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【暗中飛躍の狙撃手】~軍で落ちこぼれだった少年は誰にも届かない射程で弾幕戦争の英雄になる~  作者: 飛鷹 灯
第六章 紅羽大戦編

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第二十八話 視えない野望


「優等生って感じ」

「誰にでも優しいよねぇ」

「太陽のような男だよ」


 ()を知る人はみな、彼を褒めたたえる。

 彼はやってみようと思ったことが、すぐにできた。そしてそれを言語化する力に長けていた。だから自然と人が集まる、順風満帆な学生時代を送っていた。


 幽澱帝国のとある都市、平凡な家庭に生まれた彼は、周りの人間に恵まれ、彼もまた周囲に良い影響をもたらしていた。


 だから、その学生時代に彼の〝親友〟が逮捕された時、周りの人間は彼に深く同情した。


 親友の罪は懲役54年。少年法を加味しての罰であった。

 彼の住む街から、数キロ先にある、幽澱帝国有数の貧民街(スラム)。そこに住み着いているホームレスを三人殺害してしまったのだ。その遺体は重大な血管をナイフで一裂き、最小の傷で殺害されており計画性の高い事件であると、その街の話題をさらった。


 親友が逮捕されてから、彼は学校のクラスで、心にぽっかりと穴が開いたように無表情で過ごしていた。


 周りは彼を励ます。ひそかに、誰もが彼の〝次の親友〟を狙っていたのだ。


 だが。彼の心はそれどころではない。

 押し殺すのに必死だったからだ、高揚を。

 彼は静かに、静かに、高揚していたのだ。


 親友に罪を擦り付け、自分は今まで通りの日常を送る、完全犯罪を成し遂げたことで。


 彼の名は、ルカ=メロロクィラ。

 嵌められたことを悟った親友は、牢獄から彼をこう呼んでいる。


 「異常者」と。


◇◇◇

■戦場東側


 久世原率いる部隊に簡単に前線を突破された幽澱軍。その中で悔しさを滲ませる青年が一人。


「くそっ……なんで!

 なんでなんでなんでなんで!」


 メルクリウスによって任命された新たな少佐相当官・ルカ=メロロクィラ。ただの二等兵であった彼が、いきなり1000人規模を率いるのは、クライネの読み通り無茶だった。瞬く間に久世原に隙を突かれ、前線崩壊のほころびを生み出してしまう。


 今季軍に入隊したばかりのルカの心の内にあったのは、慢心。壁に当たったこともなく、何でも思い通りに事が進む人生を送ってきた彼にとって、この徴兵も同じだと思い込んでいた。


 メルクリウスに才能を見出された時も、想定通りだった。退屈すら感じた。すぐに名声を得られると思い上がっていたのだ。


 だが、閃弾飛び交う命の奪い合いでは、そうは上手くいかなかった。


 何の才能も持ち得ない凡人が、褒めることしか出来ない大人が、かつて嵌めた間抜けな親友が、自分の姿と重なる。


「───ない、そんなはずはない……俺が何もできないなんてっ……!」


 迫り来る絶望を振り払うようにルカは呟く。


「……待てよ」



 


 戦場東側の鉄盾バリケードに突破口を生み出した久世原中佐は、そのバリケードの中から崩すように、敵の前線を破壊していた。

 戦場の綻びというのは一度生み出されれば伝播する。綻びはパニックを呼び、パニックは連携不和を生む。久世原はそこをさらに的確に抉る。


 幽澱兵は後退せざるを得ず、ジリジリと天照国は前線を上げていった。


 『行ける』久世原がそう確信した時。自らの左脚、太腿に痛みを感じた。


「!?」


 と、同時に騎乗していた馬が地面に崩れ落ちる。咄嗟に右脚から衝撃を吸収するように飛び降りた。


 自らの左脚と、馬の胴体の傷口、それらに共通するのは閃弾で撃たれた跡。


「……流れ弾? …………アイツか」


 久世原は斜め後ろに佇む、不気味な青髪の青年・ルカを見た。そこで信じられない光景に目を見張る。


 久世原の背後、ルカと戦闘していたはずの天照兵が全滅しているのだ。


「いつの間に……!」


「俺は、こんなもんじゃない。ここで終わっていい人間のはずがないっ……!」


 久世原と目があったルカは呟く。そして臨戦体制に入った。ルカは不気味で禍々しさを放つ、そのはずなのに気配がしなかった。


「【暗黒凪風(ドゥンケルフラウテ)】」


 ルカはたしかにそう呟いた。


 直感。その瞬間久世原は咄嗟にそばにいた盾兵の後ろに隠れる。

 そして、見た。久世原の近くにいた味方の兵が、突如として体から血を吹き出し倒れるのを。


「……!

 やはりそうだった……ルカ()の閃弾は、音も無く、姿も見えない……!!」


「ふう、よかった。やっぱりあるよな、才能」


 ルカは自身の右手を動かし確認する。自らが内包する底なしの狂気、それを〝隠し〟続けていた学生時代の彼を表すかのように、〝認知できない閃弾(狂気)〟が発現した。


「【迸雷(ホウライ)】!」


 しかし久世原は冷静になる。閃弾発現時の体の挙動や、不可視の閃弾を扱えるにも関わらずこうして前線に出てきている状況から、ルカの経験不足を見抜いた。


 閃弾戦闘で経験が物を言うのは、攻撃よりも〝防御〟である。閃弾戦闘における防御とは、〝閃弾の相殺〟。放たれた閃弾対し、正面から正確に自身の閃弾を当たる技術がなければならない。


 久世原の閃弾【迸雷】はジグザグに曲がる特性上、防御の難しい部類であり、対ルカとして有効な選択だった。


 ルカは久世原の肩の飾りを見る。


「お前を殺せば俺の失態は払拭されるどころか一気に評価は上がる……!」

暗黒凪風(ドゥンケルフラウテ)】!」


 久世原は、ルカの体が力むのを感じた。それは閃弾発射の合図。それに合わせて久世原も閃弾を放った。


 瞬間、久世原の右腕に激痛が走る。着弾してしまったのだ、ルカの閃弾が。


「……っ!」

(やはり視えない! それに……防御を捨てて攻撃だと……!)


 久世原はルカを見た。ルカは両腕両足に【迸雷】を喰らっているようだ。


「……っ」


「馬鹿な、捨て身? いや違う、まさか、視えてないのか、自分の閃弾が!」


 そう。ルカは自身の閃弾【暗黒凪風(ドゥンケルフラウテ)】を視認できない。あるのは、〝自身の周囲に顕現させ、なんとなくの方向にそれを放つ〟という感覚だけ。ゆえに、まともな防御は取れない。


 先ほどの【迸雷】に対して、自身の周囲を守るように閃弾を放ち、偶然【迸雷】とぶつかった弾丸のみ防御した。常識外れの攻撃が久世原の腕を奪う。


(……だがすでにルカ()無視の息!

 思わぬ伏兵、早めに潰す)


 久世原は、撃ち抜かれた右腕ではなく、左腕を前に突き出し、トドメの閃弾を放つ。


 ルカを囲むように飛んだ十数発の【迸雷】。


 それはルカの上、空中で爆ぜた。

 


「……!? なんだと」


 ルカは適応した。突如として発現した認識できない閃弾を操り防御の術を得た。右腕(利き手)を撃ち抜かれた久世原は、閃弾操作の精密さを欠いている。だがそれを抜きにしてもルカの成長速度は異常だった。


 紛れもない天才を前に、久世原は狼狽する。


 中佐である自分が、一般兵に足止めされている事実。

 そして、ここで立ち止まっていては到底メルクリウスの元へと辿り着けないという予測。


「……そうだよな」


 久世原はルカと三度相対した。それは、目の前の天才を全力で排除するという姿勢の表れ。相打ちでも止めなければならない、久世原は自分を殺し大局を見る。


「悪いが、お前はここで終わりだ。若造」


 ルカはよろよろと立ち上がる。


「俺は名を轟かすんだ、この世になぁ!」



 その時。


 ルカの背後から火炎が急襲した。それをルカはギリギリのところで相殺する。


「久世原中佐! 前線には貴方の指揮が必要です! ここは私に任せてください!」


 そう叫んだのは、第三大隊笹良木隊所属、藤堂朝人。馬に乗り、急いでこちらに駆けてくる。


「【焔苑狐(エンエンコ)二雫(ニダ)】!」


 火炎の閃弾を地面に撃ちおろし、火柱の壁を作る。その隙に久世原に馬を渡した。


「奴は視認できない閃弾を放つ。気をつけろ」


「はい、任せてください」


 そう言って、久世原はさらに駆け抜けていく。ルカは火柱の隙間から藤堂朝人を見た。


久世原(ソイツ)は俺の獲物だ!」


 思いのままに閃弾を放つルカ。朝人は待ち受ける。


「【焔苑狐(エンエンコ)六霧(ムツギリ)】」

 

 それは火の粉をまき散らす閃弾。空間が揺らめき、弾丸の形が顕わとなった。


「丸見えだぜ」


 難なく避けて見せた朝人。ルカはさらに怒りを募らせる。


「……くっそ。お前みたいな雑魚を倒しても意味ないんだよ……!」


「見くびるな。お前の目の前にいるのは未来の英雄だぞ」




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