第87話 名前的庇護パワー
+・+・+・+・+・+
第87話 名前的庇護パワー
+・+・+・+・+・+
プリママ、【ポリテンクス】のツキオス君、レットン君、アリス君、そして俺の5人は王都に向かうことになった。
プリママは王都本部で退職届を叩きつけると息巻いている。別に叩きつけなくても、普通に退職届を出すだけでいいと思うけど?
ちなみにトルテンさんは既に辞表を出して、プリママが受付処理を終えているため、今では自分の家に引きこもって自由気ままに古代文明の研究をしているそうだ。
トルテンさんがいないと、暴君を抑える人がいないところが悲しい事実だね。
それから、エルさんはトルテンさんの辞任と、プリママの辞任予定の余波を受けて、まだホルトンでギルマス代行の仕事をしている。「なんで俺が……」などとブツブツ言っているのを、職員がよく耳にしているらしい。
さて、【ポリテンクス】の3人は、王都でSランク昇格試験を受ける予定だ。
俺は宰相に呼ばれたからだね。
あと、パックさんも王都に向かっている。同じタイミングでホルトンを出たから、同行しているようなものだ。
パックさんは論文を提出するために王都にいくらしい。
本を読み漁るだけじゃなく、真面目に学者をしていたよ、この人。
俺たちはエアカーで快適な旅をしている。タイヤつきの自動車は、舗装が生き届いていない道では揺れがあるけど、エアカーはすごく乗り心地がいい。
まあ、エアカーの中でも最上級と思われる高級車を俺は手に入れているので、乗り心地は一番いいはずだ。
しかし、こんな完全な状態でよく残っていたものだ。あの地下都市は何かしらの魔法的効果で時間が止まっていたのかもしれないな。そこら辺はパックさんのような学者たちが調べることだが、あの遺跡Bにいけない時点で調べられないんだけどさ。
通常は自動車で5日の道のりを、エアカーは2日で走破した。
王都に入ると、パックさんとは別れ、俺たちはすぐに王都本部に入った。
「アアメンター様!」
ケルビン・オットー本部長が五体投地している。それでいいのか、本部長。
「久しぶりだな、ケルビン」
「は、はいぃぃぃっ」
これはリスペクトしているのか? それとも恐れているのか? そのどちらも、という可能性もあるか。
「今日はこの【ポリテンクス】の3人のSランク昇格と、クライドのSSランク昇格をしてもらいたい」
「はっ! 直ちに、手配いたします!」
今、聞き捨てならない言葉が聞こえたような?
「あの、俺もですか?」
「当たり前だろ、お前は単独でジュブレール大森林に入り、遺跡を発見し、冒険者ギルドに多大なる利益をもたらした。SSSランク昇格でもいいところだ。そうだ、いっそのことSSSランクにするか!」
そんなノリで言わないでくださいよ。SSSランクって世界に何人いるかって人たちでしょ?
「分かりました! クライド君はSSSランクに昇格で!」
「ちょっと、本部長も本気にしないでくださいよ」
「そうだな、ケルビン! それでいこう!」
「はい!」
「おい、あんたたち! 人の話を聞こうよ!」
ノリでやっていいことじゃないだろ!
「師匠、諦めたほうがいいですよ。プリ姉様の目は本気です」
「……アリス君」
アリス君に肩をポンポンされ、ツキオス君とレットン君には可哀想な人を見る目を向けられた。
「俺は宰相に用がありますので、しばらく別行動します」
俺が何を言ってもプリママの意見が通されるのは分かっている。無駄な努力はしないよ……。
「ツキオス君。俺はいくから、何かあったらメッサーラ子爵の屋敷に連絡をくださいね。そこの本部長とは言わないけど、ギルドを通せば伝わると思うから」
「はい、分かりました。師匠」
俺はギルドで部屋を借り、着替えをさせてもらった。
着替えたのは貴族に会うからだ。以前、Sランクに昇格した時に作った服だ。
「……丈が短くなった?」
まだ16歳だからなー。成長してもおかしくはない。むしろ成長するのが普通だな。
身長は178cmくらいか。去年より8cmほど背が高くなっている。
いいものを食べているから、栄養が成長期の体をしっかり育ててくれているようだ。
エアカーでメッサーラ子爵の屋敷の前に乗りつけ、アイテムボックスに収納。以前宰相からもらった金のメダルを門番に見せると、中に通された。
「主人は現在登城しておりますが、そろそろ戻る時間にございます。アアメンター様のことはうかがっておりますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか」
「それならお戻りになりまで待たせていただきます」
「ありがとうございます」
白髪の老執事から、持て成しを受ける。
1時間ほどしただろうか、メッサーラ子爵が帰ってこられたので面会する。
「宰相から呼び出された件ですけど、どういうことですか?」
「今から4カ月ほど前になるかな。ベルデナーグ伯爵とその息子のゴッガイルが不正を行い、闇ギルドと繋がっていることで、捕縛された」
あいつらもついに年貢の納め時か。まあ、その資料をメッサーラ子爵のデスクに置いたのは俺だけどね。
「それと俺になんの関係が?」
「宰相は、君にベルデナーグ伯爵家を継いでほしいとのことだ」
まあ、想像はしていたけど、それは勘弁かな。どうせロクに領地も残ってないし、負債だけ背負わされるのは本当に嫌だ。
何より自由に出歩けなくなる。その点、今の生活は悪くない。プリママという暴君はいるが、そこまで不自由ではない。プリママが俺を養子にしたのは、俺を貴族から守るためだから、悠々自適に暮らせている。
あの人の行動は理解されないが、いい人なんだよ。ちょっと乱暴でガサツなだけなんだ(それが問題とも言う)。
あの人はこの国の貴族にとって、国王よりも上の存在だ。それこそ神の……祟り神かもしれないが、そのくらいの人だ。その人が俺を養子にすれば、普通の貴族なら手を出さない。出したら、貴族や国王の権威や権力など気にせずに潰しにくる。そんな祟り神の名前は、俺の平穏を守るに適しているわけだ。
あの人の優しさは凡人では理解できないもなのだ。俺だって色々と言いたいことはあるが、結局はそこに辿りつくから気にしないようにしている。
それに、あの人は暴君だけど、決して無理なことは言わない。俺たちができることだけ言うのだ。遺跡Aで発見した書物を取り上げられたが、ヤンキーと違って借りパクというわけじゃない。あれは俺も読めるように家に保管されている。
セキュリティ? そんなもの、あの暴君の名前があれば十分だ。仮に盗まれても、犯人は地の果てまで追いかけ回され、その逃亡を助けたり、それを買った人は共犯として処されるだけなのだから。
俺にとっては対貴族のいい壁だよ、あの暴君さんは。
それはともかく、聞いたことはないが、あの人は俺が魔力を操っていることを知っている、そんな目をしているのだ(確信)。
そして今では、アリス君の魔法使いとしての将来性に、目をつけた。プリママは後継者を探していたのかもしれないな。
俺がアリス君に光るものを見たと思ったのは、間違いじゃなかった(そんなこと一言も言ってない)。
このままアリス君にプリママを任せ、俺はアアメンターの名前的庇護パワーを使い、自由を謳歌するのだ(それをなすりつけと言う)。
アリス君はプリママを嫌っていないどころか、姉のように慕っているように見える。頼りない兄のツキオス君より頼りになる(?)プリママを慕うのは理解できないわけじゃない。
おっと、話が逸れたな。
とにかく、俺は貴族になるなんてごめんだ。それについては、激しく拒否をしよう。
「その顔では家を継ぐのは嫌、ということだろうね」
「そもそも、俺とあの家は関係ないですから」
「君の実家のはずだが?」
調べはちゃんとついている、ってか。
「それは1年以上前の話ですね」
「たしかに君の死亡届けが国に提出されているね」
俺は死んだことになっているわけね。まあ、予想の範疇だな。ただ、頭で理解しても、気分はいいものじゃない。5、6発くらい伯爵をぶっ飛ばしてやりたい気分だよ。
「だったら、あの家を継ぐ正当性はないですよね?」
「正当性などいくらでも作れる」
「それを言いますか……」
権力者ってのは、これだから怖いよ。
「正直に言うが、ベルデナーグ家は建国以来の名家だ。国王陛下も宰相閣下もベルデナーグ家を潰したいわけじゃない」
あんなバカな親子でも、血筋だけはいいからな。
「それに、ベルデナーグ家を潰したら家臣や使用人が路頭に迷うことになる。もっとも、それらの者もかなり愚かな者が多かったがね。それでもまともな者がいないわけではない」
王都の屋敷でまともなのは執事のコールギウスと数人の使用人くらいなものだけど、領地のほうにもちゃんとした人はいるかもしれない。そういった人が路頭に迷うのはさすがに気分のいい話ではないが、だからと言って俺が犠牲になるのも話が違う気がする。




