わした、自律型・戦闘特化ドール。……これより、秀馬様に全てを捧げます」
⸻
地上に出たのは、夕暮れ時だった。
桜花は俺のスマホを見て、「文字が流れる術式……?」と困惑していた。
少し抜けたところがある。
だが、彼女が腰に佩いた刀からは、隠しきれない「死の気配」が漂っていた。
その時だ。
スマホの緊急アラートが鳴り響いた。
【緊急】第7区、ダンジョンブレイク発生。
地響きが聞こえる。
近所の公園から、悲鳴が上がった。
「……マジか、こんな時に」
桜花が、ゆっくりと空を見上げた。
夕焼けに染まる彼女の横顔は、神々しいほどに冷徹だった。
「秀馬。命じてください」
「え……?」
「私がここにいる理由を。あなたが私を目覚めさせた意味を」
桜花が刀の柄に手をかける。
カチリ、と小さな音がした。
それだけで、周囲の空気が凍りついた。
魔力がない俺。
学園の落ちこぼれ。
置物しか持っていなかったはずの俺が、今、人類の至宝を手にしている。
「……行こう、桜花」
「御意」
それは、世界が俺を見つけ直すための、最初の一歩だった。




