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【暗中飛躍の狙撃手】~軍で落ちこぼれだった少年は誰にも届かない射程で弾幕戦争の英雄になる~  作者: 飛鷹 灯


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第十七話 夜雷を駆ける


「全軍前進! 突破するぞ!」


 そう言って発破をかけるのは、久世原中佐。彼は常に冷静、だが彼の長年の部下から見れば彼は冷静さを失っていた。


 無理もない。静馬を奪われたということは、それはそのまま天照の切り札を失うということ、そして久世原の思惑の崩壊を意味するのだから。


 その時。前線で天照の兵が一気に吹き飛んだ。


「もおお邪魔! 俺はヨトバを殺したいのに!」


 そう、久世原が今まさに相対するは、幽澱帝国の将【六幽魔】が一人、【獅閃(しせん)】のグリフォイア。そしてグリフォイアが率いる大隊である。


「っくそ…! 俺が出る」


 久世原は力を込めた。


「【迸雷(ホウライ)】─────!」




◇◇◇


 朝人はその荷台を包む幌を一気に取り去った。

 馬車の中に光が差し込んだ先にいた男に朝人は目を丸くする。


「夜鳥羽……!?」


「……!」


 静馬にも動揺が走る。朝人は次々と疑問を投げかけた。


「お前が狙撃手なのか? あの時、俺を助けたのも、等々力(とどろき)大佐を暗殺したのも……!」


「……」


 観念した表情で俯く静馬。朝人は静馬の胸ぐらを掴む。


「否定しないんだな……夜鳥羽」


「あぁ……俺が狙撃手だよ、朝人」


 二人の沈黙を、ウォォと言う遠くの戦場の声が破いた。ハッと正気に戻る。


「そうだ、早く逃げるぞ」


 朝人は静馬の腕を掴んだ。


「え?」


「皆がお前を狙ってるんだ……今回の幽澱の拉致だってそうだ。それに、笹良木少佐も多分、お前を利用しようとしてる」


 掴んで腕を引っ張る朝人。だが静馬は動かない。


「……関係あるのかよ、それ」


 静馬は呟いた。


「は?」


 朝人は驚く。静馬は掴まれた腕を振り解き、逆に朝人の腕を掴み返した。


「高台へ連れて行ってくれ、朝人。まだここは戦場だ」


「何を言ってるんだ。言っただろ、皆、夜鳥羽を狙ってるんだ。捕まったら────」


「誰が俺を狙ってるかなんてどうでもいい。

 英雄なら、味方を置いて逃げ帰ったりしないだろ」


「……!」


 朝人はまた驚かされた。


(こいつ……どこまでも英雄思想……!)



 静馬は馬車の荷物を探り、自分の望遠単眼鏡を見つけると、右目に装着してから朝人の馬の後ろに乗った。


「しっかり捕まってろよ」


 そして馬は走り出す。狙撃手を乗せて。


 山を駆け上がり高台へ向かう途中、朝人は静馬に問いかけた。


「ひとつ聞いていいか」


「あぁ」


「等々力大佐の暗殺は、誰かの命令か?」


「……そうだよ。でも実行したのは自分の意志だ」


「そうか。誰かってのは……久世原中佐か?」


「……!」


「ふ、正直だな」


「……何で知ってんだよ」


「笹良木少佐の推測さ。……夜鳥羽、久世原中佐の言いなりになるつもりか?」


「……今のところは。でも『もし、中佐が間違ってると思ったら、中佐を撃ってやればいい』、錆丸中尉がそう言ってたし、俺もそう思う」


「……そうか。笹良木少佐は、久世原中佐がお前を使って独裁軍を作り得るんじゃないかと考えている。……俺もだ」


「いやいや、まさか」


「夜鳥羽、お前は久世原中佐の真意を知らないだろう!? 『間違ってると思ったら』? 思った時にはもう手遅れなんじゃないのか!?」


 静馬はギクリとした。


「……!」


「……ホラ、ついたぞ」


 気づけば戦場を見渡せる高台にいた。

 そこからは二つの戦場が見える。

 一つは、クライネ私設兵vs笹良木隊。

 もう一つは、グリフォイア大隊vs久世原中隊。


 その戦場を見渡す静馬。だが。


「クライネがいない……!」


「俺が狙撃手を取り返すことを予想してトンズラしたか」


「それなら、狙うはグリフォイアだ……!」


◇◇◇


 対峙するのはグリフォイアと久世原。


 兵と閃弾が入り乱れる戦場で、二人だけが互いを意識していた。


「【獅迅牙狩(リオ・ヴォーレン)】!」


 グリフォイアの抉るような閃弾が、久世原の周りの兵を次々に撃ち抜く。


「チッ……【迸雷(ホウライ)】!」


 雷のようにジグザグに進む閃弾・【迸雷(ホウライ)】。この閃弾の性質は後天的に習得できるため使用者は軍内部にも多い。だがその中で久世原の【迸雷(ホウライ)】は圧倒的に()()。 

 

 腕前の見せ所は閃弾の曲がる角度と曲がるテンポにある。

 曲がる角度が鈍角で曲がるテンポが遅いなら、広範囲殲滅。

 曲がる角度が鋭角で曲がるテンポが速いなら、集中火力。


 この二つの中間など、これらを戦場で細かく調整し撃ち分けることで無数のパターンを生み出す。まさしく唯一無二・対応不可の無限の轟雷なのである。


 幽澱兵は久世原の対応に追われ、思い通りの撃ち合いができていなかった。盤面は天照有利に動いていた。


 だが。


「邪魔って言ってんだろぉ!」


 肉塊が弾け飛ぶ。久世原の与えたストレスが、グリフォイアの全力を引き出す。


「【獅迅昇嚙(リオ・ヴァイセン)】!!!」


 久世原の眼に映ったのは、20発程度の閃弾。それが天照軍を襲う。


「……甘い」


 久世原は【迸雷(ホウライ)】を操り、飛んできた【獅迅昇嚙(リオ・ヴァイセン)】を相殺せんと構える。


 ──────違和感。


「……閃弾の数が少ない」


 その次の瞬間。地面から勢いよく飛び出してきた()()に久世原の顎から右頬が抉られる。


「ぐっ……!」


(これは閃弾! 奴が先ほど放った……!)


 それはグリフォイアの【獅迅昇嚙(リオ・ヴァイセン)】。彼の驚異的な抉る閃弾は地面に衝突したとしても動きを止めない。それどころか、地面に潜り掘り進める。そして地中で曲がり、地面から飛び出したのだ。


 グリフォイアは閃弾を顕現させたあと、半分をそのまま空中に放ち、戦場の人混みと土煙でブラインドとなった隙に、残り半分を地面に撃ち込んでいた。


 間一髪で躱した久世原。ズタズタになった右頬からは血が滴り落ち、ズキズキと激痛が走る。

 それでも、久世原は弾幕を緩めない。


「痛みなど想定内だ……! 

 この程度で足を止めたら……()()()()に顔向けできないだろうが!」








「──────きた」


 敵将にヒットしたことで綻んだグリフォイアの隙。狙撃手は見逃していない。


 その集中力に、隣に佇む朝人は息を飲んだ。


「本当に、届くのか? ここから……!?」


「あぁ、俺なら届く。【夜天穿(ヤテンセン)】!」


 鋭く放たれた狙撃弾は、真っすぐにグリフォイアの右の横顔目掛け飛んで行く。




 しかし。




 グリフォイアは突如として右に振り向く。彼は静馬が解放されたことを知らない、故に狙撃のことなど頭に全くないのだ。


 それでも反応した。理由をつけるなら〝野生〟。帝国の南端のスラム街で育った幼少期が、厳しい軍の競争社会が、命を奪い合う赤い戦場が、彼に人間を超えた勘をもたらした。



「何……!」


 静馬の体力の限界、彼は膝をつきながら驚愕する。



「狙撃……ヨトバか!」


 【夜天穿(ヤテンセン)】はグリフォイアの頬を掠めた。そして、ニヤリと獅子は笑う、獲物を前にした時のように。


「そこに居たか、ヨトバ。くくく、こっち(久世原)をさっさと片づけて───」


 その時。77発の【迸雷(ホウライ)】が放たれた。静馬の【夜天穿(ヤテンセン)】、それは惜しくも外れるも、久世原の心をたしかに奮起させる。


「……そうかよ」


 グリフォイアは静かに呟いた。

 彼の勘は冴え渡っている。その勘が告げた。


 ここで自分は死ぬ、と。


「くそ──────やってみろよぉぉ!!」


 グリフォイア渾身の【獅迅牙狩(リオ・ヴォーレン)】。全ての弾を撃ち落とす算段だ。




 ──────ドス。



 グリフォイアの腹に命中したのは一発の閃弾。


「まさか……どこから!?」


 驚愕するグリフォイア、だがすぐに閃く。

 彼の【獅迅昇嚙(リオ・ヴァイセン)】が抉った地面の通り道、そこを久世原は一発だけ、【迸雷(ホウライ)】を驚異的なコントロールで逆走させた。


「そういうことか……だけど一発だけなら余裕で耐え──────」


 久世原は【迸雷(ホウライ)】の曲がる角度を自在に操る。


 鈍角でも鋭角でも、角度が0°でも。


 グリフォイアの腹に命中した閃弾は、彼の腹を貫くことなく、折り返す。そして少し進んだところで、また折り返す。


「おいおい、まじか」


 少し角度を変えて、また進み、折り返す。その度に体内が抉られる、まるで体中を巨大なムカデが這いずるかの如く、それは続く。閃弾のエネルギーが尽きるまで。


「くそ……! ちくしょぉおぉぉーーー!!!」


 グリフォイアは膝から崩れ落ち、地面に横たわる。体内を駆けずり回った閃弾により、血が各所から滲み出るその皮膚模様はまるで落雷死体のようだった。


 久世原は呟く。


「あの世で詫びろ……【迸雷骸葬(ホウライガイソウ)】」











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