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発言者のビジュアルってやっぱ大事 その2

『はあ?!僕はただ真実を突きつけただけで……ああ、なんだ兄貴二号、僕に腕っ節で負けた分際で意見すんのか?僕はただ私利私欲の為に深夜の長電話をやってるだけだってのに?いいぜかかって来いよお前ら全員まとめてぶっとばしてやらあ!』

『なんか今すごい音したけど、これ一茶が兄貴二号とやらをぶっ飛ばしに行った音?』

「多分そう。切っていいかなこれ」

『良いんじゃね?おやすみー梅吉』

「おやすみ、青仁」


 しかしこの深夜に響き渡るクソデカボイスという自滅によって、しばらく一茶が通話に構っていられる状況ではなくなったようなので、梅吉と青仁は速やかに通話を切る選択を取ることにした。カフェインガンギマリのチビとは違って、普通に心地よい睡魔に襲われているので。

 真夜中の乱闘をBGMに、寝る前の挨拶を交わして、梅吉はスマホを置く。


『ぜぇ、はぁ、はは、やってやったぞ……!』

「二分も経ってないんだけど」

『ウ◯トラマンでももうちょっと時間かけるぞ』


 まあ光の速さで兄弟を殲滅した一茶が鬼電をかましてきたので、梅吉と青仁に安眠は訪れなかったのだが。


『そりゃあ僕が戦ってるのはウ◯トラ怪獣じゃなくただの人間だからな、きぜ……寝かせば静かになるし』

『今気絶って言いかけたよな?』

『まあまあそんな些細なことはどうだっていいだろ、それより青仁の初恋話をだな』


 原因は不明だが、青仁(現在は美少女のすがた)の初恋話は一茶を惹きつけてやまないようだ。だがお生憎様、奴が望むような美味しい話は存在していない。


「あー……興味津々な所悪いけど、マジで面白くないぞ、青仁のその手の話。ありがちな話すぎて、ネタにできない苦さというか」


 具体的に言うと、積極的に奴の弱みを収集し、時にそれを利用する梅吉と言えど、閉口するレベルのものである。ありふれた話といものは、それ相応に共感力を持つものなので。


『……ほう?』

「いやなんでそこで逆に興味惹かれてんだよ。引き下がれよ。あと断言するけど、これお前が聞いたらお前もダメージ受けるからな」

『……ほほう?』

「だからなんなんだよその反応は!流石にこれはちょっとオレでもどーなのって思うような話なんだよ、やめといた方が身の為だぞ!」

『……ふう』

「殺していいか?」


 一茶が賢者モードみたいな落ち着きっぷりを披露し始めたせいで、梅吉は今なら思いだけで人を殺せる程の殺意を手に入れてしまった。ちょっと大分気持ち悪いのだが、これが一応友人とか世も末か?


『ごちそうさまでした。いや〜こういう方向で飯が美味くなるとはな、うん、最高!』

「最高!じゃねえんだよ何がどうしてそうな、いや待ってキモいから言わなくていいお前絶対ロクなこと言わ」

『ここまで青仁が一言も発してないってのが答えだろ』


 スマホの向こうでサムズアップをかましていそうなバカに噛み付いていると、バカ自身の指摘にふと気がつく。そういえばそうだ、一連の流れにおいて、青仁は一言も発さず、ただ梅吉と一茶の応酬を聞き手に徹していただけである。


 まあでも仕方ないか、奴にとっては古傷もいい所なのだし、と当時を知る梅吉は判断したのだが。この件については第三者である一茶の目には、そうは映らなかったようで。


『なあ青仁、普段は自分のこと容赦なく罵ってくるかわいい女の子ボイスが、自分のことを庇ってくれる気分はどうだ?ギャップ萌えって最高だな?』


 ひどく楽しそうに、青仁を煽った。


 ……まあ、たしかに見方を変えればそう見えなくも?ない気もする。いやでも違うだろ、別に梅吉は特別な対応を取ったつもりはない。以前醜態を晒した時のように嫉妬を爆発させた覚えもなければ、無自覚に思わせぶりな態度をしたりもしていないはず。

 口にするつもりはないが、梅吉は友人として極めて当然の対応を行ったまでだ。強いていうなら武士の情け、とかの概念の方が近しいはずで──


『〜〜〜っ、死ね』


 がたり、と物音が聞こえる。荒い呼吸音がもたらすわかりやすい動揺を梅吉が認識するより先に、力無く小声で一茶に罵倒をかまして青仁が沈黙した。


「……え?どういうこと?今のギャップ萌えに該当してたか?どの辺が?」

『っか〜!無自覚って最高だなあ!うんうん、僕ってば有能だから今日も最高の仕事をしてしまったな!これは自画自賛せざるを得ない!』

「マジで何?そんな悶え死ぬポイント合った?」


 ちょっとこればかりは梅吉には青仁のツボがわからない。わからなすぎて青仁の立場で想像してみても、そもそも自分にそういうシチュエーションが訪れるビジョンが見えず、妄想すら捗らなかった。ただただスマホを耳元に当てて、ベッドに横たわったまま首をひねることしかできない。


『俺明日学校に着いたら、いの一番に一茶殺しに行くね……』

「そんなに?まあいいけど。オレも安眠妨害されてムカつくから加担するわ。一緒に殺ろうぜ」

『元はと言えばお前が……まあいいや、お前悪意ないみたいだし。諸悪の根源の方が利益獲得してるし。じゃあとりま明日朝集合で、一茶の教室に乗り込みに行こうぜ』

「よしきた。いっちょやってやらあ!」

『なんでナチュラルに僕の殺害計画が立てられてるんだ?僕はただお前らに寝落ち通話という有益な機会をもたらしただけだというのに?』


 ちょうどいい感じに一茶にヘイトが溜まってきた所だったので、渡りに船な提案である。全力で乗っかることにする。諸悪の根源はその諸悪っぷりを発揮していたので無視した。


『まあいい。これで目的は達成できたことだし、そろそろ寝』

『は?何俺を辱めに合わせておいて勝手におやすみモードに入ろうとしてんの?お前も初恋話を吐くんだよ!』

「そうだそうだ!オレもなんだかんだ青仁にバラされたんだぞ!オレは青仁の話知ってるけど言わなかったのに!」


 さらっと通話を切ろうとした一茶を二人がかりで止めにかかる。これが対面であったのなら、全力で腕を肩に回していた所である。遠隔であるが故に、単純かつ最も有効的な物理的手段に訴えることができないことがもどかしい。


 ちなみに、梅吉がしなかった青仁の初恋話とは、中学生のありがち恋バナにて、学年のとある女子が青仁のことを好きらしいと話題になった所から悲劇が始まった。

 人間誰しも単純な生き物であるが故に、実態が九割茶化しであろうと話題にされるとどうしても意識せざるを得ず、更に脈あるんじゃねえの、と言われればその気になってしまうものであり……結末はおそらく皆様のご想像通りと思われるため、詳細は語らない。一つ言えることは梅吉も茶化す側だった、それだけである。だからこそ余計に口を割れなかったとも言う。


『はあ。そんなことを言われても、僕には人に話せるような恋愛絡みの話なんて一つもないぞ』

「嘘つけ!あるに決まってんだろ!」

『吐け!!!!!そしてお前も羞恥心に沈め!!!!!』


 人の事をノリノリで詮索しておいて、一丁前に自らに対する詮索からは逃れようとするなぞ、許される訳がないだろう。何を飄々とした口振りで余裕をぶっこいているのか、と二人がかりで奴を攻めにかかったものの。


『いやだから、僕はそもそも誰のことも好きになったことないんだって』

「えっ可哀想」

『お前、寂しい人生を送ってきたんだな……』

『僕の幸福は百合がこの世に一輪でも多く咲き誇る事であり、別に僕自身が非リアであることは寂しくもなんともないが?』

「頼むからせめて嫌味を嫌味として受け取ってほしい。怖いんだよお前」

『てか誰のこと好きになったこともないのに他人の恋愛奨励してるとか、普通に異常者では?』


 こういう時変態というものは軽率に無敵存在と化すせいで、ろくなダメージを与えられなかった。鬱憤も晴らせず、消化不良も良い所である。

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