第二十二話 閃戦の終曲
久世原と笹良木の目線にいたのは西門少佐と、生き残った数少ない兵。
「……西門少佐」
「聞いてください、最期の命令です」
長い息を吐き、西門少佐は話し始めた。
「私たちは、一度幽澱に捕まり、現在解放されました」
「そんな……!」
「君たちも見たでしょう。我々の部下やプレリュード同様、私たちは爆発する閃弾を体内に仕込まれました。いつ爆発してもおかしくない」
久世原と笹良木は黙って聞いていた。
「……寄生型閃弾を仕込んだのは、幽澱帝国の少将、メルクリウス。彼はきっと、私たちが他の兵に助けを求め、他の兵もまた私たちを助けようとする、そこを狙っています」
「……メルクリウス」
「笹良木君、久世原君。君たちは逃げてください。なんとしてでも。
私たちが足止めしますから」
「────え?」
「高威力の爆弾が備わったんです。このまま特攻してやりますよ。きっと幽澱人の頭には無いのでしょう、自らの命を投げ出すような自己犠牲の精神がね」
久世原はふらつく足を踏ん張り大声を上げる。
「……俺も参加します! 俺はまだこの戦争で何も成しちゃいない……!」
「駄目に決まってるでしょう。これは苦肉の策、爆発する運命を背負ってしまった者たちのね」
「しかし……!」
フ、と西門少佐は微笑んで言う。
「だから、最期の命令です。この苦しみを体感したのは後にも先にも君たちだけです。
久世原君、笹良木君。
天照国を守ってください。では」
西門少佐とその部隊は踵を返し敵陣へと向かっていく。
その後ろ姿を、久世原と笹良木は黙って見ていた────
◇◇◇
「──────俺は西門少佐達に助けられ、今、ここにいる。彼らの決死の突撃がなければ俺たちも追い付かれ死んでいただろう」
月明りが淡く照らす薄暗い巨大倉庫。久世原中佐の話を、笹良木少佐と二階部の柱の裏で座っている静馬は黙って聞いていた。
久世原中佐は続ける。
「戦争の引き金は国の上層部が決める。
戦争の指揮は国の上層部が取る。
だが、戦場で命を懸けるのは、俺たち下々の兵だ」
久世原の声は一層大きくなる。
「俺たち筒軽県の民は、国に見捨てられた……!
西門少佐はその国の為に死んだ……!
帝国の一市民であるプレリュードは、国に抗うもその権力に殺された……!!」
そこに笹良木少佐は語り掛ける。
「落ち着けよ、侑。上層部だって戦争をしたいわけじゃないだろうよ、だって俺たちは攻められたんだから。国全体で国を生かす、それが戦争だろう。お前が言っているのは、その戦争の小さな一角を見て喚いているだけだ」
「幽澱帝国の我儘になぜ、国民が巻き込まれなければいけない。我々天照国が気に入らないのであれば、戦争がしたい奴だけで戦えばいい」
久世原の反論に笹良木は立ち上がり声を荒げる。
「仕方ないだろうが! 帝国は強大な軍を持ってる、数も質も桁違いだ!
こちらも人員を割いて対抗しねぇと話にならねぇ!」
久世原は、正面に立つ笹良木から視線を上げた。その先には柱の陰に隠れている静馬がいる。
「最小限の力で最大限の効果を生み出せばいい!
だから……だから必要なんだ。
敵将を的確に撃ち抜く【暗中飛躍の狙撃手】が……!」
「────!」
静馬はハッとした。
「待て、待て待て待て!」
そこに、笹良木少佐が遮るように捲し立てた。
「だからって等々力大佐を暗殺して良いってか!? それが本当に正しいかのか!?」
「無茶な命令を出す上官に殺される部下がいる。どちらにも正しさはなく、立場が違うだけで同じことだ」
「……っ違うだろ……侑! お前は出世のために上官を殺している!
いいか夜鳥羽、まだこの話には続きがある!」
笹良木少佐は上を向いて叫んだ。そして続ける。
「あの後……西門少佐の時間稼ぎのおかげで俺たちは岩宛県まで逃げた。そして食料の補給のためにとある街へ向かった。そこそこデカい街さ。筒軽県民の多くはそこへひとまず避難する予定だったからな。
……俺たちはそこで見たんだ、天照国の人々が争い合っていたのをな!」
「!?」
「一般人にも閃弾を放てるやつは割といる。まぁもちろん大した戦力にはならないがな。
だが小競り合いするには十分だったんだろう。俺たちが到着したころは、壊滅状態だった」
久世原は黙っている。
「生き残りに話を聞いた。食料と住居が限界で、避難民とその街の原住民との間で摩擦が生じたってわけだ。重要なのは、久世原の妻と娘が、その街に避難する予定だったってことさ。そしてその街には、妻と娘の死体はなかったのさ! そうだろ、侑!?」
「……」
「フン、無視かよ。
まぁいい、つまりだ。久世原の妻と娘は争いが起きる前、あるいは起きた直後に逃げ出したと推測できる!
じゃあどこに?
久世原の妻は、実家では山で暮らしていたそうだ、野山で生活する知識と経験はたんまりあるはずだ。
つまり、答えは単純!」
笹良木少佐は手を大きく広げる。
「岩宛県と秋間県の中央に位置する〝白嶺山脈〟!
そこに逃げ込んだ可能性が高い!
岩宛県まで幽澱軍が来ると避難民が予想するのは、当時の情報量では不可能だっただろう。他の街に行った所で、同じような諍いが勃発するのは想像に易い。
であれば街の争いのほとぼりが冷めるまで、娘と山で暮らしたほうが安全である……久世原の妻はそう考えた」
静馬も黙って聞いていた。笹良木少佐はまだ続ける。
「だが甘かった。その後、幽澱軍はそのまま岩宛県まで侵攻を続けたのだ。しかし!
白嶺山脈は険しい岩々と切り立つ崖が乱立する天照国有数の豪雪高山地帯、恐らく幽澱軍も立ち入ってはいない」
まさか、と静馬は呟いた。
「そうさ、まだ生きているかもしれないんだ、久世原の家族は。その白嶺山脈という凍てつく檻の中で!
そして、侑、お前は白嶺山脈を取り戻し! 一刻も早く探し出したいんだろ! 何としてでも!!!」
「────……それも、目的の一つだ」
「認めたな」
笹良木少佐はニヤリと笑う。
「聞いたか、夜鳥羽静馬!
白嶺山脈の奪還も、捜索も、生半可な人数じゃ行えない!
だから出世の必要があるんだ! お前はその目的のために動く、一番都合の良い駒なんだよ!」
「違う」
「何も違わないさ、侑!
いいか、夜鳥羽静馬!
俺は、筒軽支部で侑と同じ気持ちを背負っている! 西門少佐にこの国を任されたんだ!
侑の考えに賛同して今まで狙撃手をやってきているのなら、今度は俺の下に付け!
侑が信用できないんだろ? なぁ!?」
「……っ」
静馬は耐えきれず、倉庫の二階部の柱の裏から二人の前に姿を現した。
そして静馬は右腕を突き出す。
その指の先に居るのは、久世原中佐だ。




