0 〜僕の語り〜
これは、特別でも、特殊でも、特異でもない平凡な僕が、特別で、特殊で、それでいて特別な先生との奇妙な体験を記す、『日記』である。
僕は平凡な人間であるけれども、そんな平凡な僕の周りで起きることが、全て平凡だとは限らない。劇的で、刺激的で、それでいて悲劇的な出来事というものは、常に世の中で起きている。
ただし、そんな出来事に触れることは滅多にないし、自分から関わりたいなんてこともない。平凡な僕には平凡な生活がお似合いだ。人生にはひとつまみのスパイスを、なんて謳い文句は、刺激の味を知らない無責任な文言だ。僕はそんな刺激なんていらないのだ。
今回の出来事が僕にそう思わせるものとなった。ただ、ひょんなことから先生の記録係をすることになってしまった僕は、非凡な先生との刺激的な出来事を記録する。
先生がなんで平凡な僕なんかを記録係として雇っているのかはわからないけれども、多分、僕が平凡ゆえに物語に干渉することがないからだろう。先生が書く物語の中であれば、所詮僕は登場人物Nくらいの存在だ。AはもちろんBでもHですらない。
直接物語の鍵となることはないし、物語の行く末に干渉することすらない。その物語を読んだ人が、「あー、そんな人いたっけ?」となる程度の存在だ。いわゆるモブである。
だからこそ、記録係には向いているのかもしれない。先生が今回の出来事を物語に起こす際に少しでも役に立てるのならば、僕の価値は証明されると言えるだろう。
まあ、今回の出来事を先生が物語に起こすかどうかはわからないけれども。「事実は小説よりも奇なり」と昔の詩人が表現したそうだが、今回の事件はまさにそれだった。僕は生涯あの時に見た、あの光景を忘れることはないだろう。いや、忘れることができないと言った方が正しいか。
春の夜、満開の桜を照らす美しい満月。だが、あの時、月の光が照らしたのは桜だけではなかった。先に断っておくが、僕が忘れられないと言ったのは、決してトラウマになったからということではない。不謹慎にもあの時の僕は、それを美しいと思ってしまった。
一筋の月光に照らされた、美しき生首を。
それでは、この不思議な日記をここに記すとしよう。




