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「くそっ、ずるい奴らめ……」
扉を開けると、既に赤目は巨人を召喚していた。この様子だと、防御魔法も発動中に違いない。
「召喚される前に倒す、という作戦はダメだったね」
「まあ、さすがに都合良くはいかないわよね」
赤目が号令をかけると、巨人がうなりながら迫ってきた。混紡を振り回しながら、僕らを叩き潰そうとしてくる。
腕の長さと棍棒の長さからリーチが掴みづらく、可能な限り距離をとって逃げ回るしかない。
「うおっと、あぶねー! 今、ぶおんって風圧きたぜ!」
アルコはローブのせいか、もともとの体力のせいか、逃げ回るのが遅く、巨人に狙われがちなようだった。時間はなさそうだ、早く作戦を実行しないと。
「ファイアアロー!」
成宮さんが火の矢を放つ――が、見えない壁に弾かれてしまう。
「やっぱり、防御魔法もかけられてるみたいね!」
巨人の攻撃を避けながら再度弓を放つが、やはり弾かれる。
「じゃあ、魔法ならどうだ!?」
アルコが杖を回し、風の力を充填しながら赤目へ接近する。
杖を振り魔法を発動させようとした時――
「ギイッ!」
ゴブリンが少しだけ呪文を唱えたあと、杖を地面に打ち付け赤い電流を発生させた。
電流は蛇のように這い寄りまとわりつき、アルコを動けなくする。
「これならどうだ!」
金縛りの隙をつき、剣で赤目を叩き切る――が、これも弾かれてしまう。
「剣もだめか!」
「アルコが!」
見ると、巨人がアルコに迫っていた。
金縛りでアルコは逃げられない。
このままでは成宮さんと同じ運命に――
次の瞬間、アルコのもとに走り、そのまま抱きかかえていた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
抱えるアルコの顔が真っ赤になる。
怒っているようだけど今は緊急事態、お叱りは後で受けよう。
この世界で体力をつけたおかげで、アルコ1人抱えていてもなんとか巨人から逃げることができた。
「オマエなあ!」
腕の中のアルコが抗議の声をあげる。
時間が経ったか、あるいは赤目から距離をおいたせいか魔法が解けたようだった。
「もういいだろ、おろせ!」
要望に従ってアルコをおろす。
成宮さんが駆け寄ってくる。
「剣もダメだったね」
「いえ、見てちょうだい」
赤目が杖を横にして呪文を唱えている。
一瞬、赤目の周囲が球形に光る。
「今のは……」
「ええ、防御魔法を唱えたのよ」
「ってことは、ヒカリの読み通り――」
「ある程度のダメージを超えると壊れる」
成宮さんが推測した、赤目が巨人を召喚した理由のひとつだ。
すなわち、自身を守るため。
防御魔法があるのに?
そう、防御魔法は無敵ではない。なんらかの方法で壊れるのだ。だから、巨人に守らせる必要があった。
「蓄積なのか、一度の攻撃なのか分からないのが嫌だけど……」
「いーじゃん、剣で切れば壊れるんだって分かっただけでもさ」
「ギィッ!」
こちらの作戦が分かったのか、あるいは僕らの余裕が気に食わなかったのか、赤目が巨人をけしかける。
巨人は赤目を守るように僕らとの間に立ちふさがり、棍棒をぶん回す。
「守りながらだからさっきまでより避けやすくなったけど――」
「とはいえヤバイってのは変わらねーぞ」
このまま逃げ続けてもいずれやられる。
覚悟を決めよう。作戦実行だ。
「アルコ! やるぞ!」
「おし、任せたぞ!」
巨人の攻撃の隙をつき、赤目へ接近、再び剣を浴びせようとする。
それに気づいた赤目が杖を打ち付け赤い電流を発生させる。
金縛りを受ける――その時、アルコが割り込み、身代わりとなる。
身動きの取れなくなったアルコの目が「いけ」と伝える。
赤目に走り寄り、剣をぶち当てる。
何かを叩き壊した感触。
赤目の焦った表情が見える。
「後ろ!」
巨人が迫る。
赤目に追撃する暇はない。そのまま距離を取り、巨人の攻撃を避ける。
危機を脱した赤目がにやりとする。
これでいい。作戦通り。
次の瞬間、赤目が燃え上がる。
胸には矢。成宮さんの放ったファイアアローが赤目を燃やし尽くす。
断末魔の叫びが途切れると、巨人は4体のゴブリンへと戻った。
「待ってました。準備はできてるぜ。ウインドカッター!」
赤目が倒れ、自由になったアルコから放たれた風が、ゴブリンたちを蹂躙する。
「うまくいったみたいね」
「さすがヒカリ。作戦通りだな」
「アルコが軽くて助かったよ」
「オマエな……巨人を引き付けるんじゃなかったのかよ!」
「ん? いや、間に合わないと思って」
「ぐぐ……助かったけどさ」
もう敵はいない。先に進もう。




