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友人がオレ/俺好みの美少女になってたんだが?  作者: 濃支あんこ


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ロマンチックだと思うなよ その2

「あ〜楽しかった!梅ちゃん、付き合ってくれてありがとうね!」

「……ドウモ」


 数十分後、そこにはツヤツヤとした楽しそうな純正美少女と、妙にやつれた後天性美少女が在った。

 無論楽しくなかった訳ではない。人生で初めての、例え相手がどう思っていたとしても、正真正銘の女の子とのデートなのである。ただ楽しさを緊張と心労と羞恥心が上回っているだけで。童貞(概念)には荷が重かった、ただそれだけの話である。


 なお羞恥心の内訳としては、当初頑張って橙田を案内しようとした梅吉が無事方向音痴を発動し、結局地図を片手に動く橙田が先導していた、という情けないにも程があるものである。今までの人生の中で、今日以上に自らの方向音痴道覚えない具合を恨んだことはない。


「また一緒に周りたいね〜!あ、なんなら今度は青伊ちゃんも一緒にさ!」

「……そ、そう、だね」


 青仁の名前を出され、びくり、と肩を跳ねさせた。橙田と二人っきりという状況で、梅吉がこの体たらくである以上、必然的に会話を切り出すのは橙田の役割になる訳だが。そうなると自然と、共通の友人である青仁の話題が多くなる。


 その事実に、妙にずきりと心が痛む自分が醜くて醜くて、単純な緊張以上に心労という形で梅吉の精神を削っていた。せっかくの女の子とのデート(主観)なのに、自らのくだらない感情のせいで純粋に楽しめなくなっていることが辛い。

 できることなら「苦節十七年正真正銘女の子との初デートだぜ!ヒャッホウ!」になりたかった。


「う〜ん、時間的に、そろそろ青伊ちゃんも映画終わったかなあ」

「た、多分。……あ、L◯NE来たわ」


 スマホを見れば『映画終わった』『来れるものなら来てみろ』なんて呑気な通知が届いている。特に後者、捨てられた分際で態度がデカ過ぎやしないか。自分の立場を理解しているのだろうか。


「じゃあもうお別れかな〜。梅ちゃん、今日は本当にありがとう!と〜っても楽しかったよ!じゃあまた学校で!」

「……うん。じゃ、じゃあ、また」


 まばゆい笑顔で手を大袈裟に振って、また学校で、と梅吉に言ってくれる橙田を見ていると、どうにも複雑な感情が渦巻いて仕方がない。それでもどうにか表面上は取り繕って、梅吉は別れの挨拶を返した。


 度々思うが、橙田自体は本当にとても良い子なのである。外見に見合った内面を備えた、梅吉とは違う正真正銘の美少女だ。だからきっと、梅吉が彼女に醜い嫉妬を向けていることは間違いなのだ。ただ梅吉の心が狭いだけで。そうでなくてはいけなくて。


「……」


 振り返れば、橙田の背が人混みに紛れていく。その背をぼうっと眺めていると、あの日のカラオケでの一幕がフラッシュバックして。結局あの時青仁は何を言ったのか、橙田が何を思ったのか、梅吉は知らない。知らないからこそ、複雑な感情が濁りに濁って、あの日以上に身の内で燻っていた。


「……よし、行くか」


 醜い感情を心の内側にギュッと押し込めて。感情を切り替えるように小さくつぶやき、梅吉は橙田に背を向けた。そしてそのまま数歩歩いた後、徐に梅吉は通行の邪魔にならないように壁際に寄る。そしてそのまま手に持ったままのスマホに触れて、おもむろに電話をかけた。



「あーもしもし青仁?ところで映画館って何階のどこにあったっけ?」

『今すぐ止まれそこから動くな俺が迎えに行く!!!!!』



 それすなわち、救援要請である。赤山梅吉(17)が身につけた方向音痴への究極の対処法だ。


 一応、歩き始めた当初は頑張ってみようと思ったのだ、少し足を動かした段階でそもそも映画館が何階だったか思い出せない事に気がついたから、潔く諦めただけで。我ながら判断の早さが素晴らしい。やはり己はIQ一億の大天才なのでは?


『お前今何階のどこにいんの?あーやっぱいいやとりあえず近くにある店の名前だけ教えて』

「あー……なんか、携帯屋の群れがある。あと今日のオレはちゃんと階数把握してるぜ?多分四階」

『多分って言ってるし、つか映画館と真反対じゃねえか!あーもう面倒くせえなマジで一歩も動くなよ?!動いたらぶっ飛ばすからな?!』

「へーい」


 流石青仁、梅吉がたまに今自分がいる階数も怪しくなる事をよくわかっている。なおこれでもトイレを経由していないだけまだ梅吉的には把握できている方だ。もしこれで仮にトイレに一回程行っていたとしたら、本格的に自分の居場所がわからなくなってくる。


『ていうかお前なんでそんなとこにいんの?そっち多分お前用事ないじゃん』

「いやさ、実はお前を映画館にぶち込んだ後、偶然橙田さんにばったり会ってさ。それでカフェで二人っきりで話した後、一緒に買い物してたんだよ」

『はあ?!つまり何、俺が一人寂しくホラー映画を堪能してた脇でお前は女子とイチャついてたってこと?!』

「お前だってホラー映画堪能してたじゃん。別に良いじゃん。あと正直女子と二人っきりってことへの嬉しさより、自分のコミュ力の低さのせいでメンタルに負ったダメージの方が上回ってたし」

『うっわ。雑魚じゃん。男の風上にも置けねえな』

「うるせえ。オレが雑魚ならお前はミジンコ未満だからな」


 というか、元はと言えば青仁が騙し討ちで梅吉をホラー映画(R15)に連れ込もうとしていたせいである。つまり梅吉は悪くない。あと断言できるがもし仮に立場が逆だったら今頃青仁はしおしおになっている。今の梅吉なんか目じゃない、どこに出しても恥ずかしい立派な干物と化している事だろう。


『いやいやいやいやそんなことはあるはずがな、あっちなみにどうでしたかデートは。ん???』

「んなこと言われてもマジでどうもしねえんだよなあ……だってオレ大半聞かれた事に答えてただけだし。自分から話題なんか提示できないし。あーでも、橙田さんになんでオレらって仲良いの?って聞かれた」

『えっ。どういうこと?』


 言葉だけでは橙田の考えを正しく把握できなかったらしい青仁に、梅吉は通話越しに説明していく。一通り聞き終えた青仁は、納得がいったように口を開いた。


『あーなるほどな。要は俺らのあるはずのない馴れ初めを聞きたかったと。たしかに言われてみりゃ割と意味不だもんな、今の俺ら』

「馴れ初めて」

『え、でもそういう意味じゃねえの?橙田さんの中で俺らって付き合ってるってことになってるから』

「……なるほど?」


 そういえば、紆余曲折あってそういう事になっていた気がしないでもない。となると、あれは梅吉と青仁の交際関係について深く首を突っ込まずに、自らの疑問を解消したかったが故、ということか。


「まあ、たしかに馴れ初めなら劇的なのが欲しいよな。ある日学校の屋上で出会ったとか、そういう」

『わかるけど、実際問題フィクションにありがちな屋上が開放されてる学校って実在してんのか?』

「知らん。多分うちの高校みたいに三階の一部スペースが広場として開放されてる、が精々な気がする。うん、やっぱ劇的な出会いとかフィクションの中にしか存在しねえんだよ」


 屋上はロマンであるが、現実にロマンが実装されているとは限らないのである。それこそ、今の自分達のように。


「だな」

「うっわ。急に背後から声かけてくんなし」

「だって全然気が付かねえから面白くなっちゃって、つい」


 突如スピーカーからではなく、背後から聴き慣れてしまった女の子の声が聞こえてきて、反射的に振り返る。するとこれまた見慣れてしまった美少女フェイスが、憎たらしいダブルピースに彩られていた。特に嬉しくもない煽り顔ダブルピースである。「煽」と「り」を排除し、代わりに「ア」と「ヘ」の字を組み込んで欲しい。いやでも無様系は梅吉的にそこまで食指が動かないというか。


「んでこの後どうする?俺としては映画の感想語りたくてうずうずしてっから、フードコートあたりで昼飯にしたいんだけど」

「良いけど、食事中にグロ描写を懇々と語るなよ」

「…………前向きに検討させていただきます?」

「検討じゃなくて実行しろ!!!!!てかツラだけ取り繕ったって話題が話題な時点で終わってんだよ!!!!!」


 見た目だけならなんかちょっと可愛い感じの顔をしているが、発言内容が終わっている。流石にこれに騙されるほど梅吉は愚かではなかった。


 余談ではあるが、フードコートで駄弁った後、一通り買い物を済ませた青仁が当然のようにスーパーに面白い新商品(青仁基準)探索に付き合わされるハメになったのだが。


「あれっ?!二人ともどうしたの?!もしかしてあたしと同じようにお酢のラインナップ調査しに?!」

「んな意味わかんねえことするわけねえだろ?!面白そうな新商品を探しに来たに決まってんだろ!!!」

「どっちも一丁前に自分の主張が絶対的に正しいみたいなツラしてんじゃねえよ!!!!!お前ら全員意味わかんねえから!!!!!」


 自宅周辺のスーパーの販売されているお酢のラインナップを把握する習性を持つ何にでもお酢を注ぐ女と、自宅周辺のスーパーを定期的に巡回し売れ残りのヤバいブツを回収していく習性を持つゲテモノスキーが出会ってしまった結果、昼下がりのスーパーに最悪のカオスが繰り広げられる事態が発生したりした。頼むから勝手にやって欲しい。

お知らせ

これ以降、多忙につきひと月辺りの更新話数が減少します。早ければ一月末、遅ければ三月半ばまでには一通り用事が片付く予定です。気長にお待ちいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
最新話到達! ものすっごい好きです…梅吉の嫉妬が良き… 青仁もここまで嫉妬には気付いてないだろけどどんな反応するか気になる…案外悦ぶのかな…そして早く進展しろ!! 俺も一茶の立ち位置になりたいような……
感想一覧
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