表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

その十二:氷の通路と冬薔薇の妖精たち

 その通路は、床が氷だった。


 粉雪がうすく積もっているところはすべらないが、つるつるの場所を歩くとすべって転けそうになる。

 ヒイラギの生け垣には冬薔薇の花が咲きみだれ、小さな妖精たちがたわむれていた。


『あ、お客さまだ!』

『いらっしゃーい、まっせー!』


 チョウチョの羽やトンボの羽をはやしている美しい妖精たちは、僕の手のひらに乗るくらい小さくて、愛らしい。

 彼らは光を振りまきながら、あたりをぶんぶん飛び回った。


「すごい、おとぎ話の世界だ」

「ほんものの妖精ですね。ここの植物さんたちが、気まぐれに妖精に変化したものみたいですよ」

「へえ、それはすてきな魔法……」


 ツン! と、左側頭部の髪の毛を一本引っ張られた。


『やーい、迷子!』


 なにごとかと左を見たら、


 ツンツン! こんどは右側頭部の髪の毛が引っ張られる。一本ずつ違う妖精が髪の毛を持ち、いろんな方向に引っ張るのだ。


「いたいッ! いたいから、やめて! わあ、そっちへ引っ張るのはやめてくれ!」


 妖精たちは、キャッキャとガラスのベルを鳴らすような笑い声を立てるばかり。まったく聞く耳を持っていない。妖精は気まぐれだから気を付けろ、という伝承を実地で体験したわけだ。


『やーい、迷子だ、迷子になったんだ~! ずいぶん大きな迷子だなー! 大きいのに、恥ずかしいやつだ~!』


「うるさいぞッ!」


 僕は頭をブンブン振り、妖精たちを振り払った。妖精はキャーキャー悲鳴を上げながら、どこかへ散っていった。


『やーい、おバカな子ども~!』


 僕はとっさに生け垣から集めた雪を小さな雪玉にして、妖精の声がした方へ投げつけた。

 雪玉がはじけ、キャーキャー言う声は垣根の向こうに遠ざかっていった。

 それから僕とシャーキスは、冬薔薇の花咲く通路の残りを走り抜けた。


「ゴールへ急ごう、シャーキス」

「るっぷ! ひどい妖精たちでした!」

「まったくだ。僕は、二度と魔法玩具のモチーフには、小さな妖精を使わないことに決めたよ……」


妖精にイタズラされたせいもあり、黙々と歩いていたら、だんだん腹が立ってきた。


「くっそ~。さすがに温厚な僕も、許せなくなってきたぞ」


 いきどおる僕の頭を、僕の右肩に座ったシャーキスがポンポン軽くたたいた。


「るっぷりい。ご主人さまはあの二人の案内人を、許してあげるつもりだったのですか?」


 さすがはシャーキスだ。僕が何を許せないのかわかってくれていた。


「うん。さっきの妖精たちのいたずらは、おそらく魔法使い人形と小熊のぬいぐるみのしわざだと思う」


 ここへ来たのもあいつらの魔法のせいだ。

 僕の目的は、クリスマスにちなんだ美術品の鑑賞だ。それを女王さまは知っている。


「女王さまが名前探しのなぞなぞを出したのは、宮殿を見て回るついでにできる、おまけのゲームだったんだ。それがこれじゃ、美術品を鑑賞することなんかできないじゃないか!」

「るっぷりい。そうですね……」


 女王はニコラオさんの知り合いだし、僕に意地悪なんかしないと思う。


「あの案内人の二人だって、クリスマスの女王さまの部下なんだ。何か事情があってそんなことをしたとしても、いさぎよく謝ったら、許してやろうと思っていたよ」


 だんだん腹が立ってきたぞ。


「さっさとこの庭園迷路を攻略(こうりやく)して、女王さまに(うつた)えてやる!」

「るっぷ! そういえば、女王さまのお名前はわかったのですか?」


「ああ、うん。見当はつけてある。これまで見てきた展示品のなかに、ヒントはあったんだ。その中に名前もあったよ」

「るっぷりいッ!」


 シャーキスは僕の肩から、ポーンと空中に飛び上がった。


「さすがはご主人さまなのです! では、もうわかっているのですね!」

「まあね。でも、どうしてそれが女王さまの名前だと思ったのか、その理由も説明しないと、本当に名前を見つけたことにならないと思うんだ。だって、なぞなぞだもんね。だから、ずっと考えていたんだ」


「女王さまのお名前が、そのお名前である理由ですか?」

「そうだよ。だから女王さまはクリスマスの女王で、ここはクリスマスの宮殿なんだ」


「るっぷりい? その理由とは?」

「あとで、女王さまの前で説明するよ。いまは急ごう!」


 白いクリスマス・ツリーまで、あと少しだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石河翠様にバナーをいただきました!(バナー作成:相内 充希さま) バナーをクリックすると2024冬童話参加作品へ飛びます。
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ