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発言者のビジュアルってやっぱ大事 その1

『お前らの寝落ち通話ASMRシチュボが欲しい。欲を言えばKU100で録音して欲しい』

「死ねカス」

『黙れカス』


 上記の発言は、普段は使わないイ◯スタのグループ通話機能における、一茶、梅吉、青仁それぞれの第一声である。いつも通り最初からクライマックスだった。


『は?何言ってんだ梅吉お前だってバイノーラル音声の素晴らしさは知ってるだろ、何故青仁側につく。いやまあKU100は自分でも無茶言ってるのわかってるから、せめてシチュボだけでもな』

「あ?面と向かって……ではないけど堂々とオカズにします宣言して来てる奴にはいそうですか、って頷くわけがないだろ。後普通に眠い。寝かせて欲しい」


 ちなみに現在時刻は深夜零時を過ぎた頃である。梅吉は普通に布団の中でスマホでY◯utubeを見ていた所だったし、ていうか若干うとうとしていたし、なんなら今日も明日も普通に平日なので、ぼちぼち寝ないと明日の授業が普通にしんどい。


『そうだそうだ。俺なんか本読みながら寝落ちしてた所を着信音で起こされたんだぞ』

『いやそれはむしろ僕に感謝するべきだろ。ちなみに今日の僕はミスってコーヒーを飲んじゃったから目がギンギンに冴えて寝れなくて困ってる』

「自滅に他人を巻き込むな勝手に爆発しろ!」


 オカズ入手に暇つぶしを掛け合わせたアホの相手なぞしてやるものか。頼むから早いとこ眠りについて欲しい。てかむしろ永眠しろ。


『あ?!眠れない夜を一人寂しく押し入れに押し込まれて過ごす僕の気持ちとか考えたことないのか?!』

『へー。お前の領地って押し入れなんだ。いい歳してド〇えもんにでも憧れてるの?ガキじゃん』

『なわけないだろ。お前らに電話かけようとしたら、こっちは今から寝るのに何しようとしてんだてめえ、せめて押し入れでやってろって兄貴共と弟に布団ごと押し込まれただけだっつーの』

「ああそういえば一茶お前未だに自分の部屋ないんだっけ。かわいそうに、そんな状態じゃせっかくオカズゲットしても満足に使えないだろ(棒)」


 一軒家で姉と週の半分以上は二人暮しをやっている、一人部屋がきちんとある梅吉には縁のない悩みである。一人っ子である青仁なんて、もっと関係がない話だろう。故に遠慮なく煽り倒した。


『いやそれは風呂にスマホ持ち込めば良いだけだから別に良いんだけど。って僕の事情はどうでも良くってだな。僕のことなんか話題の中心に据えなくて良いから、お前ら二人でなんか良い感じの話をしてもらいたいんだが。僕はそれを録音しつつ寝落ちするから』

「はあ。なら全力で子守唄歌ってやろうか?法華経って名前なんだけど」

『南無阿弥陀仏〜』

『僕は百合への未練を晴らせずに留まる女子校の地縛霊とかいう傍迷惑な存在ではなく、女子校の教室の壁という機能性に優れた存在を将来として見据える非常に優秀な男なんだが?』

「軽率に種族の壁を越えようとするな。お前は無機物じゃなくて有機物、つまり生ゴミなんだよ。燃えるゴミの日に出してやろうか」


 全力でお前を成仏させてやるという強い意志を見せてやったものの、その程度であの変態が止まるはずもなく。深夜だというのに元気に爆走していくだけだった。


 ちなみに読経云々はもれなく全て間違っているが、深夜なので致し方ないことである。


『(無視)お前らを野放しにしたら即座に下ネタに走りそうだから、この僕から直々に話題を提供してやる』

『梅吉〜お前もやったことがあるって見込んで話すんだけど、自分のおっぱいに何かしら棒状のもの挟んでみたことあるよな?』

「あるある。でもあれさ、実質的に女の子視点VRみたいな感じになるからちょっと微妙だよな。まあエロいんだけども」

『僕から提供するテーマは!『初恋』だ!』

『やっておいてなんだけど、ちょっとはガン無視に堪えろよ』


 友情に基づきこれはフリだな?と解釈し、盛大に下ネタをぶちまけた梅吉と青仁だったが、これまた友情に基づき全てを聞かなかったことにして初志貫徹した一茶によって無力化された。結果だけ見るならばディスコミュニケーションここに極まれり、といった有様である。


「ていうかテーマ初恋とか急に言われても。何をどうすれば良いんだ。自分の初恋について話せってことで良いのか」

『多分そうじゃね?知らんけど。おい主催者、なんか言えよ』

『(録音を開始する音)』

「キッッッッッショ。切っていい?」

『切ったら出るまで鬼電するだけだが。もちろん朝までやるが』


 カフェインのせいで脳が覚醒して眠れずイラついているのか、いつにも増して一茶の覚悟がガンギマリしている。頼むから早くおねんねしてほしい。


「つか仮にここでオレらが初恋について話したところで、それはまだちゃんと股間にちんこが搭載されていた時代のオレらの初恋話になる訳だが。それってお前的には良くないだろ」

『あ。たしかに。ただの野郎の恋バナでしかないもんな。そこら辺どうなんだ一茶、さしものお前でもこれは無理だろ』

『僕は賢いから、ビジュアルなしかつかわいい女の子ボイスで女の子に対する初恋の話をしているのならば、それはもう女子の百合的初恋トークとイコールなのでは?という悟りを開いた。後僕はお前らのことを高校からしか知らないから、それ以前の話なら僕的には現実感がないし、いくらでも妄想可能だ』

「だめだこいつ、早くなんとかしないと。ていうかそんなに飢えてんのかよ怖」


 ついにビジュアルが女子なら中身がアレでも良い、的な境地に達してしまったというのか。だとしたらこいつにそろそろ本格的な暴力を振り翳さねばならなくなってくるのだが。


『さあ早く話せ、僕は編集技術があんまりないから、可能な限り僕の声を録音に入れたくないんだよ』

「……おいどうする青仁、こいつ多分放っておいたらマジで朝までコースだぞ」

『俺もう寝たい。だから潔く梅吉がなんか話すべき。お前の初恋事情なんて、どーせ近所のお姉さんか幼稚園の先生か小学校の新任教師の三択なんだから』

「な、何故それを知って……?!き、貴様まさかオレの記憶を覗く異能に目醒めたのかッ?!」


 突然突きつけられた真相が三分の一含まれる三択に絶叫する。梅吉の記憶が正しければ、奴相手に好みのタイプを語ったことはそれなりにあれど、初恋話なんてした覚えはない。一体何故、と心臓が嫌な感じに鼓動を早めていく。


『んなクソショボ異能こっちから願い下げだっつーの。てか適当言っただけなのにマジなのかよこれ、正解したくなかった』

「オレの秘密に当て勘ごときで正解叩き出しておいて何嫌そうな口振りしてんだ責任取れよ!」


 梅吉の心情に反し、正解者はむしろ正解してしまったことに対する嫌気を隠そうともしていなかった。

 かつての淡い思い出を無遠慮に掘り返されたというのに、その対応は酷くないか?いやまあ別にそんな気にしてないけど。


『えぇ……何責任取れって。結婚でもすりゃいいの?パパパパーン、パパパパーンって例の曲適当に口ずさみながらバージンロード歩けってか?』

「花嫁自ら結婚行進曲歌いながら入場すんのか、新しいな」

『は?俺は花婿以外なる予定はないが?』

「ちんこが搭載されてない奴に花婿を名乗る資格はないんだよ!」

『あ゛?!俺は仮に結婚式をやることがあったとしても絶対にドレスは着ないから花婿で良いんだよ!』


 残念ながら梅吉のアンニュイぶって傷心モード(偽)は青仁には通用しなかったようで。いつも通り会話の応酬がポンポンと繰り広げられていく。


『百合っぷるが二人ともウエディングドレスを着るのか、それとも片方はタキシードを着るのか。これは紀元前から議論され続け今も尚答えの出ていない深淵なる問いである。前時代的なステレオタイプな思想に則り、男役と女役を定めるような真似は百合という神聖なるものに対しナンセンスと言えるかもしれないが、古い価値観というものはある一定の魅力や価値がなければ古から現代まで生き残ることがなかったこともまた事実である。全ての選択肢には等しくメリットとデメリットが光と影のように付きまとうものだ光と影の百合は良い。更に具体的な例を出すならば、女子校の王子様同士が結ばれた場合、双方タキシードであったとしたら僕は百億兆万点と叫び感謝に泣き崩れることだろう。この通り最早価値観というものに縛られず、単に個々人の魅力を最大限に増幅させる装束としての』

「黙れ黙れ黙れなんなんだよ急に!怖いんだよお前!!!」

『紀元前にウエディングドレスはないだろ!!!』


 まあそれすらも、深夜テンションにぶちまけられた単純狂気が全てを持っていってしまったのだが。梅吉の恐怖から来る叫びと青仁の微妙にズレたツッコミが、電波に乗って一茶の耳に届く。ただし届いたからといって理解されているかどうかは別問題なのが、現実の非情なところだ。


『まあお前らは僕的には両方ドレス着て挙式あげて欲しいけど。あ、その時は是非呼んでくれ。御祝儀の積立貯金をしたいから、できれば早めに告知もして欲しい』

「なんで初恋の話から一気にゴールインまで行ってんだよおかしいだろ」

『恨むなら僕に燃料を与えた青仁を恨め。軽率に責任取るとか言いやがって!』

『なんで適当に冗談ぶちかましただけで怒られてんだ俺』


 困惑十割な青仁の発言が通話口からもたらされる。世にも珍しい純度百パーセントの青仁のマジレスであった。


『てか梅吉、なんかご大層なこと言ってたけど、結局どうなったんだ』

「?別に。だって幼稚園の時の話なんてもう大分昔だし。今更話しても別にそんなダメージ無えよ」

『あ〜……まあ、そりゃそう』


 あれが初恋だった、という確固たる記憶こそあれど、幼少期の自分と今の自分をどれほど同一視できるのか、という話である。少なくとも梅吉はあまり同一視していない。梅吉はいつだって、課題をやらずにショート動画を見るという選択をした昨日の自分を殺したいと思っているのだから。


『てかマジで一茶はこんなん聞いて一体何がしたいの?お前のオカズになる要素ゼロだろ』

「そうだそうだ!オレらなんか一ミリも美味くないぞ!!!」

『は?何言ってんだお前ら、まだ青仁っていうメインディッシュその二が終わってないだろうが!!!!!』

「うっっっっっるせぇ」

『ねえ鼓膜死んだんだけど。慰謝料百万寄越せよ』


 梅吉的には既に話は終わったつもりだったのだが、一茶にとってはそうではなかったらしく。梅吉と青仁の鼓膜を破壊せんという強い意志を持ったクソデカボイスが、スマホの受話口から響き渡った。

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