第三十四話 奥の手
笹良木は閃弾を再度生み出した。
と、同時。敢えて大立ち回りしたことで、バルボラも夜鳥羽と鳴波矢の2人が動けないことを悟る。
「へへへ、決めてやるぜ。【豹変撃劇】!」
「……見せてやるよ、俺の奥の手」
笹良木とバルボラは、同時に閃弾を生み出す。
「【豹変撃劇・4速】」
放たれた10発の閃弾。笹良木へと向かう。
が。その時。
「【星座の煌めき】!」
小さな流星のような閃弾がさらに16発、笹良木を襲う。ビーダップのものだ。
「……!」
それと同時。カイに胸を貫かれ、静馬の背後に横たわっていたはずの坊主の男、ガロウラが立ち上がる。
「!?」
静馬は驚愕する。そしてされるがまま、ガロウラに身体を持ち上げられ、横の部屋へと連れ去られる。
そして、ガロウラは窓から飛び降りた。4階という高さをものともせずズシンと着地する。
「……夜鳥羽……さん」
脱水症状の鳴波矢は、薄れゆく意識の中で呟いた。
〝決める〟〝トドメを差す〟この類の言葉を口にすることは、バルボラ達特殊部隊〝黒豹〟の符牒。
その意味は、〝一斉行動〟。準備が整っていまいが、瀕死だろうが、各々がその場で帝国にとって最大の利益を生み出しうる行動を選択し、実行する。
ガロウラは、夜鳥羽の抹殺を。ビーダップは、笹良木の排除を。
笹良木はその全てを把握してから小さく舌打ちをする。
(【磊落】で撃ち落とす……!
先に、辮髪野郎の弾を──────!)
目の前に直進してくるのは、バルボラの【豹変撃劇】。それは先ほどの【6速】ほどではないが高速の閃弾。
それを相殺する───算段だった。
「……止まった?」
笹良木はそう錯覚した。いやあながち間違いではない。目の前の【豹変撃劇】はたしかに遅くなったのだから。
そこに意識が捕われてた笹良木に、【星座の煌めき】が襲う。
「うぐ……っ!」
そして、遅れて【豹変撃劇】が笹良木を貫いた。
「がは……」
(何が……起きた……)
バルボラの【豹変撃劇】は速度が変わる閃弾。その速度は7段階、状況に応じて使い分けることができる。5速以上の速さ出すためには、一定時間のチャージが必要となる反面、1~4速はいつでも変速できる。
すなわち、先ほどの場面、バルボラは【4速】で放ったあと【1速】に変更したのだ。
「へへへ、どうした。奥の手は? ハッタリだろ?」
「……あるって言ってんだろ」
笹良木は、【星座の煌めき】を喰らったあと、敢えて手を止めた。
用意していた【磊落】を【豹変撃劇】にぶつけようと思えばぶつけることができたにも関わらず。
【星座の煌めき】を喰らった時点で彼の頭をよぎったのは『先手を取られた』。
だから咄嗟に、閃弾を顕現させた右腕を後ろに回した。
閃弾を喰らってでも、守りたかった【磊落】。そして、倒れこみながら、それにありったけの力を注ぎこむ。
「俺の奥の手は、執念だよ……!
【磊落烈破】!!!」
爆ぜる。笹良木の放った一撃はバルボラの前で膨張すると凄まじい爆発を生んだ。
「な……!」
響く爆音と倒壊音。笹良木とバルボラはもちろん、ビーダップまで飲み込んだ爆発は、4階のみならず、3階、5階まで影響を及ぼし崩壊する。3階から5階までが一気に吹き抜けのようになった。
「……!」
静馬を連れ去ったガロウラを追って、奥の部屋に向かっていた鳴波矢はギリギリで崩落を免れていた。
「……いや……!」
自身が向かうべきは、外。そう思い、窓枠に手を掛ける。
「やってみるしか……ない」
鳴波矢の足元には、カイの死体。60kgはあるそれを、よろめく身体で持ってきていた。
紅羽基地側の窓の外。基地内の芝生の上を走り去るガロウラを、彼の異常な視力は捉えている。
「今度は俺が……助けるんだ……!」
鳴波矢は思い出していた。
あの夜。等々力大佐を撃ち抜いた静馬の夜天穿を。
そう、彼はかつて等々力大佐率いる第二大隊に所属していた。鶴崎平野撤退戦の直後、紅羽支部二重包囲網作戦を実行するため、傷んだ身体に鞭を打つように第二大隊が行軍していた。
鳴波矢の閃弾は、一度使えば脱水症状に陥る危険なもの。その特性上、鳴波矢は弾幕に参加できないため盾兵の役割を担っていた。その上、鶴崎平野での戦いでやむを得ず一度使用していた彼の体は、人よりも限界を迎えていたのだ。
そんな時。夜天穿が等々力大佐を貫いた。
彼には、それが願いを叶える流星に見えたのだ。
久世原中佐に引き抜かれ、事実を知った時、彼は打ち震えた。
そして決めた。夜鳥羽静馬を助けになると。
その恩が、想いが、使命感が。
鳴波矢の力に変わる。
「……お手本はさっき見たろ」
右手を前に突き出す。それはまさに静馬の構え。
その指先に、赤い閃弾が顕現する。
「【渦波】ッ……!」
カイの血液を、自らのように感じ取る。そして指先の液体に念じる。
さらに渦巻け、と。
「【渦波螺旋弾】!!!」
流動性を生かした螺旋は、貫通力を増し、空を切る。
──────そしてガロウラの頭を貫いた。
「……が!!」
ガロウラの力が抜け、静馬は紅羽基地の芝生の上に着地する。
そして即座に振り返った。
「笹良木さん……! 鳴波矢さん……!」
北門棟が、崩壊する。
■戦場西側 黄泉沢大佐 VS レグルス
レグルスは昼間の空を駆ける静馬の【夜天穿】を見た。
(あれが、まさか狙撃手の……!?)
その隙を黄泉沢大佐は見逃さない。
「……【怒呉】ォ!」
だが。すでにそこにレグルスはいない。黄泉沢は、全身に喰らった30発の【獅迅刃拳】のダメージが後を引き、戦闘当初に比べて動きが数段落ちている。
「──────楽しめたぜ」
勝負は一瞬だった。レグルスの短距離閃弾が黄泉沢の首元を貫いた。
「うぐ……!」
黄泉沢の【怒呉】は感じたストレスが大きければ大きいほど強化される。
彼の軍人人生の半分以上を、〝地獄突進行軍〟等々力大佐の元で過ごした、その負荷は計り知れない。
だが。死こそ、最大の負荷である。
「……【黄泉怒呉】!」
「──────!」
それは6発の触手の如くうねる巨大な閃弾。倒れつつある黄泉沢の全身から噴き出したそれは、蛇のようにレグルスに迫る。
「チッ……」
レグルスは得意の素早いステップで駆け出す。上から振り下ろされる触手を右にかわすと、正面から迫るもう一本に対し身体を咄嗟に捻る。
「──────がっ!」
しかし、その触手に隠れていたもう一本がレグルスを捕らえる。
一度傷ついた者をさらに地中深くに追い落とす悪魔のごとく、立て続けにさらに【黄泉怒呉】は襲い掛かってきた。
「……!」
が、それは突如としてフッっと消えた。黄泉沢の命の炎が尽きたのである。
「……最後まで気を抜けない奴だ。この俺がここまで追い詰められるとはな」
地に臥した黄泉沢を見る。それから、レグルスは紅羽支部北門を見た。振り返り部下を焚きつける。
「行くぞァ! 狙撃手の元へ!」




